2023.12.18 Monday
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Vince Watson自身も特別な作品と感じ、そして名作と呼ばれる2002年リリース『Moments In Time』からおおよそ20年、その雰囲気を携えて続編的な意味合いを持った『Another Moment In Time』が今年リリースされた。当時、ディープ・ハウス系のレーベルであるIbadan Recordsからリリースされた事もあり『Moments In Time』はテクノでもありハウスでもあり、流行っていたハードテクノに全く迎合する事なく深遠で美しいシンセのメロディーを用いたエモーショナル性溢れるサウンドを展開し、Watsonのその後の音楽性を決定付けた重要な作品だったと思う。決して派手ではないがじんわりと心に染み入ってきて、何時の間にか何度も聞き入ってしまうクラシカルな風合いさえあり、Watsonの音楽性を語る上で重要な作品となっている。きっと本人もその重要性を常に感じていたからこそ続編を制作する必要性があったのだろうが、20年もの歳月はアーティストがより深化し円熟味を増すには十分な時間であり、この新作は以前にも増して慎み深い情緒と美しいメロディーやハーモニーがあり、そして何よりも上品な優雅さに満ちている。アルバムの扉を開けてみよう、直ぐにWatsonらしいメランコリーなピアノの響きに対しアシッドなうねりも躍動感を持った"Another Moment In Time"が待ち受けているのだが、激しいビートで飲み込むではなく壮大なストーリーを語るような世界観で聞く者を魅了する音楽性は、アルバムのこの後の流れを示唆しているようでもある。ファンであればご存知だろうが"Rendezvous [Finale]"は元々はCarl Craigを魅了しPlanet-Eからリリースされ、その後更にYoruba Recordsからも別バージョンが出る程の人気曲だが、ここでWatsonはフィナーレと銘打ったバージョンを収録している。原曲は非常に美しくかなり艷やかでディープ・ハウス寄りな作品だったが、ここでは軽やかなパーカッションも持ち込んで爽快感を打ち出しながら、その合間に叙情的なピアノとストリングスを配して、疾走する勢いを保ちながらドラマティックに展開させている。"Peace Of Mind"ではデトロイトからJon Dixonをフィーチャーしているのだが、事あるごとに俺はデトロイト・テクノじゃねえと言うWatsonはやはりデトロイト信者である事を痛感させ、Dixonによる希望を感じさせるようなピアノの鍵盤使いが印象的なメロウなディープ・ハウスは、ジャズ的でもありしっかりとDixonの存在感がある曲だ。シングル曲である"Make A Wish"のアシッドも持ち込みよりDJツール的な力強いディープ・ハウスは当然素晴らしいのだが、他にもWatson流にGalaxy 2 Galaxyを解釈したようなエレピソロがエモーショナルでジャズ調なグルーヴ感の"Lost In The Deep"、正に朝を告げるように穏やかなピアノが滴り落ちてくるようでライブバンド的に展開していくようなハウスの"Sunshine"、そしてアルバムの幕を下ろすのに相応しい熱狂を沈めるためのドリーミーなアンビエント・スタイルの"Sleep"と聞き所は満載だ。そして本作は、いや本作に限った話ではないがWatsonの音楽は踊るためだけのものではなく、心に訴えかける感情性や時代を越えていく普遍性があり、何時だって背中を後押ししてくれるような希望の力に溢れている。Watsonの歴代最高作と呼んでも間違いない位に素晴らしいアルバムが完成した。
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