Julion De'Angelo, Thomas Xu - Roots That Talk (Sound Signature:SS069)
Julion DeAngelo, Thomas Xu - Roots That Talk

基本的にはTheo Parrish自身の作品を中心にリリースを行うSound Signatureも、近年は積極的に外部のアーティストを招いてより音楽的な拡張と深化を行っているが、2017年の中盤にリリースされた本作では完全なるニューカマーを二人もフィーチャーしたスプリット盤だ。Julion De'AngeloとThomas Xuなる経歴も分からないその二人、後者は今までに同レーベルのアートワークを手掛けていたそうだが、どちらともデトロイトのローカルで活動するアーティストだそうだ。勿論、新人とは言えどもそこはレーベル運営において妥協はなくある程度の品質は保証されており、Sound Signatureらしいブラックネス溢れる音の彫刻が収録されている。まずDe'Angeloによる"Chase The Summer"だが、乾いて金属的な響きのリズムが生々しさを演出するロウ・ハウスは正にレーベルの音楽性を主張しているようで、変則的なビート感ながらも無駄が削ぎ落とされたミニマリズムによってずぶずぶと嵌めながら、途中から入るヒプノティックなシンセの音色が簡素な構成の中に味わいを添えている。対してThomas Xuによる"Alottochewon"は極度にブーストされた鈍いベースラインが浮かび上がり、覚醒的な上モノが控えめに持続する悪っぽいハウスで原始的な衝動も感じさせるが、レーベルの実験的な方面の音楽性が強いだろう。対してB面の方は両者の曲共に粗雑な生々しさはありながらも比較的メロウな作風で、De'Angeloによる小刻みに揺れ動くエレピの愛くるしい旋律にヒップ・ホップなテイストもあるラフなビートが走って爽やかなエモーションを発する"Pocketfull"と、そしてThomas Xuによるポコポコと抜けの良い土着的なパーカッションを用いて軽さを演出しつつエレピのしみじみとしたリフで心に染みてくる味わい深いハウスの"Acceptance"と、これらも確かにレーベルの熟したソウルネスを継承している。Parrishが敢えてニューカマーを紹介しているだけあって、彼自身の音楽性を継承する存在感があり、今後の活動にも期待したい。



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Allstarr Motomusic, Manuel Costela - Love Souls (TH Pressing:THPVS04)
Allstarr Motomusic, Manuel Costela - Love Souls

感情的な響きを武器にテクノ/ディープ・ハウス方面で躍進を続けるTominori Hosoyaが、どちらかと言うと自身の為ではなく他のアーティストの後押しをすべく感情に訴えかける音楽性に共感するアーティストの作品をリリースするレーベルがTH Pressingで、過去にもAnaxanderやRennie Foster、Life RecorderやTakuya Yamashitaらのまごうことなきエモーショナルな曲をリリースして確かな評価を獲得している。そんなレーベルの新作はdeepArtSoundsを主宰するDan PiuのプロジェクトであるAllstarr Motomusic、そしてスペインのディープ・ハウスで知名度を高めつつあるManuel Costelaによるスプリット盤だが、両者とも同じEPにHosoyaの曲と共に収録されたりと音楽的な共通項があるのは間違いない。A面にはAllstarr Motomusicによる2曲が収録されているが、爽快に広がるダビーなパーカッションを用いつつ豊かな色彩感覚を持ったシンセのメロディーや開放的なボーカルで青々しい空を突き抜けていくディープ・ハウスの"Night Romance"からして、滴り落ちるようなピアノの旋律も入っていてHosoyaの清々しくエモーショナルな音楽観と合致している。"Light Of The Soul"の方も微睡んだシンセによってドリーミーな開始から、ゆったりと大らかな4つ打ちのキックが刻む中を清々しい女性ボーカルで抱擁するような柔らかい質感のディープ・ハウスで、淡い色彩で滲んだ風景画のような美しさを含んでいる。B面はCostelaが担当しており、凛とした輝きのあるピアノを軸にジャジーなリズム感で揺蕩うように心地良いビートを刻む"Sunshine Love"ではボーカルがしっとりソウルフルな雰囲気に繋がっており、優しく情熱的なハウスだ。一方"Hurt"ではブレイク・ビーツながらも勢いを落ち着かせて透明感のあるパッドやしっとりとしたシンセによって温かみと仄かな情緒感を打ち出したメロウな曲で、控えめに官能を誘うボーカルも相まってムーディーな世界観を作り上げている。4曲とも心に訴えかけるエモーショナル性を伝えるハウスは、確かにHosoyaの音楽性と共鳴するのは間違いなく、だからこそ自信を持ってTH Pressingから送り出す事が出来たのだろう。



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| HOUSE13 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Paradise Box - Hookup EP (Crimes Of The Future:COTF 014)
Paradise Box - Hookup EP
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ロンドンのCrimes Of The FutureからリリースされたParadise Boxの新作は、このアーティストについて全く情報を持ち合わせていなかったものの、試聴した際にオールド・スクールかつ懐かしい雰囲気やメロウネスを持っているハウスに耳を惹かれてついつい購入したものだ。この名義では過去2014年にEPを1枚出しているだけだが、どうやらメルボルン在住のS. Woodwardのプロジェクトによるものらしく、全くの新人というわけでもなさそうである。"Hookup"はざらついてロウなシカゴ・ハウスらしいリズム感にアシッドの響きや陰鬱なメロディーを用いたハウスではあるが、アシッドのベースに煽られながらも何処かメランコリーな雰囲気は情緒感がふんだんだ。"Running Up That Hill"はKate Bushによる80年代のシンセ・ポップのカバーだが、原曲の壮大でゴージャスな響きや歌を抑制しながらその悲哀に満ちたメロディーをより浮かび上がらせ、シンセ・ポップの感覚は残しつつもコズミック感溢れるニューディスコ的な作風へと生まれ変わり、これはフロアでも心に深く訴えかける見事なカバーに仕上がっている。"Ya Mo Be There"も同様にJames Ingram & Michael McDonaldの80年のシンセ・ポップのカバー作品で、原曲の80年代風の強いアタック感は残しつつインストにした上で温かいドリーミーなシンセで上書きする事で、メロウな郷愁と刺激的なファンク性がより色濃く発揮されたディスコ・ハウス/シンセ・ポップになっている。最後の"Sunrise Energy"は鳥の鳴き声なども取り入れながらブレイク・ビーツで揺らすバレアリック感溢れる開放的なハウスで、しかしこちらもやはりその懐かしいリズム感や音の響きにオールド・スクールな音楽性がある。そもそもが80年代のシンセ・ポップを2曲もカバーしている辺りにParadise Boxのレトロ志向な音楽性は散見しており、それはオリジナルの楽曲へも素直に反映されているのだが、それが現在のシーンにもフィットした作風へと昇華されているのだから単に懐古主義として見過ごすには勿体無い作品だ。



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| HOUSE13 | 15:30 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Aybee & Lars Bartkuhn aka The Astral Walkers - Passage EP (Deepblak:DBR-V031)
Aybee & Lars Bartkuhn aka The Astral Walkers - Passage EP
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遂に2017年末にはディープ・ハウス大旋風を巻き起こしたNeeds名義で作品をリリースしそのプロジェクト復活の狼煙を上げる事に成功したLars Bartkuhn、そしてDeepblakからは才能ある新星を送り出しつつ自身でもアフロやディープ・ハウスから実験的なテクノまで制作するAybee、その両者が手を組んだ話題性十分のプロジェクトがThe Astral Walkersだ。両者ともDJよりは演奏家としての才能が光っており、それは勿論豊かな楽曲性へと反映されているが、電子音楽を用いたダンス・ミュージックに於いても非常に有機的でライブ感溢れる演奏がその根本となっている。本作でも当然の如くギターからピアノにパーカッションやドラム・プログラミング、果てはボーカルまで披露しており、電子音楽と生演奏の狭間を埋めていくような楽曲性はほぼ完成の域に達している。"Passage (Full Experience)"の方は最早Needsの新作として紹介されてもおかしくないフュージョンからの影響も伺えるディープ・ハウスで、弾けるような爽快な4つ打ちのハウス・グルーヴを軸にディレイの効いた開放感あるギターや空間の広がりを演出するシンセで彩り、そしてマリンバらしき朗らかなリフや耽美なピアノなど様々な装飾を緻密に編み込んでいるが、それらは決して過度にはなり過ぎずに絶妙なバランスで用いられているのがセンスの良さなのだろう。ともすればコテコテの作風に成りかねない煌めくような装飾性の高さだが、豊かな響きはありながらも実に洗練されたディープ・ハウスは優雅でさえある。同じ楽曲の異なるバージョンである"Passage (Astral Stroll)"は疾走感と共にミニマル性を高めながら、サイケデリックなギターソロなどによって混沌としてディープなスピリチュアル・ジャズ性を増し、より奥深い空間性が際立つ異色なバージョンだ。やはりNeedsの音楽性に期待するのは前者の方でそちらの華々しい作風に惹かれるが、この作品で手応えを掴んだのか二人は現在もセッションを行っているようで、今後の活動も期待せずにはいられない。



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| HOUSE13 | 21:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Unknown Artist - Drive Time (Feel International:FEELI002)
Unknown Artist - Drive Time

バレアリック・シーンに中心に居るInternational Feelの傘下に2016年に新たに立ち上げられたFeel International、その第二弾は片面プレスで限定300枚のEP。正直なところレーベル毎のコンセプトの差などは明確には提示されていないので分からないものの、本作は10ccの名曲である"I'm Not In Love"をネタにしており話題性は十分だ。と思ったら過去にInternational Feelから2009年にEFEELシリーズの第一弾として同じ曲をネタにしていた"Forbidden Love"もリリースされており、前回と今回が同じ製作者によるものかは不明なものの余程この曲に愛着があるのは間違いないだろう。"Forbidden Love"の方は比較的原曲の形を残したダウンテンポなバレアリック・エディットという趣きだったものの、こちらの"Drive Time"は原曲の一部のボーカル・パートをサンプリングして繰り返し用いた作品だ。哀しげで切なさが染みるリバーブの効いたギターパートとしっとりとしたピアノ、そしてスローモーなドラムのリズムから始まり、前述のメランコリーな歌の部分が繰り返される事で、幾分かツール的な要素も増したバレアリック・バージョン。夏や秋の夕暮時の切なさにも近いメランコリーを誘う、ギターやピアノの有機的な響きがじんわりと体の奥底まで染みるスローモー・ニューディスコでもある。恐らく"Forbidden Love"も本作も手掛けているのはレーベルを主宰するMark Barrottであろうと勘ぐってしまうのは、どちらもダウンテンポな作品でありそれこそBarrottの自然な状態だからだ。このエディット路線、匿名にやるにはもったいない位の良質な内容で、是非ともアルバム単位で聞いてみたいものだ。

| HOUSE13 | 06:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
So Inagawa - Airier EP (Cabaret Recordings:CABARET 014)
So Inagawa - Airier EP

dj masdaとSo Inagawaによって運営されるCabaret Recordingsは、配信は一切行わずにアナログのみのリリースにもかかわらず特にヨーロッパでは高い評価を獲得している日本のレーベルだ。今時のご時世に於いても早々と売り切れになりリプレスを重ねるなど、アナログのみという方針が上手く作用しているレーベルだと思う。そんなレーベルはディープ・ミニマルなInagawaの作品が当初は中心だったものの、レーベルは次第にエレクトロの復権を目指すかのように現代版エレクトロとでも呼ぶべき音楽性に移行し、更なる個性を獲得して今に至る。その間一切リリースが無かったInagawaとレーベルの音楽性の関係は気になっていたが、結局この新作でInagawaはInagawaとぶれる事はなく彼らしい音楽を披露し、やはりレーベルの中枢である事を示唆している。膨張するベースライン、ぼんやりと浮かび上がる優しいパッド、一定間隔に淡々と刻まれるハウシーな4つ打ちの"Airirer"は、無味乾燥とした雰囲気を見せつつも断片的で奥底に微かに聞こえるボイス・サンプルや幽玄なシンセのディレイが入る情緒的な流れもあり、実に慎ましく穏やかなミニマル・ハウスは華麗さを纏っている。すっきりとしながらもスムースに走り跳ねるようなグルーヴの"Petrichor"も、ミニマル的に収束する構成ながらも朧気で幻想的な上モノが舞いながら繊細な音響を発揮し、空間性を感じさせる無駄のないディープなハウスだ。一方で引き締まったエレクトロ的なリズムの感覚もある"Head Over The Clouds"は最近のCabaretらしさも何となく感じ取る事が可能で、チョップされたボイス・サンプルや引き締まったリズムはファンキー色が強いが、勿論Inagawaらしい幻想的な美しさに魅了される上モノのコードが慎ましくも豊かな色彩感覚をもたらしている。レーベルがエレクトロの方向を探る中で自身の道を貫くようにエレガントなミニマル・ハウスを提唱したInagawa、今後もこの路線を求道的に進んで欲しいと願うばかり。

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| HOUSE13 | 14:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Braccio D'Oco - Ata Zero : Baby Steps (Atavisme:ATA 00 BS)
Braccio DOco - Ata Zero : Baby Steps
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Pepe Bradock主宰のAtavismeから2017年にリリースされたBraccio D'Ocoなる正体不明のアーティストによる作品、実はBradock本人による変名活動である。コラージュらしい摩訶不思議なジャケットと同様に彼の音楽もコラージュ風に奇怪なサンプリングを用いて幻惑的なハウス・ミュージックの世界が広がっており、そのユニークな世界観は唯一無二である事に異論はないだろう。A面に収録された"Will Play A Song 4 U"からして既にその得体の知れない、もはやハウスともテクノとも呼べないような捻れた世界観のダンス・ミュージックは、確かにBradockにしか成しえないものだろう。ある程度明確なテッキーな上モノの反復はありながらも、不協和音のようなストリングスや不気味な効果音がそこかしこから浮かんでは消え、軽快なシャッフルするジャジー・グルーヴが淡々と走る捻れまくった世界。その尖ったユニークさはダンス性を損なう事もなく、リスニングとダンスの共存を成している事はBradockのセンスの賜物だろう。がB面は完全に捻れた方向性に振り切れた曲が収録されており、ここまで来るともはや爆発した芸術性のようなものさえ感じられる。"KM Zero"は全くビートの入らない構成だが、そのおかげで奇妙な電子音響やトリップ感のあるメロディーがより強く耳に響くコラージュ音楽で、DJとしてどう使えるのかは想像出来ないが宇宙の未知なる生命体と遭遇したような奇妙な邂逅だ。もはやタイトル自体が意味不明な"@#&$* Square Tones"は国籍不明なダンスビートを刻みつつチョップされたボイス・サンプルも配置して、そして曲の途中でビートや世界観も一気にガラッと変化する展開も繰り広げるなど、ナンセンス極まりないコラージュ・ダンスだ。そして比較的ダンスとしての体裁を残した"Pepe XXX"も、陽気でトリッピーな上モノを散らしながら不気味な呻き声や呟きが導入され、様々なネタを切り貼りする事で異次元空間へと迷い込ませるBradockの狂った音楽観が爆発。敢えてBradock名義ではなくBraccio D'Oco名義でのリリースという事で、普段よりも更に実験性は増しておりクラブ・ミュージックという枠組みを果敢に越えていく作品だ。



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| HOUSE13 | 18:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Pablo Valentino - My Son's Smile (MCDE:MCDE 1215)
Pablo Valentino - My Sons Smile
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MCDE主宰、自身としてもCreative Swing Allianceの一員として活動しフランスのディープ・ハウスにおいて前線に位置するPablo Valentino。ジャズやファンクにディスコといった音楽を咀嚼して、実にエモーショナルなハウスを聞かせる音楽性は、だからこそMotor City Drum Ensembleと共鳴するのも納得だ。さて、ソロ名義では実に4年ぶりとなる新作は、EPのタイトルからも分かる通り彼の息子へと捧げられている。タイトル曲の"My Son's Smile"は正にレーベルの音楽性が発揮されており、優美でしとやかなフェンダー・ローズのメロディを用いつつディスコを思わせる効果音やファンキーなベースを挿入した味わいのあるディープ・ハウスになっているが、息子の笑い声もサンプリングに用いて雰囲気作りに一役買っている。一方で"Atlantic's Calling (One For Portugal)"はデトロイトのビートダウン・ハウスにも接近したスローモーで重心のどっしりした作風で、ざらついたビートが生々しさに繋がりつつも華麗なエレピがしっとりと情緒を付け加えていて、ゆっくりじわじわと染みるエモーショナル性がある。そしてざっくりとしたメロウなヒップ・ホップの"Good Ol' Days"においてもValentinoのエモーショナル性は際立っているが、これもジャズやファンクのみならず黒人音楽というものに対しての造詣があるからこそで、懐の深さは流石MCDEを主宰するだけある。またタイトル曲をSound Signature等でも活躍するNYのアーティストであるGe-Ologyが"My Son's Smile (Ge-ology 'Teach The Babies' Remix)"としてリミックスしているが、オリジナルのフェンダー・ローズから透明感のある綺麗なシンセに置き換え、またリズムは跳ねるような躍動感を獲得してオリジナルよりも綺麗で流麗なテック・ハウスへと変化し、素晴らしいリミックスを披露している。レーベルとしてのMCDEに期待している音楽性がここにはあり、やはりMotor City Drum EnsembleのみならずValentinoも要注目なアーティストである事を証明している。



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DJ Pierre - Wild Pitch : The Story (Get Physical Music:GPMCD174)
DJ Pierre - Wild Pitch : The Story
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RolandのAIRAシリーズの発売の影響も少なからずあるのだろうか、積極的に刷新された名機を用いて現代版とも言える音楽が生まれているアシッド・ハウスのムーブメントは、オリジネーターさえも刺激したに違いない。アシッド・ハウスの元祖である"Acid Tracks"を生み出したPhutureの一員であるDJ Pierreも、近年はPhuture名義でライブを積極的に行いオリジネーターとしての存在感を放っているが、その勢いに乗って遂にキャリア30年の中で初のソロアルバムを完成させた。レーベルの案内に従えばオリジナルとリミックス、そして新旧の曲を収録している事から完全なオリジナル・アルバムではないものの、DJ Pierreによるアシッド・ハウスの魅力は当然としてNY系のソウルフルなハウスまで網羅されており、正にタイトル通りにWild Pitchスタイルの物語を聞く事が出来る。最初にセットされているのはBlunted Dummiesによる1993年作をDJ Pierreがリミックスした"House For All (DJ Pierre Wild PiTcH Mix)"で、オリジナルのソウルフルな雰囲気をいじらずに音質をクリアにしながら、その意味ではモダンさも意識したNY系ハウスになっている。そしてDJ Pierreによる新作である"MuSiQ"も官能的に囁くような女性ボーカルと切ないエレピのメロディーを用いたソウルフルなハウスだが、それは彼が単にアシッド・ハウスの開拓者である事だけでなくハウス・ミュージックに対して求道者である事を示しており、アシッド・ハウス方面しか知らない人にとっては新鮮味もあるかもしれない。序盤はそのようにクラシカルである意味ではこてこての熱量高いハウス・ミュージックが多いが、中盤になると"My Warehouse (DJ Pierre's Wild Pitch Remix)"のように控えめなアシッド・サウンドとギラギラとしたメロディーを武器に、所謂DJ Pierreらしい不気味で妖艶なハウス性が現れてくる。シカゴ・ハウスのレジェンドであるMarshall Jeffersonとの共作である"House Music"も不気味な男性の呟きや暗いベースラインによる催眠的な効果があり、ドラッギーなシカゴ・ハウスにはベテランとしての貫禄も滲み出ている。面白いのはクラシックをアシッド解釈したカバーも手掛けており、メロウなガラージ・クラシックに陽気なアシッドも加えながらも原曲の雰囲気を忠実に守った"Thousand Finger Acid"、快楽的なシンセベースのシーケンスとアシッド・サウンドが絡んで多幸感を増した"I Feel Love (1979 Disco Club Mix)"と、普遍性を損なう事なくアシッドの魅力も盛り込んでいる。最後は1994年の名作"What Is House Muzik"をオリジナルのままに収録しているが、跳ねながらタフなリズムを刻むドラムと覚醒的でアシッディーなメロディー、エネルギーが溢れ出す勢いのあるグルーヴと堂々たるハウスのクラシック的な佇まいがあり、何だかんだでアルバムの中でこの曲が一番カッコイイのは少々悩ましくもある。しかし、アシッド・ハウスが再燃している中でのパイオニアによる初のアルバムと言うだけでも、十分に魅力的な作品である事に変わりはない。尚、アナログは一部の曲しか収録されていないため、本作は絶対にデータでの購入がお勧めである。



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Jun Kamoda - Misty Funk EP (Steel City Dance Discs:SCDD005)
Jun Kamoda - Misty Funk EP

2016年にMister Saturday Night Recordsからのリリースを皮切りにUKはブリストルのBlack Acreからも作品をリリースするなど、今注目を集めているJun Kamoda。またの名をイルリメと名乗る邦人アーティストは、そのイルリメ名義ではヒップ・ホップのラッパーとして、そしてTraks Boysのメンバーと組んだポップス・バンドである(((さらうんど)))の一員としても活動しているが、このJun Kodama名義ではハウス・ミュージックが基軸になっている。Jun Kamoda以前の活動は個人的な好みには合わず全く追っていなかったものの、Mister Saturday Nightからの本人名義でのデビューはそれまでフォローしていなかった当方にとってもサンプリング重視でファンキーながらもユニークなハウスが出てきたなという驚きがあり、それ以降は新作を聞きながら注視をしていた。そして現時点での最新作、こちらがオーストラリアの新興レーベルであるSteel City Dance Discsの第5弾とし2017年の終盤にリリースされたものだ。Jun Kamodaの音楽は例えばUSのソウルフルなハウスとも、欧州の洗練されてディープなハウスとも異なり、何処か遊び心さえも感じられるのはイルリメと同一人物である事が影響しているのは少なくないだろう。軽快に闊歩するような颯爽としたリズム、そしれ切り刻んだようなシンセのポップなメロディーが印象的な"Flaming Flamingo"は、トロピカルの陽気なムードや童心の無邪気さも感じられ、圧力のあるグルーヴやミニマルな構成に頼らない豊かな響きによって楽しませるトラックだ。よりざっくり生っぽいリズム感がファンキーさにも繋がっている"Misty Funk"にしても、嬉々としたポジティブな感覚が強く豊かな色彩を放つシンセが開放的に躍動し、ラフな響きも相まって手作り感のあるハウスは素朴ながらも生き生きとしている。裏面ではスネアのアタック感が強い"The Fine Line"において奇妙な電子音の響きと楽しげなメロディを交差させ、レトロなディスコ感を現在へと復刻させたようなポップな曲も。そしてそれをメルボルンのアーティストであるNite Fleitがリミックスした"The Fine Line (Nite Fleit Remix)"は、麻薬的なシンセベースのラインが暗く惑わせるエレクトロの味付けを行い、原曲とは逆方向に進んだような真夜中のダンス・トラックになっている。どれもこれもまさかイルリメの時には全く予想だに出来なかったユニークなハウス・ミュージックは、またこれもJun Kamodaの新たなる個性となるには間違いなく、新人ではないものの非常に面白いアーティストが出てきたなと思わせられる。



Check Jun Kamoda
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