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Jonny Nash & Suzanne Kraft - Passive Aggressive (Melody As Truth:MAT8)
Jonny Nash & Suzanne Kraft - Passive Aggressive
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「静寂の次に美しい音」というコンセプトを持つECMという有名なレーベルがあるが、Jonny Nashが主宰するこのMelody As Truthもそんな音楽性からは決して遠くないのではと思うこの頃。2014年から活動を始めたこのレーベルは主にJonny NashとSuzanne Kraftの作品をリリースする場所になっているが、ニュー・エイジからバレアリックにアンビエントやドローン等の音楽性の境目を無くしたリスニング性の高い音楽が特徴で、特にアルバムに力を入れた構成力が耳を惹き付けている。本作はそんなレーベルの主軸二人による共同作品だが、今までに二人がソロで手掛けてきた音楽性が反映されながらより抽象度を高めた静謐なアンビエントへと至っている。正にタイトル通りのようにモノクロな電子音のドローンから始まる"Photo With Grey Sky, White Clouds"は物悲しく囁くような繊細なピアノが現れて、薄っすらとした電子音の持続にそっと情緒を付け加えるが、大きな展開はなく静寂さが際立つオープニングだ。"Refractory Cafe"では朗らかなエレピに合わせて弾力のあるウッドベースが刻まれるのが目立ち、動きの多さが静けさの中に落ち着いた躍動を生んでいる。"Hanging Glass Structure"でもウッドベースや透明感のある電子音の持続が聞こえるものの多少の原始的なパーカッションがアクセントになっており、それが素朴さへと繋がっている。"Inside"は特に音の隙間を強調した曲で、微かな持続音に上に一定間隔でピアノのコードを鳴らしてある意味ではミニマル的な展開を見せ、静謐の中に響く美しさが映えるのだろう。一方で"Small Town"では静けさを発するピアノに合わせヴァイオリンだろうか、弦楽器らしき音が強弱を付けて大胆にメロディーをなぞる動きの強い曲で、アルバムの流れの中ではっと目を覚まさせる。ラストの"Time, Being"ではNashによるメランコリーなギターをフィーチャーし、そこにピアノやウッドベースに和んだ電子音も登場して、それらが一体となりぐっと切なさを誘うコンテンポラリー・ミュージックとなっているが、余韻を残す事なくさっと音は消えてしまう辺りにこのアルバムを直ぐにでもリピートさせたいと言う欲望が生まれるのだ。気持ちを高めるでもなく冷めさせるでもなく、淡々とした佇まいを保ちながら空気に馴染んでいくような快適性の高い音楽は、日常の中で心地良い環境音楽になるに違いない。



Check Jonny Nash & Suzanne Kraft
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Garrett - Private Life (Music From Memory:MFM021)
Garrett - Private Life
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過去の時代に埋もれてしまった作品から現行バレアリックまで、知名度に関係なく音楽そのもののに焦点を当て今という時代にも適合する掘り起こしを行い、鋭く確かな審美眼を持つMusic From Memory。新作が出れば当然の如く試聴すべきレーベルの一つであり、このGarrettなる聞き慣れないアーティストのミニアルバムも試聴してみれば、結果的には即購入を決断する程の内容であった。レーベルインフォでは「L.A.のミステリアスなプロデューサーGarrettによるアルバム」との触れ込みだったが、調べてみると実はメロウなモダン・ファンクを手掛けるDam-FunkことDamon G. Riddickによる変名である事を知った。Music From Memoryと言えばジャンルを固定する事なく良質な音楽の紹介に力を入れている事もありファンクな作品をリリースする事も決して意外ではないが、まさかDam-Funkの完全新作をリリースすると予想していた者はいないだろう。しかしMusic From MemoryとDam-Funkの相性は一体どうなのか?という杞憂は、1曲目の"Apocalyptic Sunrise"を聞けば消し飛んでしまう事は間違いない。空へと飛翔するような美しいシンセのアルペジオと痺れる刺激的な電子音がフリーキーな展開となるアンビエント系のこの曲は、確かにレーベルのバレアリックなムードからは全く外れていないどころか、Dam-Funkのコズミックな響きのシンセ使いがレーベルの豊かな音楽性と調和を成している。続く"Right Now"は2分に満たない曲だが、光沢や艶のあるシンセ使いにファットなドラム・マシンによるリズムは正にモダンなPファンクといった趣きだ。残響を強調したリズムで開放感を打ち出した"Slow Motion"は情熱的で咽び泣くようなシンセのラインが夕暮れ時の切なさにも似た郷愁を誘い、ゆったりとした長閑なダウンテンポによってしみじみと感傷的なムード、これをバレアリックと呼ばずして何と呼ぶのか。再度ビートレスな構成で可愛らしい音色と優しさが満ちるコード展開によるキーボード使いに心もほっとする"Sweet Dreams"、タイトル通り甘美な夢に溺れるリスニング系の曲ではメロウネスが際立っている。最も切なく感傷的な"Angel Reflections"は12分にも及ぶ大作で、もやもやしたシンセや繊細なエレピをロマンチックに聞かせて白昼夢に浸るような微睡んだリスニング曲。リズムは入らずに上モノやメロディーだけで情緒を強め、静けさの中に燻り続ける感情性を生んでいる。そしてリズムマシンによる軽快なヒップ・ホップのビートながらも流麗なキーボード使いや太いシンセベースでファンクらしさもある"Home"、有終の美を飾るジャジーなリズム感に耽美なピアノを重ねた余りにも穏やかな"The End Theme"といった流れで、アルバムは平穏を取り戻すように終わる。ヴィヴィッドな緋色のジャケットから感じられる黄昏時の切なさ、アルバムは正にそんな気分に浸れる穏やかなバレアリック・ムードが通底しており、これは確かにMusic From Memoryらしい音楽だと深く感じさせるのだ。



Check "Dam-Funk"
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Mark Barrott & Pete Gooding - La Torre Ibiza Volumen Dos (Hostal La Torre Recordings:HLTR002)
Mark Barrott & Pete Gooding - La Torre Ibiza Volumen Dos
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現行バレアリック最前線、International Feelを束ねるその人こそMark Barrott、そしてPete Goodingと二人でイビサのバレアリックな空気を音像化したのが本作『La Torre Ibiza』シリーズだ。イビサ島にあるホテル「Hostel La Torre」でBGMを担当する前者、同じくイビサにある「Cafe Mambo」でレジデントを担当する後者、そのバレアリック・シーンの中心で活躍する二人だからこそイビサの長閑な雰囲気を伝えるにはこれ以上はないだろう。狂乱にも似たような興奮の坩堝であろうイビサのクラブというイメージはそれは局所的なイメージでしかなく、しかし小さなイビサ島とは言えども平穏で落ち着いた田園地帯もあるわけで、Barrottの示すバレアリックとは正に自然豊かな明るい陽が降り注ぐ開放的なサウンドなのだ。このシリーズは基本的には二人がホテルやカフェでプレイする曲から選曲しているようだが、激しいダンス・ミュージックは皆無でしっとりと肌に寄りそうなラウンジ色が強い。先ずはMusic From Memoryもリイシューを行ったDip In The Poolのクールで洗練されたポップの"On Retinae (East Version)"で開始し、ユニークさもある崩れたビートのディープ・ハウス"Tema Perr Malva"、民族的なソウル・ミュージックと呼ぶべきかアフロな感もある"Diya Gneba"とジャンルとしては全くの統一感無く、しかし平穏な時間帯に浸る事を前提とした選曲。それはバレアリックがジャンルではなく、雰囲気である事を宣言する。 まさかネオアコのThe Duritti Columnの"Otis"まで飛び出すなんて想像だに出来ないが、大空へと響き渡る軽やかなアコギの響きはバレアリックと呼んでも違和感は全くない。中盤のLord Of The Islesの"Expansions"、Tornado Wallaceの"Today"など落ち着いた陶酔感のムードたっぷりな現在形のダンス系もあれば、そしてVangelisによるシネマティックで静かに心に火を灯す"Abraham's Theme"まで情感たっぷりに少しずつ夜の帳が落ちるような雰囲気も。夜とは言っても当然騒ぎ立てるのではなく淑女のような官能が満ち始める闇で、アンビエントで静謐な美しさが光る"Finding"からBarrott自身による新曲である豊かな自然風景も喚起させ開放感溢れる"What About Now ?"まで落ち着いた興奮を呼び起こし、最後は映画「ニキータ」からエキゾチックな響きにニューエイジ風な神聖さも加わった"Learning Time"でうとうとと眠りに落ちていく幕切れ。文章だけでは一見取り留めのない選曲…と思うかもしれないが、これが極上のリラクシング・ミュージックであり、そしてただの部屋をラグジュアリーな雰囲気へと一変させるムード・ミュージックであり、何よりもイビサという街を訪れた事のない人に対してもそこを旅させるような喚起力がある。International Feelを引率するだけあり、非常に説得力のあるコンピレーションだ。



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Gigi Masin For Good Mellows (Suburbia Records:SUCD2002)
Gigi Masin For Good Mellows
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良質な音楽を提供するカフェブームの発端の一つでもある渋谷のCafe Apres-midi。そのオーナーである橋本徹がメロウな音楽にこだわって選曲する『Good Mellows』シリーズは、リスニング性重視しながらも彼の有名なシリーズである『Free Soul』よりも現代のクラブ・ミュージック的でもあり、尚且つ橋本のメロウな音楽への愛情が実直に表現された素晴らしい作品集だ。基本的には作品毎のシーンに合わせて多岐に渡るアーティストの楽曲を収録したコンピレーションではあるのだが、本作は一人のアーティストに焦点を当てたコンピレーションとなっており、それこそ近年再評価著しいアンビエント/音響音楽家であるGigi Masinのメロウな音楽が纏められている。彼が再び日の目を見るようになったのはMusic From Memoryからリリースされたベスト盤の『Talk To The Sea』(過去レビュー)である事は明白だが、ここで橋本はメランコリーなコンセプトを元に更にはMasinが参加しているユニットのGaussian CurveやTempelhofとの共同制作まで幅を広げて、Masinの琴線に触れる音楽性の魅力をあまねく知らせる事に成功している。代表曲である"Clouds"は、滴り落ちるように美しいピアノの響きと静けさの中でか弱く鳴る電子のリフレインが絡み合い、これ以上ない慈愛に包み込むメランコリーな一曲だが、Masinの音楽はそれだけではない。同じくピアノや透明感のある電子音を用いた"Tears Of Clown"は、しかし開放的で晴れ晴れしく、そして祝福を告げるようなトランペットの音色によって天上へと導かれるようだ。Gaussian Curveによって制作された"lmpossible Island"ではユニットらしく音楽性もより豊かで、乾いたドラム・マシンや流麗なギターサウンドに明るめのシンセによって朗らかな情景が描かれ、メランコリーは根底にありつつも懐かしさのある田園風景が目の前に広がるようだ。"My Red Rose"は2016年にリリースされたばかりのアートブック『Plays Hazkara』から選ばれた曲で、つまりは最新のMasinの音楽ではあるのだが、悪い意味ではなくて昔からのMasinの音楽性と大きな変化は無い。繊細でか細いピアノをメインに極力か弱く鳴るドラムマシンやひっそりと装飾する電子音を用い、荒波を立たせる事なく静けさによって感情の起伏を作る作風は、Masinの音響へのこだわりが反映されている。現代のクラブミュージック系のユニットであるTempelhofと共作した"The Dwarf"においても素晴らしい相乗効果を見せており、オレンジ色の朝焼けに遭遇したかのような美しいシンセのレイヤーに耽美なピアノを散らし、自然と郷愁に浸ってしまう感傷的な音楽性を披露している。今までにシリーズを重ねてきて『Good Mellows』、しかしその流れはMasinの音楽こそ最もそのコンセプトを現しているのではと思う程で、その切なさと優しさに満ちた心象風景を有む音の響きは正にメロウの一言。『Good Mellows』と言う言葉通りの嘘偽り無しの世界観に癒される。



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Various - Turn On, Tune In (Lullabies For Insomniacs:LFI 005)
Various - Turn On, Tune In
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2016年にオランダはアムステルダムにて設立されたLullabies For Insomniacsは、ラジオショウやポッドキャストから進化したレーベルで、クラブで機能するダンストラックではなく実験的でアバンギャルドに向かったリスニング向けの音楽性として一貫している。設立から間もないがリリースペースは早く、その動きと呼応するようにレーベルの音楽性を示唆するコンピレーションが早くも今年4月に届けられた。本作にはLullabies For Insomniacsから過去に作品を出したアーティストも含めて7人の作品が収録されているが、確かにどれもこれも一筋縄ではいかないユニークさを持っている。The Magic Carpathiansによる"Thalassa"は悲壮感漂うピアノを軸にエキゾチックなベルの音や不気味な電子音も使用され、クラシックやネオフォークの範囲に収まりそうだが、何処か陰鬱なムードに心は晴れない。
アンビエント的であるのはUnearth Noiseの"Immortality Spell"で、不鮮明な電子音のドローンを用いつつそこにギターらしき音でフリーなソロを被せていくだけの展開のほぼ無い曲だが、普段テクノを聞く耳からは親和性が高い。Sugai Kenの"Bantotenmoku"は過去にリリースされたアルバムに収録された曲だが、フィールド・レコーディングらしき環境音と優しいシンセのリフレインに晴々しいトランペットの音を合わせたアンビエント・ジャズと呼ぶべきか、寺院を思わせるようなスピリチュアル性もあり、日本という国の風土さえも喚起させる世界観がある。同様に風土の音が反映されているのがGeorgiaによる"Mist ∞ Skat"で、NYのチャイナタウンで制作する事が反映されたように中華風なメロディーや打楽器によって長閑な情景が浮かぶリラックスしたリスニング曲。Electroscopeは1996〜2000年に活動していたバンドのようで、本作には1999年作の"December Moods"が収録されている。VCS3シンセサイザーを用いた制作が特徴らしく、霞となって消えそうなボーカルと不安定なシンセの音、そして混沌としたサックスによって退廃的なムードが出現する。年代もジャンルもばらばらではあるので纏まりには欠けたコンピレーションだが、レーベルの実験的な精神を指し示すコンピレーションとして聞く者にそれは正確に伝わるではあろう内容だ。勿論ホームリスニングとしても心地良い時間を約束してくれる。



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Jonny Nash - Eden (Melody As Truth:MAT6)
Jonny Nash - Eden
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バレアリック旋風の中でまだ歴史は浅いものの一際注目を集めているMelody As Truth、それを主宰するのがギタリストのJonny Nashだ。コズミック・ディスコなプロジェクトのDiscossessionの元メンバーとして、ユニットであるLand Of Lightの一人として、そして近年ではバレアリック旋風の真っ只中にいるGaussian Curveのメンバーとしても活躍するNashは、ソロ活動に於いても秀でた作品を残しておりドローンやエコーも用いながらも音の間や静けさに惹き付けられるアンビエントを作り上げている。アルバムとして3枚目の作品になる本作、元々静寂の中にこそ存在する耽美な響きの音楽性が特徴のNashだが、更にここでは何かスピリチュアルで原始的な佇まいも纏っており、それはロンドンのみならずバリ島での録音も影響しているのだろう。開始となる"Agape"では空間を浮遊するぼやけたドローンに微睡みながらも、その中に隠れるように土着的なパーカッションが遠くで聞こえるように響いており、生命の息吹を感じさせるアンビエントな始まりだ。引いては寄せる波の如く繰り返されるレイヤーのような電子音や、そして森の奥地から響いてくるような奇妙な鳴き声や打楽器の響き、"Maroon Crisp"はさながらバリ島のウブドの密林をイメージしているのか。"Down In Babakan"では研ぎ澄まされたピアノを点描風に音和を抑えて鳴らしつつ、ガムランを導入して銅鑼や竹製楽器の異国情緒な雰囲気を生み、どちらかというと瞑想を手助けするニューエイジ寄りな作風だ。"Police Bribe"でも柔らかな鐘の音色や打楽器を用いてガムランの手法を取り入れているが、そのゆったりと胎動する生命的な響きの間に繊細でか弱いピアノ薄いパッドを埋め込んで、しみじみと染み渡るメランコリーが湧き出しいつしか黄昏れてしまう。『Eden』と言うアルバムが示す言葉通りに、なる程確かに本作は現実の世界から逃避し俗世の享楽とは無縁の楽園的な世界にも思われ、これもまたバレアリックという系譜に連なっている。ストレスとは無縁の桃源郷への入り口は、本作を聞けば開けるだろう。



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Suso Saiz - Rainworks (Music From Memory:MFM020)
Suso Saiz - Rainworks
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ダンス・ミュージックから実験的な音楽まで、特別な才能を持っていながらも時代から忘れ去られたようなアーティストの発掘に勤しむアムステルダムのMusic From Memory。ジャンルを狭める事なく音楽そのものの質を見抜き掘り下げる仕事によって、最早センセーションと呼んでも過言ではない程の評価を獲得したレーベルだ。そんなレーベルの恩恵に預かった一人がスパニッシュ・ニューエイジの先駆者であるSuso Saizで、Music From Memoryによって2016年に編集された『Odisea』(過去レビュー)によって、また彼も一躍再評価を得る事に成功した。ギタリストでもあるSaizの音楽には特に静謐なギターの音は欠かす事は出来ないが、またドローン的なエレクトロニクスも用いて桃源郷のようなサウンドを描き出し、ニューエイジともアンビエントとも捉える事の出来る幻想的な音楽性が特徴だ。本作は実に10年ぶり以上となる完全新録のアルバムだが、前述の『Odisea』を気に入った人であればきっと本作も期待を裏切られる事はないだろう壮大なサウンド・スケープに出くわす事が出来る。アナログではA面を丸々使用した"From Memory & The Sky"は20分にも及ぶ大作で、フィールド・レコーディングを用い雷鳴が轟く中に虚ろなギターやピアノに重力場のような重苦しい電子音を配しながら抽象的な音像を持続する中盤まで、それ以降からラストまでは様々な効果音を即興的に用いながら不気味さも漂う荒廃した世界を演出する。そのシリアスな世界から一転して、静謐でか弱いピアノのメロディーから始まり天使の歌声のような音も加わって宗教的な雰囲気を纏いドラマティックに盛り上がる"The Way Of The Water"、同様に悲哀漂うピアノに薄い電子音を被せて静かにスケール感を増していく"The Hiding Place"と、この辺りはSaizのニューエイジ色強めなメランコリーが現れている。"They Don't Love Each Other"では爽やかで明るいギターのアルペジオが躍動し燦々とした太陽の下で踊るような雰囲気もあれば、ロングエコーを用いたギターで層になったような響きを作りそこにピアノや電子音で装飾しながら現代音楽のミニマリズムに影響されたような展開を見せる"Nothing Ends"と、テクニカル的な面での面白みと桃源郷へ誘われるメランコリーを打ち出した響きの両者が上手く一つになっている。Music From Memoryの後押しで脚光を浴びただけでなく、齢60を越えてただ美しいだけではない果敢な前衛も感じさせるその音楽性、まだまだSaizのアイデアが尽きる事はなさそうだ。



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Carmen Villain - Planetarium (Smalltown Supersound:STS31612)
Carmen Villain - Planetarium
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多くの人気アーティストも作品を提供しているノルウェーはオスロのSmalltown Supersound新作は、Carmen Villainなる女性アーティストによるもの。耳にした事のないアーティストだったので調べてみると、元スーパーモデルであり音楽にはまって現在はシンガー・ソングライターとして活動しているそうで、2013年頃からSmalltown Supersoundを拠点にリリースを始めている。音楽性はロックからフォークにエレクトロニカまで及んでいるようだが、EPではBjorn TorskeやPrins Thomasらもリミックスを提供しており、ニューディスコ系のダンス・ミュージックにも興味があるのだろう。新作で注目すべきは近年再評価著しい電子音楽作家のGigi Masinが2曲もリミックスを提供している事で、Masinのファンであれば見逃しは厳禁だ。"Planetarium"は音数の少ない静けさを強調するピアノや電子音を軸に、ウイスパーボイス風な歌も用いて静謐な佇まい際立たせるアンビエント/エレクトロニカ色の強い曲で、闇夜に瞬く星のような静まり返った美しさを持っている。このオリジナルからしてMasinの音楽性との親和性は十分にあるのだが、やはりと言うかMasinのリミックスはそれがMasinの曲にさえ感じられるに新たに装飾されている。ピアノはそのまま用いつつ朧気で儚い電子音も加えた事で何処か冷えた世界観の中にもアンビエントなムードを落とし込んだ"Gigi Masin Remix"、世の中の喧騒から距離を置いた寂静で無垢な曲は侘びしくもある。一方"Gigi Masin Alternate Mix"は彼の電子音響の方面が打ち出ており、ピアノの音色は消え去り繊細な電子音にボーカルが静かに浮かび上がるリミックスは、しかし途中から硬質で締まりのあるハイハットのビートやシンセのシーケンスによって動きを増し、壮大なバレアリック・ミュージックとして生まれ変わっている。今年来日した際にはアコースティック・セットだけではなくテクノ・セットのライブも披露していたが、これは間違いなくその後者に属する曲だ。そして最後にもう1曲、Villain によるインストメンタルの"Safe"も水滴が滴り落ちるようなピアノの旋律と透明感のある電子音が揺らぎ、胸を締め付ける程の感傷を誘うアンビエント風な曲で物悲しい余韻に引きずられる。Villainのオリジナルの楽曲にも魅了されたが、VillainとMasinの音楽的な相性は思いの外良く相乗効果として働いており、リミックスも期待異常の出来だ。



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Akis - Space, Time and Beyond (Selected Works 1986-2016) (Into The Light Records:ITL005)
Akis - Space, Time and Beyond (Selected Works 1986-2016)
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近年目立つのが世界各地に眠る実験的な電子音楽の発掘で、その先端でもあるMusic From Memoryの流れに寄り添うように他からもその動きが活発化している。2012年に設立されたInto The Light Recordsは特にギリシャのレアな音源の編纂に尽力しており、Vangelis KatsoulisやGeorge Theodorakisといったギリシャアーティストの編集盤や又は1978〜1991年にリリースされたギリシャ産の電子音楽のコンピレーションを手掛けたりと、レーベルのコンセプトが明確だ。そのレーベルの新作は当然と言うべきかギリシャのコンポーザーであるAkis Daoutisの編集盤で、タイトル通りに1986〜2016年までの作品を纏めたものだ。Akisについて詳細は分からないものの映画音楽等も手掛けつつ、ジャズ〜ファンク〜フュージョン等も制作するアーティストだそうだが、この30年で公式にリリースされた音源は非常に少ない事からも分かる通り決して高い知名度は無い。しかしここに纏められた未発表も含めた音源を聞くと、ギリシャという地にも予てから面白い電子音楽が存在していた事に驚きを感じずにはいられず、確かに映画音楽も手掛けるアーティストとしての世界観もありながらアンビエントからニューエイジ、または現代的に言うならばバレアリック・ミュージックのような開放感さえ含んでいる音楽が新鮮に響いてくる。牧歌的な笛の音らしき音が静かな幕開けを告げる"Biofields"は映画のオープニングを思わせるような落ち着いた中にも壮大さが広がる曲で、鳥の鳴き声らしき音を背景に美しいシンセの持続音が伸びる"New Age Rising (Part I)"はアンビエントにも接近しつつ中盤からは多幸感溢れるシンセのアルペジオでバレアリックへと飛翔する。その一方で不気味な電子音が蠢きアブストラクトな音響を鳴らして実験的な方面へと向かった"The Powers of Pi"や、逆に哀愁をたっぷりと打ち出してしみじみとしたシンセポップ調の"Erotica"など、編集盤だけあって曲調は様々だ。9分超えの大作である"Solar Rain"は水の音を思わせる環境音らしき音に薄いノイズや無機質な電子音が持続するだけの実験的な曲だが、そこに続く"Christmas"は可愛らしく優しい音色のアルペジオを用いた透明感のある曲調で、こういった曲調の変化はシーンが移り変わる映画を見ているようでもある。メロウものからバレアリックにアンビエント、ひんやりとしたエクスペリメンタルな電子音響まで多岐に渡る音楽性を包括しているが、どれも基本的にはリスニングとして日常の生活に溶け込むような快適性があり、そして制作から30年を経て現在のダンス・ミュージックへと接続するのは何とも面白いものだ。



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Gaussian Curve - The Distance (Music From Memory:MFM018)
Gaussian Curve - The Distance
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音楽のマジックが起きるなら、きっとこんなユニットだとは思わずにいられない組み合わせ、それが現代音楽やバレアリック面から再評価著しいGigi Masin、Melody As Truthを主宰するギタープレイヤーのJonny Nash、そしてイタリアのディスコやバレアリックを掘り起こすMarco Sterk AKA Young MarcoによるGaussian Curve。Masinのスタジオで遊びながら音楽を作っていた事がきっかけでこのユニットが発足し、2014年にはMasin再評価の後押しを行ったMusic From Memoryから初のアルバムをリリース。それ以降はそれぞれが考えるアンビエント〜ニューエイジ〜ディスコな方面で各々の個性を見せ付けていたが、2016年にはアムステルダムで再度スタジオセッションを行う機会があり、その成果が結実したのが本作だ。各々がプレイヤーである事が各曲に強く影響しており、生演奏も電子楽器も分け隔てなく用いながら生命が萌芽するような芳醇な色彩や柔らかい響きを奏で、それらは未だ見果てぬ桃源郷への道を指し示すかのように淡くドリーミーな風景を見せる。"Breathe"ではNashによる物哀しいギターがしっとりと染み、そこに繊細なMasinのピアノやSterkによる淡い電子音が被さりながら、琴線を震わす情緒が湧き出してくる。続くタイトル曲の"The Distance"ではシルクのように滑らかで優しいストリングスとそこに連なる穏やかなリズムが先導し、徐々に空間に割って入るようにNashによる咽び泣きするギターが現れて、木漏れ日が降り注ぐ白昼夢の中を彷徨うようだ。透明感のある情緒的なシンセがリフレインする"Dancing Rain"はMasinのソロワークの延長線上にあるメランコリーな曲だが、"T.O.R."の現代音楽的なミニマル性を強調する機械的なシンセのフレーズにじっくりと感情を刺激するトランペットのソロや浮遊感を伴う電子音を配して水平方向にへと伸びていく感覚は、3人だからこそのニューエイジやバレアリックの要素が融和しているように思われる。そしてうとうと眠りを誘うぼやけたシンセから始まる"Another Place"、ここではMasinによる呟きのような声やか細いピアノ等が慈愛で包む如く鳴っており、今にも壊れそうな程の繊細な優しさに心が穏やかになっていく。何処を切り取っても一点の曇りも無い純真のような真心や優しさに満たされた淡くも繊細なアンビエントやニューエイジ、そして爽快な広がりとなるバレアリック感が自然と溶け合い、ここは天上かユートピアかと思う程の至福な音楽。Music From Memoryと言うレーベルの音楽性、そして3人のそれぞれの音楽性が見事に発揮され、淀む事のない美しきサウンド・スケープが広がっている。



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