2024.01.02 Tuesday
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2022年にアルバム『Do You Feel It Too?』(過去レビュー)をリリースしたばかりのロンドンの気鋭・Seb Wildbloodが、前作からおおよそ一年後の2023年10月に早くも新作『Separation Anxiety』をリリースしている。WildbloodといえばAll My ThoughtsやChurchといった人気レーベルを主宰しA&Rとしても才能を光らせる存在だが、近年は自身自らも積極的にアルバム/EP問わずに制作し、アーティストとしての評価も鰻登りなのは間違いない。テクノやハウスだけではない豊かな音楽性を展開するAll My Thoughtsのレーベルの音楽性と同様に、Wildbloodの作品にもアンビエントやバレアリックにダウンテンポといった多様な要素があり、この新作においても自身で「エレクトロニカ、トランス、インディーズからジャズ、さらにはクラシックからの影響がある」と述べている。しかしそれ以上にこの新作はダンス曲が今まで以上に多く、本人曰くダンスレコードの限界に挑戦したかったとの事だ。それはニュー・エイジの巨匠であるLaraajiやドイツのディープ・ハウサーであるLawrence、モントリオールからTess RobyやスウェーデンのSir WasにMauvといった他アーティストとの共同制作を積極的に取り入れた事からも伝わってきて、ダンス・ミュージックの衝動的な面と多様性の調和を成し遂げている。冒頭の"Hear/Here"ではLaraajiをフィーチャーしているが、勢いが抑えられたブレイク・ビーツの上でオーガニックな響きや透明感のあるエレクトロニクスが淡い水彩画のように融合し、中盤ではビートが消失してニュー・エイジを思わせるスピリチュアルな展開もあり、Laraajiを起用した影響も感じ取れる筈だ。続く"Don't See This"ではLawrenceを起用した事によりブレイク・ビーツのリズムながらも繊細で綺麗な上モノが映えており、Lawrenceらしい叙情的なディープ・ハウス性も生まれ、見事なコラボレーションが結実している。"Separation Anxiety"ではTess Robyが参加しているが、消え入るようなうっとりとする気怠いRobyの歌とメランコリーで幻想的なトラックが上手く調和しており、アルバムの中でも特に切なく感傷的なブレイク・ビーツを聞かせている。そういった勢いのあるダンスとは対照的に"Out There"ではジャズ的な生っぽいリズムと繊細なエレピやエレクトロニクスを合わせて、小休憩の如く心穏やかにするアンビエント・ジャズを聞かせたり、Mauvを起用した"Handshake"ではスピリチュアル・ジャズのようでもあるサックスが妖艶に響く何かの儀式のようなサイケデリアを展開したり、アルバムは曲毎に様相を変えていく。そしてアルバム終盤で一気にピークへと向かうエネルギッシュでメランコリーなディープ・ハウスの"It's Sky Time"から、最後は再度Laraajiが登場する"Slice"で荘厳なシンセが汚れを落とすように心洗われるクラシック風なダウンテンポによって、アルバムは最も美しい瞬間と共に締め括られる。アルバム全体は勢いのあるダンス・ミュージックではる事は間違いないが、それだけでなく夢幻のアンビエント性、リズムの豊かさ、エモーショナルな心象があり、ただ単に踊らせるだけではないWildbloodに依る多様性が込められた内容であろう。
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