2023.12.05 Tuesday
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Yu Suは今年は上半期にはFFKTに出演し、そして11月には都内のパーティーにも招かれるなど、日本での人気も着実に高まっているように感じられる。中国出身で現在はカナダはバンクーバーで活動する彼女は、2017年以降にデビューしてからTechnicolourやSecond CircleにMusic From Memoryといった著名なレーベルから、ダンスからアンビエント/レフト・フィールドまで巧みにスタイルを変容させ個性溢れるエレクトロニック・ミュージックを生み出し、新世代の期待されるアーティストの一人となっている。2021年には初のアルバム『Yellow River Blue』(過去レビュー)をリリースし、エレクトロニック・ミュージックの見果てぬ先を見据えたような音楽を展開しその才能を決定付けたが、それから2年半ぶりの新作が本作。リリース元はダンスに限らずに奇抜なレフトフィールド性を発揮するPinchy & Friendsからという事もあり、本作はダンスビートもありつつも単純な4つ打ちは皆無で、そして掴みどころの無い不思議なアンビエント性が強く現れている。タイトル曲"I Want an Earth"、催眠的なコードの中を幻想的なギターが残響によって広がりつつフィールド・レコーディングも重ねて此処ではない何処か的な場所へ誘い、そこからエモーショナルなメロディーの反復とクラウトロック的なドラムで勢い付く不思議な曲調。精神世界の探求のような瞑想的感覚もありつつ、しかし有機的なビート感で肉体を突き動かすダンスビートもあり、こういった感覚はYu Suの折衷主義が明白だ。"Counterclockwise"はノンビートな事もありレフト・フィールド性が勝っており、上下するようなシンプルな電子音のシーケンスに弦のような響きを挟み、壮大なシンセも被さったりアジアンな雰囲気の響きも加わったりと、土台は同じ反復を繰り返しつつ表層が刻々と生命のように変化していく厳かながらもドラマティックな曲調だ。"Manta y Menta"では小刻みに跳ねるような軽快なビート感と中華的なフレーズが先導するダンストラックで、彼女のルーツを持ち出しつつも奇妙な効果音や不思議なリズム感によって、モダンなエレクトロニック・ミュージックとしての空気感を纏っている。そして最後の"Pardon"、一転して音を削ぎ落として余白を強調したミニマルスタイル、キックさえも入らずに静謐なピアノが浮かび上がりその合間に柔らかく繊細な電子音が織り込まれるこの曲は、Yu Suの美しいメロディーが際立ち実験的かどうかにかかわらず曲そのものが心に響く。曲毎に様々な表情があり、EPによってはジャンル的にも変化するYu Suらしい魅力がこの一枚に詰まっており、その意味では前アルバムの延長線上にある作品でもあろう。非常に魅力的なのだが残念なのは4曲で18分程度と短く没入する前に聞き終わってしまう事だが、それも含めてまた新作が待ち遠しくなる。
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