Seb Wildblood - Separation Anxiety (All My Thoughts:AMT034)
Seb Wildblood - Separation Anxiety
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2022年にアルバム『Do You Feel It Too?』(過去レビュー)をリリースしたばかりのロンドンの気鋭・Seb Wildbloodが、前作からおおよそ一年後の2023年10月に早くも新作『Separation Anxiety』をリリースしている。WildbloodといえばAll My ThoughtsやChurchといった人気レーベルを主宰しA&Rとしても才能を光らせる存在だが、近年は自身自らも積極的にアルバム/EP問わずに制作し、アーティストとしての評価も鰻登りなのは間違いない。テクノやハウスだけではない豊かな音楽性を展開するAll My Thoughtsのレーベルの音楽性と同様に、Wildbloodの作品にもアンビエントやバレアリックにダウンテンポといった多様な要素があり、この新作においても自身で「エレクトロニカ、トランス、インディーズからジャズ、さらにはクラシックからの影響がある」と述べている。しかしそれ以上にこの新作はダンス曲が今まで以上に多く、本人曰くダンスレコードの限界に挑戦したかったとの事だ。それはニュー・エイジの巨匠であるLaraajiやドイツのディープ・ハウサーであるLawrence、モントリオールからTess RobyやスウェーデンのSir WasにMauvといった他アーティストとの共同制作を積極的に取り入れた事からも伝わってきて、ダンス・ミュージックの衝動的な面と多様性の調和を成し遂げている。冒頭の"Hear/Here"ではLaraajiをフィーチャーしているが、勢いが抑えられたブレイク・ビーツの上でオーガニックな響きや透明感のあるエレクトロニクスが淡い水彩画のように融合し、中盤ではビートが消失してニュー・エイジを思わせるスピリチュアルな展開もあり、Laraajiを起用した影響も感じ取れる筈だ。続く"Don't See This"ではLawrenceを起用した事によりブレイク・ビーツのリズムながらも繊細で綺麗な上モノが映えており、Lawrenceらしい叙情的なディープ・ハウス性も生まれ、見事なコラボレーションが結実している。"Separation Anxiety"ではTess Robyが参加しているが、消え入るようなうっとりとする気怠いRobyの歌とメランコリーで幻想的なトラックが上手く調和しており、アルバムの中でも特に切なく感傷的なブレイク・ビーツを聞かせている。そういった勢いのあるダンスとは対照的に"Out There"ではジャズ的な生っぽいリズムと繊細なエレピやエレクトロニクスを合わせて、小休憩の如く心穏やかにするアンビエント・ジャズを聞かせたり、Mauvを起用した"Handshake"ではスピリチュアル・ジャズのようでもあるサックスが妖艶に響く何かの儀式のようなサイケデリアを展開したり、アルバムは曲毎に様相を変えていく。そしてアルバム終盤で一気にピークへと向かうエネルギッシュでメランコリーなディープ・ハウスの"It's Sky Time"から、最後は再度Laraajiが登場する"Slice"で荘厳なシンセが汚れを落とすように心洗われるクラシック風なダウンテンポによって、アルバムは最も美しい瞬間と共に締め括られる。アルバム全体は勢いのあるダンス・ミュージックではる事は間違いないが、それだけでなく夢幻のアンビエント性、リズムの豊かさ、エモーショナルな心象があり、ただ単に踊らせるだけではないWildbloodに依る多様性が込められた内容であろう。



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| HOUSE16 | 17:47 | comments(0) | - | |
BEST OF 2023
今年も一年間当ブログを御覧頂いた読者の皆様、どうもありがとうございました。コロナ禍という言葉も少しずつ世の中から聞く事が減りながらも、当方は年をとって疲れが溜まる事もありオールナイトのパーティーへ以前のようなペースで行く事は最早なく、そのせいか普段家で聞く音楽もリスニング寄りが多いここ数年。この年間ベストで選ぶ音楽もそんな音楽性が反映されており、また音楽的なアップデートが成されずにベテラン勢ばかりの作品が選ばれているような気もしますが、良いものは良いという事でご容赦ください。また来年も引き続き素敵な音楽を紹介出来るように、細々とでもブログの更新に励みたいと思います。それでは、来年も良いお年を!
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| BEST | 15:51 | comments(0) | - | |
Calm - Moonlight Mellow (Introducing! Productions:ITDC-156)
Calm - Moonlight Mellow
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年末の足音も聞こえてきてしみじみとした気持ちが強くなるこんな時、上げるのではなく微睡みつつ心落ち着かせるこのMIXCDはこれ以上ない程に気分にフィットする。タイトルからして『Moonlight Mellow』(月明かりによる甘美とでも訳せばよいだろうか)なんて小っ恥ずかしくもなるような直球なMIXCDだが、しかしそのタイトルに偽りなしで言葉のイメージがそのまま音を表しているような本作を手掛けたのは、日本のバレアリック/ダウンテンポのシーンを牽引する深川清隆ことCalmだ。実直な感情を吐露し真心を込めるように丁寧な音楽制作を行うCalmだからこそ、こんな気取ったようなタイトルも陳腐にはならずに彼の心に潜むメロウな感情が素直に湧き出し、穏やかに甘美で心地好いグルーヴを紡いでいく。さて、本作はインフォメーションが殆どないので自ら調べてみたのだが、普段は自分が耳にする事のない宮城智之丈、Lemil、Aosakiといったアーティストの曲が集中的に用いられている。どうやらIntroducing! Productionsというレーベル縛りのMIXCDのようで、ローファイ・ヒップホップやダウンテンポにチルアウトな味付けをされた音楽が中心となっている。収録された曲を全く知らないからこそ色眼鏡無しにフラットな気持ちで聞く事が出来たのだが、Calmのファンであれば違和感なく聞ける内容なのは、恐らくレーベルがローファイ・ヒップホップを推しつつもチルアウトな感覚が込められているからで、Calmの音楽性との共通項をCalmが上手く引き出しているからだろう。開始はCalm自身の月の光が零れ落ちるような静謐で幻想的なアンビエント"Moon Shower (Edit Version)"で始まり、そこからtomonojo miyagiによる美しいピアノに対しグリッチ的なビート感に鋭さを感じるエレクトロニカ的な"crack"、そしてOtokazeのざっくりとしたヒップ・ホップ的なビートの上に豪華な音で装飾したメロウな"Celebration"と続き、序盤からゆったりとしつつもビート感が際立ち、そして胸を締め付ける切ないメロウネスが溢れている。暫くはゆったりまったりとヒップホップなビート感が続くものの、中盤にはThe Mickeyrock Galaxyの繊細で優しく語りかけるようなメロウなギターが艷やかな"Night And Day"で休息を挟みつつ、White Rainの小洒落たエレピがリードしつつジャジーでヒップホップなビート感に体が揺れる"Night On The Town"、Cloud NI9Eの虫の鳴き声が響き渡る中に荘厳なピアノとサックスの熱き絡み合いが印象的な"夕月夜"と、展開も振れ出して感情に揺さぶりをかけるようだ。それ以降は貴方自身で聞いて体感して欲しいが、アルバム全体像としてはローファイ・ヒップ・ホップ、または大きな括りではダウンテンポのビート感が気怠く、また控えめに甘美なピアノ使いが目立つメロウな曲が中心で、ジャンルではなくスタイルとしてチルアウト性が十分に発揮されている。レーベル縛りではあるもののCalmらしい美しくメロウな音が満載で、安心して聞ける一枚。



Tracklistは続きで。
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| ETC(MUSIC)6 | 23:15 | comments(0) | - | |
Jonny Nash - Point Of Entry (Melody As Truth:MAT23)
Jonny Nash - Point Of Entry
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ソロアルバムとしては実に4年ぶりとなる本作『Point Of Entry』をリリースしたJonny Nash。Land Of LightやGaussian Curveといったユニットにおけるバレアリック/ニュー・エイジ/アンビエントでの台頭から、Melody As Truthを設立してからの内省的で静謐な美学を持つ音楽を展開し、そういったジャンルの中核を成す一人となった才人。ソロアルバムは4年ぶりと書いたが、この間にも他アーティストと積極的な共同制作を行い、また実験的なMATstudioといったプロジェクトも並行活動していたので決して休んでいたわけではないのだが、コロナ禍という影響もあったかもしれないが2022年には心身共に疲弊してしまい音楽活動から暫く離れていたようだ。そんな休息の中で再出発として制作されていたのが本作で、今までの没入型アンビエント性に加え初心に帰ったように彼のルーツでもあるギター・サウンドが大々的にフィーチャーされており、それは「パーソナル・フォーク・ミュージック」とも述べられている。ジャケットの何処か分からないものの明るく開放感ある小道が描かれた絵は、素朴な原風景を表現しているようにも思われ、私的な感情が強く滲む音楽性をイメージさせたのか。オープニングに用意された"Eternal Life"からして幻想の風景を投影したようなサイケデリックなアシッド・フォークで、残響が効いたギターが揺らめきボーカルさえもぼやけたように加工されて、此処ではない何処かへと誘っていく。続く"Theories"はもう少しフォーキーで指弾きのアコースティック・ギターにリバーブをかけて広い空間性を作り、作り込み過ぎずにシンプルな構成も相まって静寂がより際立ち、穏やかな心象風景を見せる。シングル的な扱いの"All I Ever Needed"も透明感のある綺麗なアコースティック・ギターにディレイをかけつつ重ね合わせ、美しいメロディーを紡ぎ出すシンプルな作風は最早コンテンポラリー・ミュージックでもあり、シンセは浮遊感を持たせているもののメインはギターである。"Light From Three Sides"ではアンビエント・ジャズ界からサックスプレイヤーのJoseph Shabasonを招いており、サックスやシンセの牧歌的な響きに微睡みつつ、ギターにはディレイが大胆にかけられて反復を繰り返すミニマル的な響きが引いては寄せる波のような揺らぎを生み出し、キックは一切入らないもののゆったりと心地好いビート感に包まれる。それがよりアンビエント性を強めたのが"Ditto"で、ミニマルで瞑想的なシンセのフレーズに郷愁溢れる繊細なギターのフレーズを合わせ、更にここでもShabasonが参加し後半からはドローン的なサックスも加わって胸を締め付けるように切ない感情を付け加え、内省的なジャズ・アンビエントを聞かせる。アルバム全体像としてはアコースティックとエレクトロニクスの自然な共存が成り立ち、作り込むのではなく気の赴くままにプレイして自然に生まれたようなギターの演奏が主となり、そこに感情を曝け出したようなエモーショナル性が込められた穏やかなアンビエントと言えよう。アンビエントやニュー・エイジ方面から聞く人が多いだろうが、ポスト・ロックやコンテンポラリー・ジャズの方面から聞く事も可能だろうし、そういったジャンル云々を抜きにして忙しない日常を忘れさせてくれる癒やしの音楽として最適だ。



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| ETC(MUSIC)6 | 21:06 | comments(0) | - | |
Alex From Tokyo presents Japan Vibrations Vol.1 (OCTAVE-LAB:OTLCD5239)
Alex From Tokyo presents Japan Vibrations Vol.1
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「東京のバイブレーション」、何とも胸が高鳴る響きだろうか。本作は特定のジャンルを紹介するものではなく、コンパイラーが日本のクラブミュージックの黎明期である80年代半ばから90年代半ば、東京のクラブで活動する中で衝撃を受けたり魅了された音楽を、当時のシーンの空気を今に伝えるべく選曲して出来上がったコンピレーションである。その選曲者こそ古くからのクラブミュージックのファンであればご存知、パリ生まれで日本で育ち90年半ばから日本でDJとして活動を始め、Space Lab Yellowをはじめとして様々なパーティーで活躍していたAlex From Tokyoだ。または、Sunday Afternoonパーティである「Gallery」のレジデントの一人としても名を馳せ、またはInnervisionsからのリリース等でも有名なTokyo Black Starのメンバーとしても活動し、そして海外と日本におけるDJ/アーティストの橋渡し的な活動も行うなど、当時のシーンでも大きな存在感を放っていた一人だ。2004年頃からは拠点をニューヨークへと移し、現在はベルリンで活動をしているようだが、しかし敢えて「東京のバイブレーション」を取り上げるのはやはりそれだけ彼にとっても当時の東京で鳴る音楽は特別だったのだろう。そんな音楽は特定のジャンルに収まらず、テクノやハウスにアンビエントやニュー・ジャズにエレクトロ・ファンクなど多様性豊かに広がっており、リスニング/ダンスという壁を越えて実直に時代の音を伝えるものだ。オープニングからしていきなり細野晴臣の茶道のような侘び寂びのある"Ambient Meditation #3"はニュー・エイジ界の巨匠であるLaraajiも参加した曲で、美しくも何処か非現実的な空想の世界に誘われるアンビエントは、細野のワールド・ミュージック性を無国籍に展開したミステリアスな魅力がある。日本のダウンテンポを引率したSilent Poetsからは"Meaning In The Tone ('95 Space & Oriental)"が収録されており、このリミックスはその名の通りエキゾチックで訝しい粘性の高いメロウなダブ・サウンドへと生まれ変わり、ある意味では原曲よりもその後のSilent Poetsらしいリミックスが秀逸だ。QuadraはKaito名義でも活躍するHiroshi Watanabeの初期プロジェクトの一つで、ここでは敢えてダウンテンポ寄りな"Phantom"が選ばれている。ゆったりとはしているが力強いパーカッシヴなリズムに光沢を発するような優雅な響きのシンセサイザーを用いて、彼らしい熱量高めの感情が燃え盛るようなエモーショナルな作風がこの当時から既に発せられている。所謂クラブ・ミュージックではないかもしれないが、しかしダンスのグルーヴ感を十分に伴う坂本龍一の"Tibetan Dance (Version)"も素晴らしく、ヘビーなのにキレのあるリズム帯とファンキーなギターとベース、豪華なシンセも用いながらエキゾチックかつファンクネスたっぷりに仕上げたこの曲は、日出る国のエレクトロ・ファンクだ。恐らく多くの人は馴染みのないであろうTanzmuzikの一人であるOkihideの"Biskatta"、インテリジェント・テクノ的な幽玄ながらもしかし陽気で遊び心さえ感じられるユーモアなテクノは、当時の中でも異質さが感じられるだろう。そして今は亡き日本のエレクトロニック・ミュージックの偉人の一人である横田進によるPrism名義の"Velvet Nymph"、派手さは削ぎ落とされ清々しく洗われるようなピュアなディープ・ハウスから、最後はCMJKによるC.T. ScanのFrogman Recordsクラシックである"Cold Sleep (The Door Into Summer)"によって、余りにも深遠で余りにも感動的な未来的なトランシーなテクノによって、コンピレーションの幕は下ろされる。有名な曲からそうでなくとも魅力的な曲まで、DJとして実力を持った流石の審美眼によって選ばれた曲群は、往年のファンは当然懐かしく感じ過去を良い時代だったと思う事だろう。しかしAlex From Tokyoが自身でライナーノーツに書いてあるように、本作は「新しい世代の音楽愛好家や作り手にインスピレーションを与える」事を願っており、単に回顧録以上の魅力と意味を持ったコンピレーションだと信じてやまない。



Tracklistは続きで。
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| TECHNO16 | 22:52 | comments(0) | - | |