Manuel Darquart - The Del Sol EP (Wolf Music Recordings:WOLFEP071)
Manuel Darquart - The Del Sol EP
Amazonで詳しく見る(MP3)

先日Manuel Darquartの旧作を紹介したので、引き続き2023年11月にリリースされた目下最新作である『The Del Sol EP』を紹介したい。先の紹介でもあったようにハウスからイタロ、そしてバレアリックへと言った音楽性が特徴であり、時にイタロ・ハウスの永遠のクラシックである"Sueno Latino"をも思い起こさせるようなドリーミーで楽園的な音楽観が顕著にもなるのだが、古巣Wolf Musicへと帰還しての新作は正にそういった音楽性が強く打ち出された一枚。何と言ってもスペイン語で太陽を意味するタイトルからも分かるように、太陽の輝きが反射する爽やかな海の雰囲気を伴うイタロなドリーム・ハウス色全開で、Darquartに対してはこれを待ち望んでいたのだ。"Jerry's Song"はカラッと乾いたパーカッションにディスコティックなビート感を合わせてのどかでゆったりとした流れだが、光沢感を放つような優美なピアノコードやふわっとしたエレガントなシンセを合わせ、対して底部では重みのあるベースラインによって安定感を生み、至福に満たされたディスコ寄りなハウスのこの曲も魅力十分。しかしやはりタイトル曲の"Del Sol"だろう、どっしりしたビートとダビーなパーカッション、そして幻想的なシンセサイザーの音色を前面に打ち出してロマンティックな夢を見せるような雰囲気で、これぞ90年代のイタロ・ハウスを今に継承する作風。甘ったるく色っぽい女性のポエトリーも挿入され、色彩豊かなシンセの響きとゴージャスなピアノコードが展開する中盤以降は完全に"Sueno Latino"の現代版といっても過言ではないだろう。それをメロウなディープ・ハウスを得意とするSpace Ghostがリミックスした"Del Sol (Space Ghost Remix)"はピアノのフレーズ等は抑えつつ幻想的なシンセ使いを前面に打ち出し、リズムも跳ねるような勢いを得てダンスフロア向けのディープ・ハウスへと仕立てて、Space Ghostらしさを加えたリミックスも秀逸だ。またDarquartによる"The Vibe"、こちらはマイナーコードのシンセと落ち着いたパーカッションの効いた朧気な雰囲気のディープ・ハウスで、ジャジーさもある事からLarry Heardの憂いに満ちたディープ・ハウス路線といったところか。こういった説明だけ聞くと誰かの物真似的に受け取られてしまう危惧もあるが、イタロ・ハウスやディープ・ハウスのクラシカルな部分を継承しながら純度を高めた音楽性と言えばよいのかもしれないし、何より曲そのものがどれも素晴らしく作曲家としての才能を感じさせる。



Check Manuel Darquart
| HOUSE17 | 21:40 | comments(0) | - | |
Jamma-Dee - Perceptions (Nothing But Net:NBN011)
Jamma-Dee - Perceptions
Amazonで詳しく見る(MP3)

2023年も多くの素晴らしい音源がリリースされたおかげで、例に漏れずレビューが間に合わずに年間ベストとして記載出来なかった作品は幾つかあった。それらの一つが本作『Perceptions』で、ロサンゼルスを拠点とするプロデューサーのDyami O'BrienことJamma-Deeによる初のアルバムだ。アーティストの事は全く知らずにこのアルバムを聞いた時に、何だか同郷のモダン・ファンク代表格のDam-Funkを思い起こしてしまったのだが、後から調べてみるとDam-FunkがレジデントDJを務める「Funkmosphere」にも関わるようになり、LAのアーティストと交流を深めたとの情報があったので、Dam-Funkからの影響は間違いなくあったのだろう。音源としては2016年から数年に渡りArcaneから3枚のEPをリリースしただけであったものの、2023年9月に遂にリリースされた本作は実は10年前のスタジオでの実験的な録音を近年になってから手を加えて完成したものだそうで、何だか懐かしい空気感があるのもそのためだろうか。アルバムの音楽性は何と定義したよいのだろうか、ヒップ・ホップかR&Bか、ファンクかブギーか、いやハウスのビート感も聞こえてくるし、それらも引っ括めてDam-Funkの流れからのモダン・ダンクと包括的に呼ぶと伝わり易いかもしれない。幕開けとなる"Up And Down"はねっとりとしながらも力強いロービートの上をメロウな鍵盤コードが続いていくが、ピッチを変えたような奇妙なボーカルサンプルもねじ込まれ、初っ端からメロウながらも熱きファンクネスが炸裂している。"Jamma's Jam"ではMndsgn & Swarvyをフィーチャーしているが、ざっくりとしたヒップ・ホップのビートに艶めかしいベースラインや優美なエレピが加わる事でメロウさを発し、途中からのエモさ爆発なシンセソロやヴィブラフォンも印象的で、これぞモダン・ファンク。Koreatown Oddityを迎えた"Spellbound"は90年代的なアタック感の強いR&B調のビートにノリの良いラップも加わるが、それでも陽気でメロウな雰囲気を保ちじっくりと耳を傾けたくなる魅力がある。ガチャガチャとしたビート感が強くダンサンブルなヒップ・ハウス的な"It Takes A Freak"のように勢いがあり弾けるようなダンストラックもあり、カタカタとしたTR系のパーカッションが効いていてまるでLarry Heardのような叙情的で慎ましいハウスの"Tic-Toc"もあり、甘ったるい歌も色っぽくあるR&B色強めな"Every Morning"もポップで耳に残りやすい。特に印象に残ったのは颯爽とした軽いビート感ながらも耽美なピアノコードとメロウな多重コーラスを活かしてファンキー&スウィートなディープ・ハウス化した"Silly"で、耳に残るフレーズ使いが特に映えている。しかし色々な曲調やビートの差はあれど、アルバム全体の開放的で楽観としたムードはやはり西海岸の音楽性によく感じられるもので、場所柄の影響なのだろうか。彼が気に入っているアーティストとのコラボレーションを紹介するアルバムとした前提で制作されており、その為半数位の曲でゲストを迎えておりそういった事もあって様々なジャンルが一つのアルバムに混在しているのだが、不思議と散漫とした感覚はなくやはり本作はメロウなモダン・ファンクなのだ。



Check Jamma-Dee
| ETC(MUSIC)6 | 22:03 | comments(0) | - | |
Joe Davies - Shields In Full Sunlight (Smallville Records:SMALLVILLE LP16)
Joe Davies - Shields In Full Sunlight
Amazonで詳しく見る(アナログ盤)
 Amazonで詳しく見る(MP3)
ドイツはハンブルグで運営されているかつてはレコードショップ兼レーベルであったSmallville Recordsは、欧州では屈指の幽玄で情緒深いディープ・ハウスを制作しており、時折Larry Heardの音楽とも比較される程に高品質な作品がカタログに並んでいる。そのレーベルの目下最新作はDJ Assam名義でも活動するJoe Daviesによる初のアルバムなのだが、2015年頃からDJ Assam名義で複数のEPは残しているものの目立った活動は伝わってこないので、音楽性に関しては分からない点も多い。そうだとしても信頼に足るレーベルが選んだアーティストだからこそ、本作も当然の如くアンビエントな雰囲気を持ちメランコリーなディープ・ハウスなアルバムは高品質で、レーベル買いと呼ばれる行為を受け入れても損はしないだろう。幕開けはOssiaをフィーチャーした"Hi Life"、優しい陽が射し込む公園で小鳥が囀っているようなフィールド・レコーディングの牧歌的な雰囲気から始まり、アトモスフェリックなシンセが蒸気のように立ち込めながら気怠い眠気と共に清々しさが満ち始め、ノンビート・アンビエントな開始によってアルバムの入り口へ誘い込む。そのままぼんやりとしたままカチッとしたリズムが跳ねる"Echo Form"へと繋がれるが、鋭角的なリズムで躍動感を持ったディープ・ハウスではあるものの軽くアシッドベースが時折唸り叙情的な上モノに惑わされ、ダビーな音響によって深い霧の中を迷うような幻惑的な世界観が続く。一方で"Two Hours Earth Room"ではダンスフロア直結な硬いキックが端正な4つ打ちを刻み、そこにトリッピーかつコズミックな効果音を散りばめながらフラットな流れの幽玄なディープ・ハウスは機能的で、如何にもSmallvilleらしいメランコリーが美しい。アルバムのハイライトはSpace Drum Meditationをフィーチャーした"Cygnus"だろうか、勢いのあるパーカッシブな4つ打ちが走る中を酩酊としてフラフラとした上モノやサイケデリックなアシッド音、緻密に様々な電子音を編み込んでアンビエントやトランスといった要素も含んだ強烈なディープ・ハウスは、9分にも渡ってダンスフロアで覚醒感を煽るに違いない。そういった勢いを持ったグルーヴ感のある曲を通過し、最後に辿り着いたのは夢の中を彷徨っているかのようなぼんやりとした"Nefyn"で、キレのあるビート感ながらも上モノは朧気で真夜中の静けさの中で、深い眠りに就くように徐々にテンションを落としていき穏やかに終了する。ダンスフロアを揺らすも美しいディープ・ハウスから、アンビエント寄りで瞑想系のリスニング曲までバランス良く並んだアルバムで、目新しさは全く感じさせないもののこれぞSmallvilleと呼ぶべき静謐な美しさとメランコリーが存在し、このレーベルの変わらぬ伝統芸のような音楽性は素晴らしい。



Check Joe Davies
| HOUSE17 | 20:53 | comments(0) | - | |
2023/11/2 Traks Boys, Kenji Takimi, Gonno @ 翠月 (Mitsuki)
工場地帯パーティーであるDK Soundを主宰するTraks Boys、そしてKenji Takimi(瀧見憲司)とGonnoが出演するこのパーティーに名前は特に無い。しかし瀧見とGonnoはDK Soundにも出演しており、今回この3組のDJが揃うパーティーはAfter DK Sound、またはDK Sound番外編とでも呼ぶべき布陣で、筆者もお気に入りのDJが揃う事もあり初めての場所となる渋谷は道玄坂にある翠月(Mitsuki)へ訪れる事にした。
続きを読む >>
| EVENT REPORT7 | 21:34 | comments(0) | - | |
Mr. Fingers - Around The Sun Pt.2 (Alleviated Records:ML-9019)
Mr. Fingers - Around The Sun Pt.2
Amazonで詳しく見る(アナログ盤)
 Amazonで詳しく見る(MP3)
2022年のアルバム『Around The Sun Pt.1』(過去レビュー)に続き、丁度1年を経過してPart 2となるアルバムをリリースしたディープ・ハウスの伝道師であるLarry HeardことMr. Fingers。世の中の浮き沈みには全く左右されずにハウスを探求するその姿勢そのものがディープで、自身のスタイルを確立させたからこそ時代に関係無く普遍的かつ魅力的な音楽を奏で続けるHeardは、ハウス・ミュージックの求道者だ。さて、この新作だが前作から大きな路線変更はなく、これはもうその以前から彼の音楽性が一貫しているからこそなのだが、よってファンならば間違いなく安心して聞ける内容となっている。とは言ってもアルバムにはハウスを基軸にしながらもスムース・ジャズやR&Bにエレクトロやアシッドといった要素が見受けられ、単にハウスという言葉一つで括るには深遠過ぎる世界観があり、その深さはまるで果ての無い宇宙の如く。アルバム冒頭からうっとりとさせられる魅力的なシルキーなハウスの"We're Drowning"が聞けるのだが、ここではシカゴのシンガーであるDavid Brownを器用し慈しみのある歌に、そして艶っぽいサックスを前面に出し柔らかいアコギや透明感のあるシンセを用いて上品に纏めたトラックを合わせ、何とも大人の余裕を感じさせる品のあるラグジュアリーさが伝わってきて、感覚的には最早スムース・ジャズにも思われる。"Love To You"は更に穏やかな曲調で、ここではより音を削ぎ落として素朴ながらも慎ましいディープ・ハウスを下地に、Heard自身もBrownに負けじと優しく語りかけるような歌を披露し、まるで子守唄を聞いているのかとも思ってしまう。。"Country Rhodes"もかなり音の数を絞る事で空間性が感じられるしっとりしたダウンテンポなのだが、自身を省みるような内向的なムードに包まれ、非常にシンプルなのにムード感を打ち出すHeardの情緒的な鍵盤使いが素晴らしい。対してテクノ的でヒプノティックな上モノとパーカッシヴなリズムを活かしてダンスフロアの快楽的な高揚感を誘発する"The Icy Air Of Night"や、ダークな上モノにビシバシとしたエレクトロなビート感と鈍いアシッドが一つとなり幽玄ながらも緊張感がみなぎる"Forcefield"など、シカゴ・ハウスの牙を剥くような攻撃的な一面も垣間見せるのはやはりその土地生まれの気質があるのだろう。しかし昔から現在まで、何時の時代も良い意味で変わり映えのないアルバムをリリースするのだから、レビューを書くにも筆者としては表現に困ってしまうのだが、Heardにとっても変わる事を必要としない完成形のディープ・ハウスをいつまでも磨きを掛ける事がライフワークであるに違いなく、全くぶれないからこそ未来のクラシックと成り得るのだ。



Check Larry Heard
| HOUSE16 | 22:07 | comments(0) | - | |
Soshi Takeda - Floating Mountains (100% Silk:SILK132)
Soshi Takeda - Floating Mountains
Amazonで詳しく見る(MP3)

GonnoとXtalが主催するパーティー「Sugar」にてゲストライブ出演する事が発表された時に、彼等が推すアーティストだからと興味を持って聞いてみたところ、胸を締め付けるエモーショナル性と淡いノスタルジーに溢れたディープ・ハウスに筆者は一発でやられてしまった。そのアーティストこそ東京で活動をするSoshi Takedaで、2018年頃からセルフリリースをはじめ2020年には日本のDotei Recordsから初の物理媒体となるカセットでアルバムをリリースしていたようだが、本作は2021年100% Silkからこれまたカセットでリリースされた2枚目のアルバムだ。Doteiからリリースされたアルバムはダンスというフォーマットに則りながらも、踊らすというよりは心を突き動かす感情性豊かな音楽で、心に残る感傷的なメロディーがアーティストの個性と感じたが、このアルバムは幾分かダンスフロアのグルーヴ感を得たディープ・ハウスが明確になりつつも根本的な所では大きく変わりはない。何でも80年代半ばの象徴的な中国の風景写真集に影響を受け、90年代のハードウェアシンセやサンプラーのみで制作したそうだが、そういった点も少なからずノスタルジーを生み出す点に影響を及ぼしたのかもしれないが、本作のそれは日本からLarry Heardへの回答ともとれる位に深い情緒と慈しみに溢れている。冒頭、タイトル曲である"Floating Mountains"を聞いてみて欲しい、力強いハウスのビートを刻み浮遊感のある上モノと憂いに満ちたシンセのメロディーが絡んでいく内省的なディープ・ハウスからして、いつしか忘れ去ってしまった懐かしき過去の思い出のような感傷があり、王道なまでのクラシック・スタイルを踏襲しつつSoshi Takedaの世界観を確立しているように感じる。続く"Ancient Fish"はからっとパーカッシヴなコンガが爽やかで、そこにアンビエント調な大らかな上モノが遠くに沈む夕日の情景を浮かび上がらせるようなドラマティック性があり、世界は雄大だがしかし穏やかで心を落ち着かせる。テンポを落としてクリスタルのようなシンセを多層に響かせる"Hidden Wave"は、煌めくようなサウンドの美しさに壮大な自然と一体化したバレアリック感に溢れ、力強く大地を蹴って疾走するような"Lantern Reflection"はシカゴ・ハウスの素朴さと共に味わい深いシンセのサウンドが郷愁を増してぐっとドラマ性を帯びる。配信ボーナストラックの"Deep Breath"ではゆったりと弾むようなリラックスしたハウスビートに、幻想的なパッドと優美なピアノのメロディーを配した上に咽び泣くようなギターも入ってきて、深くエモーショナルに穏やかにドリーミーでこれ以上無い程にLarry Heard直系のディープ・ハウスを聞かせる。全ての曲が純朴な感情が湧き水の如く溢れ出す音楽で、最早ダンスだとかハウスだとかで括る必要が無い程に心へと強く訴えかける魅力があり、冒頭で述べたようにそんな音楽に筆者はやられてしまったのだ。



Check Soshi Takeda
| HOUSE16 | 21:12 | comments(0) | - | |
A Vision of Panorama - Follow The Melody EP (Omena:OM029)
A Vision of Panorama - Follow The Melody EP
Amazonで詳しく見る(MP3)

2014年にデビューを果たしたロシアのA Vision of PanoramaことMikhail Khvaskoは、当初からAficionado RecordingsやMusic For Dreamsといったバレアリック名門からのリリースをしているように、モダン・バレアリックにおける注目株の一人だ。古典的なディスコやファンクといった音楽を消化しながら、シルキーでドリーミーなシンセ使いに磨きをかけて、メロウで甘美なハウスを送り出している。元々才能はあったのだろうが特に存在感を増してきたのがここ数年で、特に2020年には素晴らしきバレアリック作である『Sentimental Coast EP』(過去レビュー)をリリースしていたのだが、同年にもう1枚リリースされた本EP『Follow The Melody EP』も前述のEPに負けず劣らず聞いておいて損はしない名作だ。時期が近いせいか作風もおおよそ変わらず、ディスコのビート感やフュージョン的な艶のあるシンセを活かしたスローモーなハウスが中心となっており、官能的とまでは言わないまでも大人びて甘美な叙情が全体を貫いている。タイトル曲の"Follow The Melody"からしてムードいっぱいで、落ち着いてしっとりしたダウンテンポのリズムに合わせて色気ありつつ穏やかなシンセコードを合わせ、ふわふわと浮遊感のある夢のような心地好さ。中盤には感傷的で胸を締め付けるシンセソロも現れてぐっと感情性豊かに展開しするが、淡くシルキーなシンセの使い方はまるでLarry Heardを思い起こさせる。"Wildpath"では動きの多いベースラインやパーカッションも用いた軽快なビート感がファンクやジャズといった要素を感じさせ、そこにデジタル調の印象的なシンセソロも重ねる事で、ムーディーではあるが前述の曲よりも陽気で明るい雰囲気だ。"Tailwind"は分厚くアタック感の強いドラムマシンの4つ打ちビートが主張して正統派のディープ・ハウスといった作風だが、ここでも彼らしい感情的なシンセソロが内省的かつ叙情的な空気をいっぱい含んでいて、単にDJに組み込むたけだけの曲ではなく単体としての魅力十分な楽曲性が素晴らしい。気怠く穏やかで、しかしすっと優しく心に入ってくるメロウ・ハウスは文句の付けようが無い程で、杯を傾けながら静かに聞くのが合いそうだ。



Check A Vision of Panorama
| HOUSE16 | 10:45 | comments(0) | - | |
Lars Bartkuhn - Transcend (Rush Hour:RHM 039)
Lars Bartkuhn - Transcend

今年開催予定のRainbow Disco Clubにて遂に日本では初のライブを披露予定Lars Bartkuhn。ドイツはフランクフルトから世界へ羽ばたいたディープ・ハウスのクルーであったNeedsの一員であり、Needsの停止後はソロ活動にてマルチ・インストゥルメンタリストとして素晴らしいフュージョン・ハウスを多数リリースするなど、おおよそNeedsとはLars Bartkuhnの才能に依るものであった事を示す実力者だ。NeroliやVisions Recordingsといった才能あるアーティストが揃うレーベルからも作品をリリースするなど、Bartkuhnもそういったアーティストと肩を並べる、いやそれどころか制作者としては頭一歩抜きん出た存在であり、だからこそ彼がDJでなくライブを披露する事はファンである当方にとっても興味深い。さて、そんな彼が2021年の暮れにこれまた実力派レーベルであるRush Hourからリリースした本EPだが、ここ数年のフュージョンやジャズも意識したディープ・ハウスが軸にはなるが、そこからより一層DJ向け的にミニマルな構成も加えたダンストラックを収録しており、文句の付けようのない音楽性を発揮している。特に9分にも及ぶ"Transcend"だ、メランコリーなシンセのリフレインから開始し、優美なエレピの調べに躍動感溢れるビートを刻んで、長い時間をかけて高揚していく。執拗にも反復を重視したミニマル構成ではあるが、何でも演奏をこなしてしまうBartkuhnらしく各所に情熱的なギターソロやエレガントなストリングスなど様々な楽器を盛り込んで、決して淡白にはならずに豊かな響きで装飾するのが彼の音楽性だ。それが派手派手しく感じられる事はなく、むしろ慎み深くさえある厳かなディープ・ハウスとして展開するのだから、そのプロダクション能力には感嘆する。またもう1曲も素晴らしく、鳥の囀りの中に割って入る耽美な鍵盤のオープニングが印象的な"Every Morning I Meditate"は、BartkuhnからLarry Heardに対する回答だろうか。微睡みを誘う優しいパッドに包み込まれ物憂いなエレピが哀しげに響き、そしてリズミカルで膨らみのあるベースラインとゆったりとしたドラムのリズムが生み出すダウンテンポなビート感、これらが一体となって瞑想的なアンビエントの世界へと誘っていく。ダンスとリスニングという区分けは出来るだろうが、どちらも甲乙付けがたいエモーショナルな名曲で、Bartkuhnの好調ぶりを証明している。



Check Lars Bartkuhn
| HOUSE16 | 22:36 | comments(0) | - | |
Mr. Fingers - Around The Sun Pt.1 (Alleviated Records:ML9018CD)
Mr. Fingers - Around The Sun Pt.1
Amazonで詳しく見る(アナログ盤)
 Amazonで詳しく見る(MP3)
シカゴのディープ・ハウスの伝説と化しているLarry Heardは、歩みはスローペースになりつつもいつの時代にもシーンに帰ってくる。2016年には活動初期における主要なプロジェクトであったMr. Fingers名義を復活させ、2018年にはその名義では25年ぶりとなるアルバム『Cerebral Hemispheres』(過去レビュー)を手掛ける等、今も尚良い意味で金太郎飴的に昔から変わらぬ最良のハウス・ミュージックを世に送り出している。それは流行が目まぐるしく変化するダンス・ミュージックの業界においても売れる音楽に迎合する事もなく、ただ求道的にハウスの深遠を極め続けるライフワーク的な活動であり、その方針は恐らく活動初期から変わっていない程に実直だ。そして4年ぶりとなるアルバムも全く変わっていない、いや当初から完璧な音楽は変わる必要もなかったと言えるだろう。冒頭の"Around The Sun"からして既にシルキーなHeardの響きが顕著で、カラッと乾いたラテン・パーカッションを用いた緩やかなハウスビート、そこに滑らかでふんわりとしたシンセと耽美なピアノのメロディーを乗せ、Heardの慈しみを感じさせる歌も加わればこれぞMr. Fingersの永遠不滅のディープ・ハウスとなる。"Drive"ではダビーなドラムのリズムに残響強いギター、そして鈍いベースサウンドを強調してダークな質感を打ち出しつつ、その合間には悲しみを感じさせるピアノが割り込んできて何とも物悲しく、Heard流の重厚なダブ・ハウスといった作風だ。"Touch The Sky"ではぐっとテンポを抑えてダウンテンポのビート感、そこに薄っすらとシンセを張りつつ繊細な優美なピアノに合わせてHeardが優しさに溢れた歌を提供し、全体的には音数を抑えながらすっきりした作風にする事でよりシンプルに情感が際立つR&Bとも言える。"Electrostatic Levitation"はHeardにとってのアシッド・ハウス方面か、毒々しく不気味なアシッド・ベースはしかし力強いリズムを刻まずに酩酊するようにフラフラとした旋律で心地好い揺らぎを生み、シルキーなシンセや感情豊かなギターの響きもあってアシッド・ハウスながらもHeardの内なる宇宙の深層へと潜り込んだかのようであり、これもまたディープ・ハウスなのだ。最後の"Shimmer"では渋く味わい深いサックスと小洒落たエレピが絡み合いながら優雅に踊っているようなスムース・ジャズを展開し、こういった曲調もさらっと表現する点にHeardの熟練者たる円熟味が感じられる。この最新作、ダブやジャズにR&Bといった要素を散りばめつつもやはり活動当初から変わらない正に深みを感じさせるディープ・ハウスであり、しかしそれが古臭いとか金太郎飴だとか陳腐な表現をチャラにする圧倒的な完成度の上に成り立っており、未来永劫のディープ・ハウスのお手本的な作風でもある。本作もまた未来のクラシックになるに違いない。



Check Larry Heard
| HOUSE16 | 09:30 | comments(0) | - | |
Vernon Felicity - Days Of Leisure (Altered Sense:AS SPECIAL 002)
Vernon Felicity - Days Of Leisure
Amazonで詳しく見る(MP3)

インテリジェント・テクノ系のConforce、エレクトロのVersalife、アンビエント寄りなSevernaya、アブストラクト音響を強調したHexagon、ダブ・テクノのSilent Harbourとテクノという枠の中で様々な試みを実践し続けているBoris Bunnik。DelsinやRush Hourといった著名なレーベルからリリースを行っていたConforce名義が一番有名で一番長いキャリアを持っているのだが、他名義も決して小手先なプロジェクトではなく、Bunnikはアーティストとして間違いのない才能を持っている存在だ。そして今度はVernon Felicity名義での初のアルバムがリリースされたのだが、この名義では2011年頃からEPをリリースをしていたので、キャリア10年以上を経過してようやくのアルバムかと意外でもある。しかし長く待たされた分だけ内容も期待以上のもので、アナログ機材による音響を打ち出したデトロイト・テクノやシカゴ・ハウスに影響を受けたであろう音楽性は、公式アナウンスではMetro Area vs Larry Heardとも述べられており、つまりはテクノやハウスの初期胎動的な感覚を持ちつつ見果てぬ望郷の念を抱かせるような叙情的な音楽なのだ。冒頭の"Broken Dreams"のリズムからして安っぽいリズムマシンから鳴っているような簡素な響きだが、そこにドラッギーな電子音に対し流麗なパッドを合わせる事で、デトロイト・エレクトロのような未来志向な感覚を生み出している。"Nostalgic"は正にタイトル通りに何処か懐かしさが漂うMetro Areaスタイルのディスコ・トラックで、垢抜けないリズムとロマンティックなシンセの旋律でしみじみさせられ、遠い故郷を懐かしく思う寂しさのような感覚に包まれる。エモーショナルという表現が相応しい"I Can't Stay"は、叙情的なパッド使いと軽くアシッドなベースラインに疾走感を伴うビートが感じさえるのはデトロイト・テクノだろう。そしてドタドタとした辿々しいリズムと透明感のある上モノを用いた"Glow"はLarry Heard直系のハウスで、
近未来感のある幻想的なシンセで近未来的な風景を描き出すサイファイ・テクノは"Fair Enough"は初期Carl Craigを思い起こさせる。"Dirty Carpets"はタイトル通りなローファイで壊れたリズムボックスが鳴らすようなシカゴのアシッド・ハウスで、ここまで突き抜けるとデトロイトやシカゴへのインスパイアは最早清々しい程だ。最後にはタイトル曲の"Days of Leisure"、余暇な日々というイメージ通りにリラックスした空気にうっとり情緒も込められた穏やかなシンセ・ファンクで、アルバムは開放的なムードによって締め括られる。最新のテクノの開拓ではなく完全に過去のレジェンド達へのオマージュ的な音楽性ではあるのだが、それを高い品質で実践しているからこそ魅力は十分で、レトロなテクノ/ハウスへの愛さえ感じられる。今までのどの名義のアルバムよりも素晴らしい…かもしれない。



Check Conforce
| TECHNO16 | 18:30 | comments(0) | - | |
Space Ghost - Private Paradise (Pacific Rhythm:PR014)
Space Ghost - Private Paradise
Amazonで詳しく見る(MP3)

本人が意識しているか否かは置いといても、本作を聞いてシカゴのディープ・ハウスの伝説であるLarry Heardを思い起こすのは難しくはないだろう。2010年頃からリリースを始めたSudi WachspressことSpace Ghostはアメリカはオークランド出身のアーティストで、ハウスを軸にダウンテンポやヒップ・ホップにアンビエントといった要素も取り込んだディープなハウスが特徴で、デビュー以降既に10枚程のアルバムを制作するなど創作活動への意欲は非常に強い。ここ数年はヒップ・ホップとハウスをクロスオーバーさせる音楽性が評価されるTartelet Recordsから3枚ものアルバムをリリースしており、特にその辺りからHeardに通じる内省的な心の中に潜む宇宙を掘り下げる瞑想的なディープ・ハウス路線が強くなり、オリジナリティーという点は希薄ではあるもののクラシカルなディープ・ハウスを真摯に追求しているように思われる。そして2022年は新興ニュー・エイジ系レーベルでは注目株のPacific Rhythmから、『Private Paradise』(私的な楽園)なるタイトルが正に音を表すアルバムをリリースし、Heard直系の美しくも慎ましいディープ・ハウスを真摯に鳴らしている。そんな音の背景には、コロナ禍初期に彼がカリフォルニア海岸の長閑な別荘地であるSea Ranchを訪れ、そこで精神のリフレッシュを行った事が音に反映されているそうで、その意味では真夜中のダンスフロア向けの曲は少ないもののリスニング志向で心の平穏へと導くアンビエンス性も含んだアルバムとなっている。先ずはノンビートの状態に瞑想的で重厚なシンセが長く続き、そこから物悲しい鍵盤の旋律を重ねてきてドラマティックにアルバムの扉を開ける"Virtual Age"が始まり、深く精神世界へと潜っていくようなニュー・エイジ性を発揮している。"Inner Focus"は90年代のオールド・スクールかイタロ・ハウスか、リズムはやや荒さを残しつつ生々しく揺れるベースラインと凛とした美しい鍵盤コードが先導し、そして現れる流麗なパッドとキラキラとしたメロディーは、ハウスへの賛美か。"Save Point"は再びノンビート曲、胸を締め付けるような悲しい旋律のバックには鳥の囀りのサンプリングも配して、大きな展開もなく只々無意識にぼんやりとした時間を過ごすようなアンビエンスな構成。カラッとしたパーカッションが爽やかながらもゆったりとしたハウスビートを刻む"Sounds Of Peace"にしても感傷的な電子音と叙情的なパッドを合わせて、これでもかと言う程にエモーショナル性を強調しており、ビートのある曲でもパーティー向けではなく一人ベッドルームで静かな時を過ごして聞きたくなる。そんな中でも"Time Station"は開放的で降り注ぐ太陽の光を浴びるような爽やかさが感じられ、優美なピアノコードと生っぽく艶やかなベースライン、そしてカチッとしたハウスビートによってイタロ・ハウス的な美しいドリーム感があり、これこそ心安らぐ私的な楽園が顕在化している。タイトル曲の"Private Paradise"も素晴らしく、センチメンタルな鍵盤使いに湿ったダウンテンポのリズムを合わせ、そこに慎ましくも流麗なシンセコードを丁寧に重ねて、夕暮れ時のオレンジ色に染まった海辺で佇むロマンティックな時間帯を喚起させる。アルバムは徹頭徹尾、哀愁に満ち溢れ叙情的で深い慈しみがあり、前述したように独自の個性は希薄なもののHaerdの名作である『Alien』(過去レビュー)を思い起こさせるような、そんな内なる宇宙を掘り下げる内容である。心温まるなメロディーとコードを丁寧に紡ぎ合わせて、只々シンプルに良い曲を聞かせるのであった。



Check Space Ghost
| HOUSE16 | 22:00 | comments(0) | - | |
basiC realitieS - Summer Love (Vibraphone Records:VIBR 023)
basiC realitieS - Summer Love
Amazonで詳しく見る(MP3)

イタリアのアンダーグラウンドなダンスミュージック(それは取り分けハウス・ミュージックではあるが)に焦点を当てて運営するVibraphone Recordsは、90年代初期の極短い期間だけ活動していた伝説的なレーベルだったのだが、2015年に復活してからは現在のシーンにも適合して積極的に新作をリリースし注目を集めている。そのレーベルからの最新作はbasiC realitieSなる聞き慣れないアーティスによるEPだが、実はNebulaや49th Floorといった名義でも同レーベルよりリリース歴のあるイタリアの大ベテラン・Stefano Curtiによる新しい名義によるもだ。そして本作で特筆すべきはGherkin Jerks名義のリミックスが収録されており、つまりはGherkin Jerks=Mr. Fingers=Larry Heardのお仕事も含まれているので、ハウス好きであれば当然見逃せない一枚なのだ。勿論オリジナルの出来も十分に素晴らしく、エレクトロニックで流麗なメロディーを展開しつつ無機質でラフなマシンビートを淡々と刻むディープ・ハウスの"Summer Love"は、その反復を重視したシンプルな構成が情緒的なメロディーやコードを際立たせて、心地好いフローティング感が持続する。一方"Desert Valley"はざらついたリズムや錆びたような金属的な音を用いられ、シカゴ・ハウスのようなスリージーな刺々しさがあり、アシッド風な音も交えて無骨さが主張するローファイ・ハウスだ。しかしやはり圧巻なのはHeardによるリミックスで、今回はGherkin Jerks名義という事もあり非常にスリージーで荒々しく、"Summer Love (Gherkin Jerks Tribute Mix I)"は凶悪じみた覚醒感あるアシッド・サウンドのループを加えつつ疾走感あるビートに塗り替えつて原曲よりもハードな表情を見せるが、しかしHeardらしい美麗なピアノが闇夜に美しく咲くように響き、狂おしくも耽美なアシッドなディープ・ハウス化している。"Desert Valley (Gherkin Jerks Tribute Mix II)"は原曲がそもそもローファイだったものの更に荒々しく錆びさせたような粗悪な音を強調させ、もはやテクノと呼んでも差し支えないようなミニマルかつアシッディーな曲調は、彼の曲の中でもDJツール性に特化した感覚だ。エモーショナルな原曲も当然良いのだが、Gherkin Jerks名義のひりつくような緊張感を持つスリージーなハウスは圧巻の一言で、ハード系から叙情系までバランス良く収録された一枚となっている。



Check Stefano Curti
| HOUSE16 | 12:00 | comments(0) | - | |
Dovie Cote' - Dovie Cote' EP (Alleviated Records:ML-2239)
Dovie Cote - Dovie Cote EP
Amazonで詳しく見る(MP3)

シカゴ・ハウスの巨匠であるMr. FingersことLarry Heardが主宰するAlleviated Recordsより、2021年末に新作がリリースされている。それを手掛けているのがDavid BrownことDovie Cote'なのだが、正直全く耳にした事のないアーティストで新鋭かと思っていた。しかし調べてみた限りでは本人名義では90年代にLarge RecordsやUgly Musicから極少数のEPをリリースしており、またDovie Cote'としては2011年にStrictly Jaz Unit Muzicから配信でEPをリリースするなど、細々ではありながらも20年以上の経歴を持つシカゴ周辺のシンガー・ソングライターであるようだ。そしてこの新作であるが、作曲やボーカルは勿論Cote'本人が行っているが、Heardはプロデュースのみならず作曲に加えキーボードやドラムプラグラミングにバッキングボーカルにまで行っており、実質Larry Heard Feat Dovie Cote'という表現でも問題ないほぼHeardの新作に近い。しかしこれがCote'の浮遊感のある歌も相まってか実にHeard流なディープ・ハウスで、"My Desire"では軽やかで滑らかなハウスビートに加え耽美な鍵盤や幻想的なパッド使いを用いて実に叙情的かつアーバンなトラックを披露しつつ、そこに穏やかにソウルを吐き出す甘い歌も乗っかれば、その世界観は完全に内に深い慈しみを持ったHeardのそれと同じだ。"Change Lanes"はゆっくりとして重心の低いドラムとベースによって安定したビート感が作られ、マイナー調のシンセコードやより感情性の強い歌によってソウルミュージック的な雰囲気が前面に打ち出され、しっとり艶めかしい情緒を発している。そしてDJ Quadなるアーティストのリミックスである"My Desire (Quad In Blueblackness Change It Mix)"だが、原曲の世界観を踏襲しつつも更に音を削ぎ落としてすっきりとしたビートが爽やかさを増して、繊細なエレピやシンセソロがほんのりとロマンティックに装飾を行っており、洗練かつ小洒落たフュージョン調なディープ・ハウスでこちらも見事な出来だ。正直Cote'とHeardのどちらが中心なのかという疑問もあるものの、HeardがボーカリストとしてCote'の才能を認めそこから生まれた両者のコラボレーションによる耽美で深遠なハウスである事は間違いなく、文句無しの一枚である。



Check Dovie Cote'
| HOUSE16 | 12:00 | comments(0) | - | |
Adam Arthur - Television Sky (Interdimensional Transmissions:IT 45)
Adam Arthur - Television Sky
Amazonで詳しく見る(MP3)

2021年のハウスの中でも快作というか怪作というべきか、デトロイト・エレクトロの老舗レーベルであるInterdimensional Transmissionsからリリースされた本作は、筆者も全く知らないアーティストだったもののその異形さに魅了されて購入を決意した次第である。Adam Arthurなるメンフィス出身のアーティストは自宅にFunktion Oneのサウンドシステムを持っているそうで、そこでのパーティーにはシカゴ・ハウスの伝説であるLarry Heardも遊びに来ていた事があり、そこでの出会いからArthurはHeardが主宰するAlleviated Recordsから2016年にはEPをリリースするに至っている。2014年に初めて作品をリリースしてから本作でようやく4枚目のEPとなり決して活発な活動とはいえないものの、鈍く響く中毒的なアシッド・サウンドはHeardも認めたからこそAlleviatedからのリリースに繋がったのであり、その才能は間違いないのであろう。そしてこの新作だが確かにハウスである事は間違いないが、やはり異形のハウスは麻薬的でサイケデリックだ。機械的で無機質なハイハットやキックの淡々としたマシングルーヴが刻む中を、暗闇の底から湧いてくる怨霊の呟きのようなボイスサンプルも入ってくる"Down Down Falling Down"は、何処か狂った悪夢のようなトリップ感に包まれる。冷えた金属的なパーカッションも入りつつ、ドロドロとした鈍い響きのうねるアシッド・ベースが纏わり付き、デトロイト・ビートダウンとシカゴ・ハウスの濃密な融合を果たしたこの曲は、8分にも渡って中毒に冒すが如くぶっ飛んだ世界観を構築している。"When I Touch You"もやはり錆びたような金属的なパーカッションやロウなキックが鈍い響きを放ってスリージーな感覚が通底しており、しかし上モノのドローンはダーク・アンビエント的で、例えばファンキーやソウルフルといった一般的なハウスとは全く異なる呪術的な魔力を秘めている。そういったハウス以外でも、"Tearing The Television Sky"はキックレスで壊れたようなモジュラーシンセ風な電子音が暴力的に鳴っているアンビエント・スタイルで、低音は底の方でどんよりと蠢いて不気味さを増しており、ダンストラックではないものの音響が強烈な個性を発している。音自体は地味で決して万人受けするような曲調ではないのだろうが、スルメのように噛めば噛むほど味わいが広がる深い魅力があり、今後の動向も気になる存在だ。



Check Adam Arthur
| HOUSE16 | 16:00 | comments(0) | - | |
dip in the pool - 8 red noW (PLANCHA:ARTPL-158)
dip in the pool - 8 red noW
Amazonで詳しく見る(日本盤)

世界的な日本産音楽の掘り起こしはベテランアーティストに対しても刺激を与えるのだろうか、1983年から活動をしている作曲家の木村達司とモデルも兼ねる甲田益也子によるdip in the poolが、久しぶりの新作をリリースした。厳密に言えば1997年にリリースされた『Wonder 8』をリマスタリングした上で新たに2曲を入れ替えた現代バージョンとも言えるアルバム『8 red noW』なのだが、コロナ禍においても配信ライブを行ったりと音楽活動への意欲は高まっていたりと、目に見えて活動が活発になってきているのは感じられていた。特にこのユニットが注目を集めたのは、2016年に秘境音楽を掘り起こすMusic From Memoryが1989年作の『On Retinae』をリイシューした事で、かつては渋谷系にも影響を与えながらも決してこのダンスミュージックの界隈でポピュラーとは言えなかった存在が、そのリイシューによってユニットが世界へと伝播した事は彼等にとっても活力になったに違いない。そこからのこのリイシュー、流石に24年も前の音だから古き良き時代の音…何て思い込みを裏切るように、今聞いても全く色褪せないカラフルな空気を纏うシティ・ポップやアシッド・ジャズにハウスといった洗練されつつダンスフルなグルーヴが満ちた音楽は、特に日本のシティ・ポップが世界的に見直されているこのタイミングでより輝きを増しているように思う。いきなり"Lucy"でざっくり生っぽいアシッド・ジャズのリズム感にアンニュイな呟きのような歌を合わせ、打ち込みを主体としたポップな響きでキラキラした都会的な空気も醸し、それまでのdip in the poolがもう少々ニューウェーブ的なり幽玄っさがあったのに対してポップ・ミュージックという事を強く意識させる。続くは新たに加えられた一曲、ディープ・ハウスの神様ことMr.Fingers(Larry Heard)の"What About This Love"のカバーなのだが、元がハウスとは言えどもこのカバーも想像以上に自然なディープ・ハウスに仕上がっており、敬意を示すように原曲のシルキーな響きや慎み深さを踏襲しつつ幾分か音質も上品な綺麗さを増していて、上手く自分達の音へと昇華させている。そこから再度アシッド・ジャズ調の"I Feel So Good"へと戻るが、演奏家にサックスやギターを迎えている事で熱く情熱的なファンキーさも生まれて、打ち込みのエレクトロニックな響きもオーガニックに融和している。"緑の光線"は更にアコギやベース、ピアノやフルートと生演奏の割合を増やしていて、ゆったりと開放感のある青空が広がり忙しなさとは無縁の南国調のトロピカルな感覚もあるシティ・ポップに仕上がっていて、甲田の優しく包み込むような大らかな歌も相まって、実に楽天的な空気に癒やされる。そしてラストはもう一つの入れ替え曲、ニューエイジ・ダンスで頭角を現すCFCFとの共作"Colour of Life"で、これは想定通りにモダンで綺麗にトリートメントされたポップなハウスで、小気味良いビートを刻みつつそこに耽美なピアノや甘いウィスパーボイスを重ね、夢現な浮遊感のある世界にうっとりせずにはいられない。特筆すべきは新しく差し替えられた2曲と元々の古い6曲が違和感なく自然と同居している事で、その意味ではdip in the poolはアップデートをしながらも良い意味でポップさが変わらずに、その上で現在のシティ・ポップのムーブメントがようやく彼等に適合したとも考えられるだろう。またそれのみならず本作はクラブミュージックのファンに対して訴求するビート感の魅力があり、ファンの裾野を広げる事にも一役買うに違いない。



Check dip in the pool
| HOUSE15 | 22:00 | comments(0) | - | |
Mr. Fingers - Vault Sessions 1 (Alleviated Records:ML-2238)
Mr. Fingers - Vault Sessions 1

2018年に実に24年ぶりとなるアルバム『Cerebral Hemispheres』(過去レビュー)で復活を遂げたMr. Fingers名義は、ディープ・ハウスやアシッド・ハウスと呼ばれる音楽のレジェンドであるLarry Haerdによるものだ。前述のアルバムで復活を遂げて再活動を期待させたものの、その後また再度プロジェクトは眠りにつき既に3年もHeardの新作はリリースされていない。しかしその代わりだろうか「保管庫のセッション」とタイトルまんまな未発表音源が纏められたEPがリリースされる事となり、先ずは1987〜2013年までの音源が公開される事となった。"Chains"は1987年制作とつまり名作『Another Side』に収録される可能性があった曲だったようで、実際にそのアルバムにも参加したRon Wilsonをボーカルに起用したハウス。時代が時代だけに音質もTR系の乾いたスネアやハイハットが印象的で、そこにシンプルでヒプノティックなメロディーやソウルフルに行き過ぎる事のないミステリアスな歌を合わせて、荒削りなロウハウスの先駆け的な作風かつHeardらしい落ち着いたメランコリーを聞かせている。対して"Electronic Debris"は2003年作だが、アルバムとしては穏やかで慎み深いディープ・ハウスの『Where Life Begins』の頃である。そのアルバム収録には至らないのも納得で、この曲は跳ねるようなアシッド・ベースを強調した典型的なアシッド・ハウスなのだが、興奮を煽るようなオルガンと情緒的なシンセコードが融合しながら攻撃的な曲調でありつつもHeardのエモーショナルな面も表れたディープ・ハウスだ。同様に2002年作の"Saspence"も底辺を這いずり回るようなアシッドのラインと簡素で冷えたドラムマシンの響きによって随分とクールな作風で、ビート自体はゆったりとしていいるものの内面からは秘めた中毒性が漏れ出してくる攻撃性もある。比較的新しい2013年の"Nyte Light"は特に毒々しい点々としたアシッド・ベースが際立った曲で、時代が近い"Outer Acid"にも似た作風だが、無駄な音を削ぎ落としながらアシッドと叙情的なシンセコードを合わせたシンプルな構成だが、それがじわじわと効果を表すような持続性のある曲調で穏やかながらもトリップ感も抜群だ。どれも未発表曲とは言えども単なるデモ音源のようなものではなく、普通にリリースされていても何もおかしくはない完成版であり、最早これは新作と受けてもよいだろう。いつも通りのシンプルが故にクラシック的な風合いのあるディープ・ハウスで、有無を言わさぬ説得力を持っている。



Check Larry Heard
| HOUSE15 | 09:00 | comments(0) | - | |
No Moon - 653 Miles (Church:CHURCHM007)
No Moon - 653 Miles
Amazonで詳しく見る(アナログ盤)
 Amazonで詳しく見る(MP3)
近年のダンスミュージックの中でジャズやダウンテンポを取り込んだクロスオーバー路線が輝きを取り戻しているのを肌で感じるが、その流れを作っているレーベルの一つがSeb Wildblood率いるロンドンのChurchだ。レーベルのカタログにはFolamourやAura SafariにYadavaといったアーティストの作品が並んでおり、前述のジャンルのみならずディスコやファンクにトリッピホップやアンビエントまで聞く事が出来、ジャンルの壁を取っ払うような拡張性のある音楽性がレーベルの個性となっている。そんなレーベルの2020年上半期の作品がUK出身で現在はベルリンを拠点に活動するNo MoonのEPだ。過去にはX-KalayやCraigie Knowesからもリリースをしており、アシッドにブレイク・ビーツやエレクトロを軸にした無骨でファンキーなテクノを得意としたアーティストで、レーベルの中で特にエネルギッシュな弾け方をしたテクノ色を打ち出している。しかしこの新作では弾けたリズム感はそのままに勢いはやや抑制され、その分だけブレイク・ビーツの腰に来る変化球リズムや黎明期のようなハウスのオールド・スクール感へと進み、また新たな魅力を発揮している。冒頭の"653 Miles"では図太いキックとキレのあるスネアを用いたシャッフルするようなブレイク・ビーツがゆっくりと、しかし大胆に揺れるように刻んでいて響きは非常にオールド・スクールだが、そこに無重力な浮遊感たっぷりのアンビエントな上モノと感傷的な鍵盤を合わせて、実にドリーミーな世界に没入させる。同様に"Wouldnt Have It Any Other Way"もブレイク・ビーツではあるが滑らかなグルーヴ感が走っていて、そこに鳥の鳴き声や楽園的で美しいパッドを合わせる事で、90年代の多幸感ふんだんなイタロ・ハウスとなって海のリゾート地にぴったりなバレアリックな一曲だ。そしてTR系の乾いたリズムが簡素ながらも味わい深さを生む"Dayz"はLarry Heardのディープ・ハウスの系譜にあるもので、アシッド・ベースを用いながらも素朴な情緒が体に染み入る温かみや優しさがあり、詰め込み過ぎないシンプルなハウスが何故か感情的になるのか。本作ではブレイク・ビーツ中心ながらもハウス性も獲得し、テクノやハウスのみならず例えばビート・ミュージックやバレアリックにも適用しそうでDJとしても幅広く使えそうだし、勿論全体を覆う淡い哀愁に対しリスニングとしても有効だろう。



Check No Moon
| HOUSE15 | 08:30 | comments(0) | - | |
A Vision of Panorama - Unique Tiger (Mellophonia:MLPH13LP)
A Vision of Panorama - Unique Tiger
Amazonで詳しく見る(MP3)

リリース情報を見た時から個人的には2021年の大本命と期待していたアルバムが遂にリリースされた。それこそロシアはサンクトペテルブルクで活動するMikhail KhvaskoによるA Vision of Panoramaの3枚目のアルバムだ。過去にはMusic For DreamsやOmenaからもリリース歴がある通りバレアリックな方向性を目指しているが、そこにはディスコやファンクにジャズといった要素も混在し、またシルキーなシンセサイザーの響きを打ち出した音楽性はLarry Heardのディープ・ハウスと共鳴するといっても言い過ぎではない。特に昨年の『Sentimental Coast EP』(過去レビュー)ではその音楽性は完成を達したようにも思ったが、このアルバムでもその路線を踏襲しながらもよりムーディーさを増したディープ・ハウスへと進み、Heardの音楽のように慎み深く内省的なソウルネスを獲得している。冒頭の"Prologue"から直ぐに透明感のある綺麗なシンセ使いが聞け、そこに湿っぽいベースやからっと乾いたパーカッシヴなビートが心地好いハウスのビートを作りつつ、エレピ等を用いた叙情的なメロディーも被せる事で実に優雅ながらも穏やかで平和的なディープ・ハウスの世界へと引き込んでいく。爽やかなパーカッションとブロークン・ビーツがリズミカルに弾ける"Chords For Gourmets"ではよりダウナーでしっとりしたシンセのコードを用いて内省的だが、更にサクソフォンの情緒たっぷりな旋律も加わると黄昏時の湿っぽく感傷的な雰囲気も発せられ、侘びしくもありながらロマンティックな夕焼けを臨むようでもある。途中、タイトル通り"Interlude"でビート無しで煌めくフュージョン風なシンセコードで切ない時間で小休止を挟み、"The Light"では小気味良いパーカッションの複雑なリズムを軸に優美なシンセコードや躍動的で引っかかりのあるベース、そして情熱的で熱いサクソフォンのソロも展開して、非常にムーディーながらもキレのあるジャズ・ファンクは大人の官能的な時間帯を演出している。"Unique Tiger"はシンセのコード使いが90年代のハウスというかオールド・スクール的で、ガチャガチャとしたドラムマシンの素朴なビート感も相まって、何だかNYハウス全盛期の時代が蘇る。"Seventh Month"でも滑らかで透明感のあるシンセコードを軸に流麗なハウスビートを合わせて、リラックスした優しさで包み込むようなディープ・ハウスは完全にHeardのそれだが、こういった流行り廃りとは無縁のクラシカルな作風はやはり心に染みるものだ。アルバムは最初から最後まで落ち着いて平穏なディープ・ハウスを軸に展開し、熱くなり過ぎずにほっこりと温まるような優しい感情に満たされるソウルがあり、今までのバレアリックな作風からUSハウスへと接近しながらも自然とその音楽性を自分の物としている。決して目新しさや流行といったものはないが、だからこそ逆に丁寧なコード展開や流麗なメロディーを活かした音楽が耳に馴染みやすく、素朴ながらも非常にタイムレスなアルバムになっている。



Check A Vision of Panorama
| HOUSE15 | 17:00 | comments(0) | - | |
Powder - Powder In Space (Beats In Space Records:BIS036)
Powder - Powder In Space
Amazonで詳しく見る(US盤)
 Amazonで詳しく見る(日本盤)
2015年にESP Instituteからデビューして以降、Born Free RecordsやCockTail d'Amore Musicと現在人気を博すダンス・ミュージックのレーベルからEPをリリースし、瞬く間に世界的に高い人気を獲得したMoko ShibataことPowder。ダンス・ミュージックである前提の向こう側にユーモアとポップと奇妙さが混じり合った不思議な要素を含むその音楽はPowderという個性として確立され、ここ日本に於いてはパーティーに出演する事も多くはないため、余計に好奇心を駆り立てる存在になってきている。そんな最中、Beats In Spaceの新シリーズのスタートにPowderが抜擢されミックスを行ったのが本作『Powder In Space』で(同時に同タイトルのEP(過去レビュー)もリリースされ、そちらにはPowderの新曲も収録)、彼女が制作する曲同様にエキセントリックなユーモアさえ感じられるダンス・ミュージックは、キック等による強いグルーヴよりもメロディーや音響によって独特の世界観を生んでいる。序盤からしてトリッキーな構成に惑わされるようで、牧歌的な雰囲気の中に厳つくも変則的なキックとパーカッションが連打される"Захват Сзади Rox"で始まり、層になったダビーなパーカッションの中から神々しいピアノが滴るバレアリックな"Open Door (Born Inna Tent mix)"、グニャグニャと万華鏡のような色彩感に包まれるニューエイジ風な"Release"と、圧のあるキックは全く現れずに朗らかなムードによって道を作っていく。"When You Love Someone (Groove Instrumental)"辺りからようやく安定したダンスのグルーヴのハウスへと転調し、安っぽいリズムマシンが辿々しいロウ・ハウス"When You Love Someone (Groove Instrumental)"やスモーキーで訝しいジャジーな"Roy Brooks"、ダーティーでドラッギーなエレクトロ・ハウス調の"Ton 10"とジャンルは様々なれど、激しいグルーヴに傾倒する事なく時にポップに時に覚醒的にと精神的な作用を働きかける選曲で引き込んでいく。Powderの新曲もぐっと盛り上がってくる瞬間に入ってくるが、泡が弾けるような可愛らしい電子音のループを用いたキュートなハウスの"Gift"、鞭に打たれるようなビートと壮大な音響により飛翔していくテクノの"New Tribe"と、どちらもこのミックスの中でも強い個性を放つ面白い曲だ。それ以降は徐々に勢いを落としながら再度エクスペリメンタルかつフォーキーな"Your Smile"等によって日常の平穏へと帰還する展開で、様々な音楽を通過していく流れはさながら旅の様でもあり、ダンスとリスニングの均衡を保ちながら和やかに聞かせてくれるミックスはひたすら心地好い。アーティスト性から感じる事が出来るユニークさはDJにも反映されており、Powderの音楽が好きならこのミックスもお気に入りの一枚となるだろう。



Check Powder

Tracklistは続きで。
続きを読む >>
| TECHNO14 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Papeete Sun - Pacific Soul (Voodoo Gold:VG 007)
Papeete Sun - Pacific Soul

顔面がコラージュされた怪しいジャケットだけを見ては食指は動かないが、試聴をしたところローファイながらもLarry Heardばりの憂いに満ちた切ないディープ・ハウス路線に魅了され、即座に購入を決意した一枚。Papeete Sunなるアーティストについては全く耳にした事がなかったのだが、オランダのエレクトロ・レーベルであるVoodoo Goldからのリリースであり、Voodoo Gold自体がAmazon ClubやAquarian MotionにJeremiah R.といったMarvis Deeの変名の作品をリリースしている事から、どうやら本作もMarvis Deeの変名活動の一つのようだ。様々な変名を用いて膨大な作品をリリースしているDee、切れ味鋭いオールド・エレクトロから情緒の強いシカゴ系のディープ・ハウスにアンビエントな雰囲気やテクノの質感も伴っていたりとその名義の広さと比例して音楽性も幅広いが、どれもオールド・スクールなリズム・マシンの味わいという点で共通項を持っている。さてこのPapeete Sun名義でのデビューアルバムは前述の通りシカゴのディープ・ハウス路線の音楽性が強く、冒頭の"Island Sunset"はビート無しの幽玄なシンセパッドが望郷を誘うアンビエントな曲で、静かな幕開けとして雰囲気を作っている。続く"Pacific Soul"では乾いてカタカタとしたTR系のリズムも入ってきて早速シカゴ・ハウスを見せつけ、そこにHeardばりの胸を締め付けるような切ない感情性豊かなシンセのメロディーも入ってくれば、この時点で心は鷲掴みされるだろう。続く"Life"も全く同じ路線で安っぽいリズム・マシンによる4つ打ちのビートが空虚に響き、そこに悲しみに黄昏れるようなシンプルなコードラインの上モノを配して、メロウさを際立たせたディープ・ハウス。"Exploring Rivers"はややダウンテンポにも寄り添った落ち着きのあるビート感で、シンプルなコード展開とほのぼのとしてベースラインも相まって穏やかさを演出している。裏面も対して大きな変化はなく、"Voices In Your Head"はチャカポコなパーカッションが爽やかに響く中をドリーミーなアナログシンセが夢現な幻想に浸らせるように鳴り、これもいかにもHeardらしいアンビエント感あるディープ・ハウスだ。そして荒れた質感のリズムにスリージーなシカゴ・ハウスらしさが現れている"Expedition"はほんのりと情緒漂うシンセのメロディーも効いていて、悪びれた激しさの中にも優しさが感じられる。最後の"Voices From The Past"ではアルバム冒頭に戻ったかのように再度リズムは無くなり、アンビエント感に満ちたシンセが揺らいで霧に包み込むように微睡みながら消えていく。LPで9曲と実質アルバムとしての作品なのだろう起承転結らしい流れがあり、また1曲1曲がリスニングとダンスのバランスをとったそつのない作りで、この名義でのデビュー作ながらも非常に聴き応えのあるアルバムだ。古典的なディープ・ハウスやシカゴ・ハウス好きな人には、有無を言わさずお勧め出来る。



Check Papeete Sun
| HOUSE14 | 10:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Hunee - Hunchin' All Night (Rush Hour Recordings:RHMC 001)
Hunee - Hunchin All Night
Amazonで詳しく見る(US盤)
 Amazonで詳しく見る(日本盤)
ダンス・ミュージックの業界に於いてレコード屋としてレーベルとして、そしてディストリビューションも行うRush Hour Recordingsの功績は非常に大きいが、特にタイムレスな作品のリイシューやそういった作品のコンパイルという点でもそのレーベル性は信頼に足るものだ。そのレーベルの2018年の話題作と言えば現在のレーベルを代表するアーティストの一人、Huneeがコンパイルを手掛けた本作で、主に8〜90年代に生まれたテクノやディープ・ハウスにディスコ、ファンクやアフロ等が選曲されている。ご存知の通りこのダンス・ミュージックの界隈では例えば普段DJがプレイするジャンルではなく、例えば影響を受けたルーツ系を纏めたコンピレーションも少なくはないが、ここではジャンルに幅はあっても基本的にはダンス・フロアに即している点で好感が持てる。そして本作で特に普段ダンス・ミュージックを聞く者にとって自然なのは、Ron Trentがリミックスを行った"Ritual Of Love (Ron's Vocal Beat Down Mix)"と、Larry Heardによる"Burning 4 You"だろう。どちらも希少性が高い事を抜きにしても曲そのものの魅力は当然格別で、Ronらしいダビーな残響を用いながら甘い呟きのボーカルの反復に陶酔させられる前者、ソウルフルな女性ボーカルに透明感のあるパッドや耽美なピアノを被せて仄かな情緒を生む無駄の無いシンプルな後者、どちらもディープ・ハウスが何たるかを証明するような作品だ。Don Lakaによる"Stages Of Love"は1986年の作品、甲高い女性ボーカルとアタック感の強いドラムが印象的なシンセ・ポップ/ファンクといった趣きで、現在のパーティーの朝方でかかっても全く違和感はないしんみり感情的なダンス・トラックだ。Villa Aboの1997年作"Made On Coffee & Wine"は今で言うロウ・ハウス/テクノ的なチージーで粗い音質が印象的で、適度にアシッド・ベースも鈍くうねってDJツール的な風合いが強い。1990年にアルバムを一枚残しただけのMappa Mundiによる"Trance Fusion"は、そのタイトル通りにサイケデリックな酩酊感のあるアンビエント・ハウス寄りな曲で、そのレイヴの空気感を含んだ快楽的な曲調はその時代感がありながらも今でも違和感の無いタイムレスな性質もある。それら以外の曲は対してエキゾチックなりアフロなりの要素が強く現れており、例えばCarlos Maria Trindade & Nuno Canavarroによる"Blu Terra"はタブラ等のパーカッションやパンパイプ等の民族楽器らの有機的な響きを用いてミニマリズムも取り入れたような実験的な曲で、キックは入っていないものの人力トランスのような高揚感もある。セネガルの口承音楽であるタスも収録されており、そのパフォーマーであるAby Ngana Diopによる"Liital (Michael Ozone's Liital Rhythm)"は、土着的で切れのあるパーカッションやリズムに乗せてラップというか喋りみたいな歌を被せた曲で、何か原始的なエネルギーが体を衝き動かすようだ。収録された曲群は国もジャンルもそれぞれ異なっていて一見コンピレーションとしての体裁を成してないようにも思われるかもしれないが、通して聞いてみれば決してそんな事はなく、例えばDJが長い持ち時間の中で音楽の変遷を見せるのをここでは一時間に圧縮したような雰囲気もあり、特にその中でも印象的な曲を抽出したようにも思われる。それは何度でも聞いていられる、クラシカルな佇まいも。



Check Hunee

Tracklistは続きで。
続きを読む >>
| HOUSE13 | 21:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Mr Fingers - Cerebral Hemispheres (Alleviated Records:ML-9017)
Mr Fingers - Cerebral Hemispheres
Amazonで詳しく見る(US盤)
 Amazonで詳しく見る(日本盤)
ダンス・ミュージックという移り変わりの早い業界の荒波に飲み込まれる事なく、常にマイペースに自分の世界観を守り続けてきたその活動もいつかは終わりを迎えるように、2012年に聴覚障害を理由に一旦はDJ業から身を引いたLarry Heard。それと共にリミックス業以外では作品のリリースも停止し、淡々としながらも真摯に音楽に向き合ってきた音楽の道も停止してしまうのかと心配していたが、なんと2016年のDimensions Festivalでのライブを皮切りに復活を果たす。そう、やはりHeardの音楽性が最も発揮されるのは自身で制作した曲をライブで表現する事であり、それは彼が作曲家としての帰還を表明した瞬間だったに違いない。事実、本作はMr. Fingers名義での24年ぶりとなるアルバムで、わざわざこの古い名義を用いたのには何か音楽活動に対する決意表明のような意味合いが込められているように感じずにはいられない。とは言っても時代に取り残されたように、しかし全く風化しない思慮深いディープ・ハウスの作風はHeardらしい柔らかい優しさがありつつも、普遍的な強度が貫いている。開始となる"Full Moon"も囁くような優しいHeardの歌に静謐な美しさを際立てるピアノの旋律が落ち着いた叙情を生み、淡々としたハウスの4つ打ちと相まって、いわゆるクラブミュージックにありがちな押し付けがましい興奮は一切ない。"Urbane Sunset"では枯れた味わいのあるギターと繊細なピアノを合わせ、そこに手数の多いパーカッションも加えてジャズやフュージョンのセッションしているような、実に歳を重ねたからこその円熟味のある曲だ。もちろん"Sands Of Aruba"のようにしっとりしながらも軽快なハウス・ビートを刻む曲もあるが、それにしても温かい感情を吐露するようなサックスや透明感のあるキーボード使いが、耳に優しく吐息を吹き掛けるように響いてくる。CDで言うと2枚目に当たる方は比較的フロア寄りの曲が多く、遂になった"Outer Acid"と"Inner Acid"の二曲は、どちらもダークでじわじわと精神を侵食するようなアシッド・ベースを用いたフロア向けのハウスだが、これにしてもアッパーで強迫的に踊らせるようなものでもなく、聞き手にダンスともリスニングとも解釈を委ねる大らかさがある。"Stratusfly"ではTikimanことPaul St. Hilaireをフィーチャーし、時間を経て味わいを増した哀愁が枯れた感もあるボーカル・ハウスを形成し、この俗物にまみれた世の中から距離を置くようにただただ自分の内面を見つめ直している感さえある。そしてこれぞHeardな揺蕩う浮遊感のある叙情的なディープ・ハウスの"Aether"から、最後はNicole Wrayを歌手に迎えてややポップで可愛らしくもある歌と親しみのある明るい基調のトラックから成る"Praise To The Vibes"で、深い深い内面旅行を終えて現実へと戻ってきたかのように明るさを取り戻して終わる。音楽的な面でMr. Fingers名義だから特別だという事は全くなく、スムースなディープ・ハウスにジャズやR&Bのスパイスも加えて、つまりLarry Heardとしての集大成のようにも感じられるメランコリーで深く優しい世界観は時代に左右されない完成されたスタイルなのだ。寡黙ながらも音楽に対して誠実なHeardの性格が伝わってくるような、そんな心温まるアルバムだ。



Check Larry Heard
| HOUSE13 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Andrew Soul feat. Robert Owens - Slipping Into Darkness EP (Vibraphone Records:VIBR013)
Andrew Soul feat. Robert Owens - Slipping Into Darkness EP
Amazonで詳しく見る(MP3)

シカゴとデトロイトのハウスに触発され、イタリアはローマからアンダーグラウンドなハウスを1992年頃に7枚のみ残したVibraphone Recordsは、恐らく忘れさられていたレーベルであろう。しかし2015年に失われた名作の復刻を機に特にイタリアのアーティスト推しでレーベル運営を復活させ、今ではオールド・スクールなハウス・ミュージック好きな人であればきっと注目するであろう存在として、再度輝きを放っている。そのレーベルからの新作はやはりイタリアの比較的若手でもあるAndrew Soulによるもので、シカゴ・ハウスの伝説的ボーカリストであるRobert Owensをフィーチャーしている事、そしてシカゴ・ハウス黎明期から活動するVincent Floydやイタリアからシカゴ・ハウスへの妄信的な愛を示すNick Anthony Simoncinoをリミキサーと迎えているのだから、それらの名前を見ただけでも反応する人は少なくないだろう。実際に作品を聞いてみれば期待通りのボーカル・ハウスが収録されており、"Slipping Into Darkness"では自己陶酔系の甘く呟くようなOwensの歌は健在で、そこに控え目な響きながらもしっとり情感漂うピアノと鈍いアシッドベースが弾ける官能的なディープ・ハウスのトラックが合わさっており、古き良きハウス黄金時代を思い起こさせる。それをFloydがリミックスした"Slipping Into Darkness (Vincent Floyd Remix)"はTR系の安っぽく乾いたパーカッションと透明感ある伸びるシンセによってメロウな方面のシカゴのハウス、つまりはLarry Heard直系のシンプルな構成ながらも感情に訴えかけるエモーショナル性を掘り起こした作風になっており、未成熟な初期衝動を残しながら実に味わい深さがある。対して"As You Are"はより硬いキックとアシッドの攻撃性をそのまま打ち出した骨太なハウスで、音の隙間を残した簡素な構成ながらも跳ねる肉体的なグルーヴが迫り、Owensによる歌も深い陶酔感を引き出している。それをSimoncinoはフラットに均したビート感に作り変えた"As You Are (Nick Anthony Simoncino Remix)"を披露しており、魔術的な歌やより音を絞り込みながら初期シカゴ・ハウスの悪っぽさや暗い雰囲気を強調した点は、原曲よりも更に先祖返りしていてSimoncinoのシカゴ・ハウスへの忠実さが際立っている。どのバージョンも最新のと言うよりは8〜90年代の時代性が強い懐古的な意味合いは強いものの、そこはシカゴ・ハウスへの理解が深いアーティストだからこそ、本物のシカゴ・ハウスを提唱している点で評価すべき作品だ。



Check Andrew Soul
| HOUSE13 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Mike Dunn - My House From All Angles (Moreaboutmusic:MAMBB001)
Mike Dunn - My House From All Angles

何があったのか昨今のシカゴ・ハウスに於ける名作のリイシューラッシュの勢いは驚くべきもので、Dance ManiaやTraxにChiwax等含む多くのレーベルから数え切れない程に過去の作品の掘り起こしが行われている。そんなシカゴ・ハウスが賑わう状況で2018年にはそのレジェンドであるLarry HeardことMr.Fingers名義のアルバムが24年ぶりに発表された事は記憶に新しいが、それにも負けないのが2017年の年末にリリースされたMike Dunnによる2ndアルバムである本作で、こちらは何と1990年以来の27年ぶりのアルバムになる。Dunnはシカゴ・ハウスの黎明期から活動するDJでゲットー地区生まれと言う事も影響しているのか、そのTB-303やTR-808を用いたアシッド・ハウスは荒々しく正にジャッキンなもので、それだけに留まらず数々の変名を用いてガラージやディープ・ハウスにも取り組んでいたが、アルバムを制作しなかったのはやはりDJツール的な音楽性が故だったのだろうか。しかし本人曰くやる気とアイデアが湧いてきたそうでこのアルバムへと繋がったのか、そして久しぶりのアルバムと言う事もあるのか不穏なアシッド・ハウスだけではなくボーカル・ハウスや流麗なテック・ハウス気味の曲もあったりと、ベテランとしての集大成的な構成にはただ野蛮なけではなく完成されたベテランとしての貫禄が漂っている。出だしの"Acid Rush"はうねるアシッドのベースが古典的なアシッド・ハウスではあるものの、魔術的な呟きの導入もあってか激しいと言うよりは催眠的でアシッドの幻惑的な効果が打ち出されている。"Body Muzik"もファンキーなボーカル・サンプルや呟きが用いられており、こちらはよりラフなハイハットやリズムの鳴りがジャッキンに響いており、オールド・スクールでB-Boy的だ。だがアルバムは進む毎に多様な表情を見せるようになり、4曲目の"DJ Beat That Shhh"ではMD X-Spressをフィーチャーして野暮ったくもどこかメロウな歌とスカスカなリズムのヒップ・ハウスを聞かせ、"Have It 4U Babe"では切り刻んだようなサンプリングやディスコなベースラインを用いて熱量あるソウルフルなハウスを展開し、"Modulation"に至っては潜めるようなアシッドを混ぜながらも快楽的で美しいシンセのリフがモダンで洗練されたヨーロッパ的な雰囲気のテック・ハウスを匂わせており、Dunnに対する古典的なアシッド・ハウスのアーティストという間違ったイメージを正しく塗り替える。それでも尚安っぽくて垢抜けなくも狂気が滲むアシッド・ハウスの魔力は魅力的で、その後にも"Move It, Work It"のようにたどたどしいTR系のリズムとねちっこいTBのアシッドなベースの単純な構成のシカゴ・ハウス等も用意されており、長い経験から生まれた幅のある豊かなハウス・アルバムでありつつアシッド・ハウスというルーツは変わっていない。久しぶりのアルバムだからと言って甘い評価は必要なく、シカゴの重鎮としての力量が爆発したファンキーな一枚だ。



Check Mike Dunn
| HOUSE13 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
The Swan And The Lake - Clouds + Moments (Music For Dreams:ZZZCD0127/107)
The Swan And The Lake - Clouds + Moments
Amazonで詳しく見る(US盤)

明らかに賑わいを見せているバレアリック・シーンではInternational FeelやMusic From Memoryなど新興勢力の台頭に依るものが大きいだろうが、その一方でより以前からバレアリックを深掘りしているレーベルにも注目が向けられる機会もあり、例えばデンマークはコペンハーゲンのMusic For Dreamsは2001年から運営を続けているこのジャンルでは老舗とも言える名門レーベルだ。ダンスやロックにジャズやヒップ・ホップにその他色々なジャンルに渡って作品をリリースしているが、それらはチルアウトやバレアリックに包括されるべき内容で、長い運営を続ける中でこの種の音楽の拡張と深堀を行っている。そんなレーベルから今一押しなアーティストがデンマークのEmil BreumによるThe Swan And The Lake(「白鳥と湖」、なんてアーティスト名なんだ!)で、2016年と2017年にはアナログで『Moments』と『Clouds』をリリースしてちょっとした注目を集めていたが、この度目出度く2枚セットでのCD化が成されている。The Swan And The Lakeの音楽は何と言えばよいのか、ほのぼのとした雰囲気の中で何処までも穏やかな地平が続くリスニング仕様な音楽は、アンビエントと言い切るのも難しくもニュー・エイジぽさもありチルアウトの落ち着きもあれば、開放的なバレアリックなムードもある。オープニングは悲哀の強いキーボードと控えめに挿入されるコンガに泣きを誘われる"Fresh Food"からしてしっとり情緒的な出来だが、逆にノンビートながらもLarry Heardぽさもある安らぎのシンセコードを展開しバレアリックな爽快感のある"Clouds Over Osterbro"もあったり、透明感のある美しいシンセを丁寧に聞かせながらパーカッションやマリンバ等の温かみのある響きも用いて人間の感情性を伝えるような作風だ。特に美しいバレアリック性が強いのは"Summer In December"だろう、青空の中に消えてしまうような美しいシンセが浮遊しながらそこに優しさに包まれるスパニッシュ・ギターが歌うような開放感抜群のフローディング・アンビエントは、その無重力感もあって何物にも束縛されない。または"Deep Red"のようにシンセが層になったようなドローンが持続する抽象的なアンビエント、嬉々としたマリンバがダンスを踊るようなクラシック的な"Moment Of Lost Swans"、味わい深いスパニッシュ・ギターにより夕暮れ時の海辺で感傷に浸るような"Dive"、映画のワンシーンに使われるようなロマンティックで情感たっぷりな歌モノの"Weather"など、意外にも曲毎に作風の変化を見せたりもする。そんな幅の広さはあってもThe Swan And The Lakeのシンプルな美しさはどの曲に於いても不変で、曲毎に風景を喚起させるシネマティックな作風によって夢の中を彷徨うようだ。CD化に際してはアナログ未収録の曲も追加されており、これは是非ともお勧めのアルバムである。





Check The Swan And The Lake
| ETC(MUSIC)4 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Earth Patterns - First Light (Utopia Records:UTA 006)
Earth Patterns - First Light

Soichi Teradaの名作の再発やModajiやLars Bartkuhnなどのジャジーヴァイブス溢れる作品、そしてギリシャの現代音楽家であるVangelis Katsoulisのアルバムまでもリリースするなど、時代やジャンルを超越しながら質の高い音楽のみを提供するUtopia Recordsは新興レーベルながらも特別な存在感を示している。そのレーベルからの見知らぬ名義・Earth Patternsのミニアルバムがリリースされたが、これもレーベル買いしては損はしない作品だ。実はVoyeurhythmやDelusions Of Grandeurからの作品で頭角を現しているBen Sunによる変名で、メローな旋律とサンプリングのディスコ・ハウスからブギーなハウスまで展開する実力派であり、この新作では一転してLarry Heard辺りを意識したリスニング向けのピュアなハウスに挑戦している。冒頭の"Sunflower"からして完全にHeardの影響下にあるディープ・ハウスで、透明感あるシンセの流麗なメロディーを武器にコズミックな音響も加え、そして圧力には頼らずにメロディーを支える端正で軽快な4つ打ちのビート、一切の余計な音は加えずにシンプルな構成ながらもエモーショナル性を追求した作風はクラシカルな趣きさえある。より温かみのあるパッドを用いて穏やかさが打ち出た"Horus Rising"では心地良く抜けるパーカッションも効果的で、開放感や爽快感を感じさせるハウスだ。更にテンポを落としたダウンテンポ調の"Fourth Axis (Instrumental)"でもピアノの可愛らしい旋律や子供の歌声らしきものが朗らかなムードに繋がっているが、Ben Sun名義のブギーな音楽性に通じる所もある。裏面は内面の宇宙へと潜っていくようなアンビエント性の高い"Transit Pan"で始まるが、これもHeardの深遠なる世界観を思い起こさせる。そしてアフロかエキゾチックなのか国籍不明な不思議な感覚のあるプロト・ハウス風な"After The Rain"から、最後は光沢のあるシンセから始まるも分厚いアシッド・ベースが加わって最もダンスフルなハウス・グルーヴの"Eight Circles"でアルバムは幕を迎える。ハウス〜アンビエント周辺をうろつきつつどの曲にも言える事は、やはり慎ましく穏やかなメロディー、それは控えめに美しく情緒を含むものでしっとりと肌に染みていくという表現が相応しい。素晴らしい作品なのでミニアルバムなのが勿体無い位なので、是非ともこの名義には再度期待したい。



Check Ben Sun
| HOUSE13 | 22:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Young Marco - Selectors 002 (Dekmantel:DKMNTL-SLCTRS002)
Young Marco - Selectors 002
Amazonで詳しく見る(US盤)
 Amazonで詳しく見る(MP3)
Dekmantelが企画するコンピレーションシリーズの「Selectors」、第一弾はDanilo PlessowことMotor City Drum Ensembleが担当し注目を集めて企画としては成功を収めており、その勢いに乗って第二弾が登場。担当はオランダからバレアリック/イタロ・ハウスの深掘りをYoung Marcoで、何でも「高価盤やレア盤の寄せ集めにならないように選曲した」そうで、第一弾が今では高価になってしまったレアなハウスをふんだんに使用していたのとは対照的にも感じ取れる。勿論Plessowも単に高価な曲の寄せ集めではなく手に入りずらい素晴らしい曲をDJとして使用して欲しいという意図も込められてはいたので、その意味ではこのMarcoの選曲も前者と大きく外れている事はない。本作について言えばハウス・テイストもあるものの、もう少しディスコティックやシンセポップ等のプロト・ハウス的な音楽性が中心で、レトロな世界観に懐かしさを感じる事だろう。同郷オランダからはDanny Boyの僅かに発表された作品の一つ"Diskomix (Disko Version)"があり、1983年作と言う事を考慮してもネオンライトをイメージさせる光沢感あるシンセ使いが懐かしく思われるシンセ・ポップな作品は、「アチョー」という声やロボットボイスの影響で中華テイストが面白く聞こえる。続くGerrit Hoekemaもオランダのアーティストで、実はコンピ等への曲を提供するのみでソロ作品をリリースした事はない点で非常にレア度は高いのだが、"Televisiewereld"はプロト・ハウスとでも呼ぶべきいたないビート感が味わい深く、奇妙な効果音がよりユニークさを強めている。勿論正統派ハウスな作品もあり、それこそシカゴのディープ・ハウス伝道師であるLarry Heardによる"Dolphin Dream"で、Heardらしい無駄のないエレガントな響きとチルアウトな感覚のある慎ましいハウスは素朴でもあり他の曲との調和を崩す事はない。現在形のアーティストであるWolf Mullerは未発表曲を提供しているが、"Pfad Des Windes"はジブリの名曲をカバーした異色作。ジブリらしい懐かしい田舎風景のムードがありながらも、エキゾチック・ディスコな響きはやはりレトロ調の味わいがある。他は90年代の作品が多く、シカゴのFrank Youngwerthによる90年前半の"Whirr"はやけに軽快なパーカッションが弾むヒップ・ハウス調で、非常に時代の空気が強い。Green Baizeの"Spick And Span"は90年代初期のイタロ・ハウスで、シカゴやデトロイトからの影響も感じさせるチージーな響きの中にエモーショナルな感情を込めた作品だ。全体を通してモダンとは対照的なレトロ調のバックトゥルーツな意図が感じられ、時代の幅やジャンルの差はあれど全体の空気の統一感として全く違和感無く纏められている。単なるレアな曲の寄せ集めでは当然なく、ミックスせずともYoung Marcoのバレアリックやイタロな音楽性を投影した世界観は、部屋を彩る素晴らしい音楽集になるだろう。勿論DJにとっては使い勝手の良い武器になるに違いない。



Check "Young Marco"

Tracklistは続きで。
続きを読む >>
| HOUSE13 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Larry Heard presents Mr.White - Virtual Emotion (Alleviated Records:ML-2236)
Larry Heard presents Mr. White - Virtual Emotion
Amazonで詳しく見る(MP3)

Larry HeardとMr. Whiteのタッグ再び、過去にも幾度か手を組んで楽曲制作した二人が8年ぶりに再度邂逅する。シカゴ・ハウス、いやハウス・ミュージックという世界に於いては伝説と呼んでも差し支えないHeardは、何も足さない何も引かない的なシンプルな作風から人間味溢れるエモーショナルな心情を吐露する作風を得意とし、そこにMr.Whiteの湿り気を帯びた温かい歌が加わる事で余計に感情を熱くさせる。そんな二人の新作のコンセプトは「異世界のフューチャー・ハウス」だそうで、それが何を示すのかは理解は及ばないものの普段のハウスの作風に加えてややテクノ的な質感がある事が本作の特徴だろう。"Virtual Emotion (main)"は幾分か普段の作風よりも冷えているというかテクノ的な鳴りもあり、特にぶいぶいとした電子音が快楽的でもあるシンセベースがそれに関与している。からっとしたパーカッションや美しく厳かなピアノ使い、繊細に彩る控えめなシンセなどは普段通りで穏やかな情緒が滲み出ているものの、やはりシンセベースのアシッドにも似た太い響きが雰囲気をテクノへと寄せているのだ。そして囁くようなMr.Whiteのボーカルが深遠な世界へと手招きする。"Virtual Emotion (dub)"はそのボーカルを残響をかけて霞のようにダブ化したバージョンで、トラック自体に差異はない。"Supernova (main)"もダークで低辺で蠢くようなベースが強調されていて余計に不穏な空気が満ちたディープ・ハウスで、Mr.Whiteのボーカルにもややエフェクトがかけられているのか鈍い響きをしており、Heardの深遠なる世界は確かにあるものの彼がアシッド・ハウスに取り組んだ時の方向性に近い作風だ。テクノ寄りだからと言って決して激しさをやたらに強調したり硬い音を鳴らしたりではないが、いつもよりクラクラとする覚醒感や恍惚感が打ち出されドラッギーにハメていくタイプになっている。確かにいつもの平穏な日常の中にあるようなディープ・ハウスとは異なる点で、彼等が「異世界」というコンセプトを掲げているのは納得させられる所もあり、意外性を楽しみつつもシンプルな曲そのものの良さはいかにもHeardらしい。



Check "Larry Heard"
| HOUSE12 | 17:30 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Rebirth 10 - Compiled And Mixed By Larry Heard A.K.A. Mr. Fingers (Rebirth Records:REB036CD)
Rebirth 10 - Compiled And Mixed By Larry Heard A.K.A. Mr.Fingers
Amazonで詳しく見る(US盤)
 Amazonで詳しく見る(日本盤)
シカゴ・ハウスのレジェンド…とだけで括るのでは恐れ多い、時代を越えて何時までも残る曲を制作する音楽家として孤高の位置に存在するMr. FingersことLarry Heard。初期シカゴ・ハウスのロウで荒ぶれる作風から、次第にそこにツール性のみならず趣深い情緒や琴線に触れるエモーショナル性を加えた張本人であり、伝説的な存在として尊敬の眼差しを浴びながらも今も音楽家として制作を続け、求道的な生き方を続けている。アーティストとしての技量は言うまでもないが今までにDJとして公式にミックスをリリースした事はなく、活動歴30年を経てようやくMr. Fingers名義でのミックスがここに届けられた。オフィシャルでの初のミックスである事は非常に貴重ながらも、今回はイタリアのレーベルであるRebirthの10周年を記念した作品とあって、あくまでレーベルの音楽性を伝えるショーケースが前提になっている。レーベルからの作品にはテクノからハウスにディスコ、USから欧州まで幅広い要素があり、レーベルを追い続けている人でなければその全容を計り知るのは困難だろう。しかし決してDJとしては超一流という訳でもないLarryが、ここでは穏やかで慎み深い点で音楽的には親和性のある事をベースに、ショーケースとしては十分に魅力あるミックスを披露している。ショーケースというコンセプトが前提なのでトリッキーさや派手な展開はほぼ皆無で、曲そのものの良さを打ち出す事を前提としたミックス - それは普段のLarry Heardのプレイでもあるのだが - で、幽玄なディープ・ハウスからアシッド・ハウスに歌モノハウス、またはディープ・ミニマルも使用して、穏やかな地平が何処までも続くような優しさに満ちた音楽性だ。丁寧に聞かせる事でしっとりと体に染み入るような情緒性を含みつつも、勿論ダンス・ミュージックとして体が躍り出すようなグルーヴ感もあり、Larryらしい大らかな包容力とレーベルの美しく幽玄な音楽性が見事にシンクロして相乗効果を発揮している。リスニングとしての快適性が故に部屋で流していて自然にさらっと聞けてしまうBGM風にも受け止められるが、それもLarryやレーベルの音楽性としてはあながち間違っていないのかもしれない。願わくば次はショーケースとしてではなく、よりパーソナリティーを打ち出したMIXCDも制作して欲しいものだが、さて今後の活動を気にせずにはいられない。



Check "Larry Heard"

Tracklistは続きで。
続きを読む >>
| HOUSE12 | 12:00 | comments(2) | trackbacks(1) | |
Hanna - Bless (Sound Signature:SSCD08)
Hanna - Bless
Amazonで詳しく見る(日本盤)

デトロイトの鬼才・Theo Parrishが主宰するSound Signatureが久しぶりのレーベル・コンピレーションをリリースしたのと同時に、珍しくTheo以外のアーティスト・アルバムもリリースしている。手掛けたのは過去にもTheoを含むバンドであるThe Rotating Assemblyにも演奏者として参加し、またソロでもTrack ModeやSublime Recordsを含む複数のレーベルからアルバムをリリースしているWarren HarrisことHannaだ。所謂DJではなくてアーティストのとしての活動がメインのようで、デトロイト界隈のアーティストにしては珍しくアルバムも今までに7枚程はリリースする制作意欲の高さがあり、しっとりと官能的で甘いテイストにシルクのような滑らかな質感を持ったジャジー・ハウスを得意としている。そんなHannaも8年程新作のリリースが無かったが、Sound Signatureからは初となるアルバムは以前にも増して官能を強め、そして湿っぽく艶かしいセッション性の高さを強調している。幕開けとなる"Hanna's Waltz"からしてベースラインはうねりまくり、ドラムも4つ打ちを刻む事なく自由に跳ね回り、そして何よりも麗しいキーボードワークが耳を魅了する。まるで目の前で複数人のアーティストがセッションを繰り広げているような構成は、もはやハウスに括られるにはその世界は狭すぎるだろう。勿論クラブ・ミュージックとしての要素も十分に残しており、2曲目の"His Eyes"ではゴスペル的な熱い歌とドスドスと太いキックが打ち付ける中、透明感のあるパッドや情感のあるシンセが舞い、実にグルーヴィーなディープ・ハウスと言えよう。大手を振ってスキップするような軽快な4つ打ちの"A Moment in Time"もハウスではあるが、この開放感のあるリラックスした作風はLarry Heardとも共振する。他にもダウンテンポやR&Bを意識したような溜め感のあるメロウな"Effervescence"や、生っぽさを残しながらエッジの効いたドラムン・ベース調の"The Sketch"など、ハウス以外にも手を広げながらHannaらしい艶かしさは全く失わずにアルバムをより豊かな音楽性へと作り上げるのは生粋のアーティストだからだろう。ダンス・ミュージックとしての前提があるが、やはり宅内でじっくりと耳を傾けて聴く価値のあるリスニング性が素晴らしい。



Check "Warren Harris"
| CROSSOVER/FUTURE JAZZ2 | 22:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Simoncino - Beyond The Dance (Mr. Fingers Remixes) (L.I.E.S.:LIES-RMX01)
Simoncino - Beyond The Dance (Mr. Fingers Remixes)

シカゴ・ハウスにおける伝説的なトラック・メーカーであるMr.FingersことLarry Heard、そしてオールド・スクールなシカゴ・ハウスを妄信的なまでに愛し今という時代に於いてもその作風の持ち味を壊す事なく蘇らせるイタリアのSimoncino。両者のシカゴ・ハウスへの信頼やぶれる事のない作風には共通項があり、だからこそ2012年にはSimoncinoの曲である"Distant Planet"をHeardがリミックスするまでに至ったが、それから4年を経て再度二人は邂逅する。今回はSimoncinoの2014年作のEP「Abele Dance」に収録されていた"Beyond The Dance"を、またもやHeardが2バージョンのリミックスを行ったのだ。元々が拙いマシンビートがけたたましく荒ぶり物哀しいメロディーが心を揺さぶるシカゴ・ハウスで、それは完全にHeardの影響下にあるものだったが、それをHeardが更にリミックスするとどう変化するのかという点は興味深い。ささくれ立つハイハットやスネアを多少は抑制しながら骨太ながらもスムースなビートへと変化させた"Beyond the Dance (Mr. Fingers Remix)"は、しかし古典的な技であるハンド・クラップを導入してオールド・スクール感を保ち、オリジナルのメロディーを壊す事なく伸び伸びとした躍動も兼ね備え、より人の温もりと包容力を感じさせる正しくHeard節とも言えるディープ・ハウスだ。裏面の"Beyond the Dance (Mr. Fingers Dark Mix)"はそのタイトル通りに激しく打ち鳴らされるドラムマシンによってヒプノティックな雰囲気が増したリミックスで、うっすらと情緒を匂わせるキーボード使いのバックではオリジナルのロウな響きにはより近いリズムが激しく脈動し、攻撃的なシカゴ・ハウスの側面が強い。それぞれシーン/時間帯別に使い処はあろうが、流石のHeardのリミックスは自分の色に染め上げてしまっている。




Check "Simoncino"
| HOUSE12 | 20:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Mr. Fingers - Mr. Fingers 2016 (Alleviated Records:ML-2231)
Mr. Fingers - Outer Acid
Amazonで詳しく見る(MP3)

2012年に聴覚障害の為にDJ業の引退を宣言したシカゴ・ハウスの伝説であるLarry Heard。DJとしての活動に時間を割く必要がなくなったおかげと言うべきか、逆にリミキサーとしての務めは増えてここ数年は他のアーティストのリミックスを行う活動が目立っていた。勿論リミキサーとしての実力は言うまでもないが、やはり彼はオリジネーターの一人であるからして新作を期待する人も多かっただろうが、何とここにきて彼の評価を高めた名義であるMr. Fingersとして22年ぶりの新作が完成した。と名義的に久しぶりだから新鮮さも感じずにはいられないが、音楽的には時代に左右される事のない永遠不滅のクラシカルなディープ・ハウスを守っており、その一点を見つめたような姿勢に安堵を覚えるだろう。ガヤ声らしきサンプルや荒廃してざらついたビート、そして鈍いうねりを見せるアシッド・ベースが際立つ"Outer Acid"は、しかし覚醒的な高揚を生み出すのではなく、俗世から隔離された隠者のような枯れた味わいのあるロウなハウスで、これも極めて昔から普遍なHeardの音楽性と呼べるものだ。"Qwazars"で豊かなシンセのメロディーと軽快で切れのある4つ打ちでよりフロアに即したディープ・ハウスであるが、奇を衒う展開はなく自然な流れのコード展開や全く無駄のないシンプルな構成が、音楽的な揺るぎない強度を感じさせる。ガチャガチャとした金属的な音が目立つ"Nodyahead"はHeardにしてはやや騒がしさが強いが、それでも黄昏れるようなしんみりしたシンセ使いが心に染み、そして最もHeardらしい叙情的で温かみのあるディープ・ハウスのマナーを踏襲した"Aether"は、内向的なピアノ使いや透明感のあるパッドが美しくも儚い。これは果たして2016年の作品なのかと錯覚する程に旧来のHeardの音楽そのものであるが、元々騒がしいフロアで興奮を駆り立てる事よりも心に響かせる事を意図したであろう俯瞰した作風だからこそ、時代に埋もれる事なくいつだって成熟の後に辿り着く枯れた味わいを活かした音楽性が評価されるのだ。全くぶれていない、既に境地へと達したハウスの伝統だ。



Check "Larry Heard"
| HOUSE11 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Simoncino - Amazon Atlantis (Creme Organization:Creme LP-12)
Simoncino - Amazon Atlantis
Amazonで詳しく見る(MP3)

イタリアきってのシカゴ・ハウスのオタクと言えばSimoncinoを挙げても差し支えはないだろう。古いシンセやドラムマシンを用いて垢抜けなくも何処か懐かしい音質を打ち出し、ぶれる事なく初期のシカゴ・ハウスを追求し続ける偏執狂だ。それは彼が起用するリミキサーにも現れており、今までにRon TrentやLarry Heard、Dream 2 ScienceにVirgo Fourなどオールド・スクールなシカゴ・ハウスの才人らを選ぶ審美眼からも、彼がどれだけ初期のハウスに惹かれているかは分かる筈だ。そんな彼にとって2年ぶり3枚目となるアルバムが、シカゴ・ハウスの変異性を受け継ぐCreme Organizationよりリリースされている。この新作でもRoland TR-808やYamaha DX7にAkai S900などのローファイでありながら名機と呼ばれるマシンをベースに、ロウな質感を残す素朴なシカゴ・ハウスを手掛けており、その流行に全く左右されない信者のような身の捧げ方には感嘆する他にない。その観点から言うと新作であってもいつもと変わらないので驚くべき点は無く、冒頭の”Images”はカタカタとした乾いたリズムマシンの音と憂うような物哀しいシンセのメロディーが先導する錆び付いたロウ・ハウスで、徹底してオールド・スクールを貫いている。それでもゲストを起用する事で、ちょっとしたアクセントが無いわけでもない。Legoweltをフィーチャした"Planet Paradise"は簡素なビート感ながらも勢いのあるテクノ風に攻撃的ではあるし、シカゴ・ハウスのベテランであるVincent Floydをフィーチャーした"Memories Of Summer"は荒ぶるリズムが前面に出ながらも幽玄なディープ・ハウスとなっていたり、全体のムードを壊す事なく刺激的な変化を加えている。それ以外にもアトモスフェリックな上モノとブレイク・ビーツ気味のビートで揺れるアンビエント・ハウス風な”90's Theme”や、ドタドタとしたマシンビートと奇妙なシンセによるリズム中心のツール特化な"Space Tape"など、アルバムというフォーマットを意識して単調に陥らない尖った特徴さえ見受けられる。だがしかし全体としては現在のロウ・ハウスに繋がる初期のシカゴ・ハウスの系譜にあり、ここまで徹底してその音楽性を追求する強靭な姿勢は、好きな人にとっては徹底して愛すべきモノなのだ。



Check "Simoncino"
| HOUSE11 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Vangelis Katsoulis - The Sleeping Beauties Remixed (Into The Light Records:ITL002.5)
Vangelis Katsoulis - The Sleeping Beauties Remixed
Amazonで詳しく見る(MP3)

アムステルダムを拠点とするInto The Lightから面白い作品がリリースされている。このレーベルは2012年設立とまだ歴史は浅く、近年のダンス・ミュージックではなくギリシャのオルタナティブな電子音楽を掘り起こす事に力を注いでいる。そんなレーベルの最新作である本作はアテネ出身のシンセ奏者であるVangelis Katsoulisによるものなのだが、特筆すべきはリミキサーとしてノルウェイのバレアリック急先鋒のTelephonesやオランダのYoung Marco、そしてL.I.E.S.やThe Trilogy Tapesから変異体テクノ/ハウスを手掛けるAndrew Field-PickeringことMax Dが参加しており、どれもこれも現在のダンス・ミュージックとしての体裁を保っている事に安心して欲しい。何といっても素晴らしいのはA面に収録された8分超えの"The Slipping Beauty (Telephones Re-work)"で、原曲がどうなのか全く知る由もないのだが、このリミックスは完全にTelephones色へと染まった開放的なムードに満ちたバレアリックな作風だ。祝祭感を放つ明るいマリンバの響きに導かれ、ガラクタから鳴るようなエキゾチックなパーカッションや仄かに誘惑の味付けをするシンセサイザーを含ませて、広大な海洋に浮かぶ長閑な南国の島のような楽園ムードが満載だ。色彩鮮やかなトロピカル感と緊張を解きほぐす牧歌的な緩みが貫くこの曲は、バレアリックとエキゾチカの幸せな邂逅により生まれている。一方でMarcoは控えめに情緒を付け足してディープ・ハウスへと塗り替えた"Enigma (Young Marco Remix)"を提供している。木琴と思われるしんみりと懐かしい音と澄み渡るシンセのメロディーが絡み合う事で切なさが倍増し、強調する事のないスムースでなだらかな4つ打ちが続く作風は、思慮深く内向的な性質も含めてLarry Heardを思わせるようだ。Max Dによる"Improvisation (Max D Edit)"も淡く伸びるパッドから発する情緒はディープ・ハウス性が強いが、そこに星の瞬きのようなキラキラしたサウンドやドタドタしたパーカッションを加えて、より肉体的なグルーヴ感を強調したリミックスとなっている。それぞれが持ち味を発揮して異なる風合いの曲調である事から、DJとしても多方面で使えるであろう非常に便利なリミックス集であり、また旬のアーティストによる今の音を理解するにもうってつけだ。



Check "Vangelis Katsoulis"
| HOUSE11 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Kai Alce Featuring Rico + Kafele Bandele - Take A Chance (NDATL Muzik:NDATL013)
Kai Alce Featuring Rico + Kafele Bandele - Take A Chance

Kai Alce主宰のNDATL Muzikはシカゴやデトロイトのテクノ/ハウスを基調に、そして時にはその周辺の巨匠による非常に貴重な未発表曲を掘り起こしたりと、地味にEPを粛々とリリースするアンダーグラウンドな活動性ながらもその音楽の質の高さは疑いようがない。ちなみに最近知ったのだがNDATL Muzikは、New YorkとDetroitとAtlantaの頭文字から名付けられており、その地域の音楽からの影響を受けている事を意味しているそうだ。そんなレーベルの新作は主宰者であるKai Alceによるもので、ボーカリストのRicoとトランペッターのKafele Bandeleを起用したボーカルハウスを披露している。変わる事なく淡々と刻まれるくすんだ4つ打ちとアフロなパーカッションに、静かに情緒を添える温かいシンセのコードと低温で燻るようなムーディーなトランペットのメロディーが加わり、そして囁くように官能的に歌われるボーカルによって一層そのソウルフルな雰囲気は強みを増す。決して派手な展開や大きな衝動はないものの、厳かで内省的な音楽性を探求するLarry Heardのように感情に静かに訴えかける音が着実に耳を惹き付ける。とそんなオリジナル作品をリミックスしたのが何とLarry Heardで、まるで師弟関係のような両者の音楽性なのだから当然リミックスの相性もベストと言っても間違い無しの出来だ。先ずはLarry名義でのリミックスとなる"Take A Chance (Larry Heard Vocal)"は原曲のメロウな面をそのまま活かしつつ、更に洗練に磨きを掛けて透明度を増したシルキーとでも呼べばよいのか、非常に上品でタイムレスな響きを放つディープ・ハウスへと昇華している。そしてMr.Fingers名義でのリミックスとなる"Take A Chance (Fingers Ambient Vocal Mix)"は、近年原点回帰も見せている流れに沿ったアシッド・ハウスとアンビエントが入り交じるディープ・ハウスで、ヒプノティックながらも何処か夢の中で響くようなアシッド・ベースの胎動と胸を締め付ける切ないトランペットのメロディーが交錯するフロアでの存在感を示すスタイルだ。いやはや、やはりLarry Heardの全てを許容する包容力と心に染み入る郷愁に満ちたディープ・ハウスは別格と言わざるを得ない。タイムレスとは正にこの事だ。



Check "Kai Alce"
| HOUSE11 | 20:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Vincent Floyd - Moonlight Fantasy (Rush Hour Recordings:RHM 008 CD)
Vincent Floyd - Moonlight Fantasy
Amazonで詳しく見る(US盤)
 Amazonで詳しく見る(MP3)
デトロイト・テクノやシカゴ・ハウスの歴史に埋もれた作品を、現在へと蘇らす仕事においてはRush Hourの右に出る者はいないのではないか。古き良き時代の音楽を現在のダンス・ミュージックを聴く層に対し目を向けさせる機会を作る、それはとても価値のある事だ。そしてそんな仕事をRush Hourはまたやってのけた。今度は初期シカゴ・ハウスの時代のみに活動していたVincent Floydが80年代後半から90年代前半に制作していた曲を、DAT音源から回収してアルバム化したのが本作だそうだが、一体何処で未発表曲の存在を嗅ぎ付けてくるのかは実に謎だ。FloydについてはDance ManiaやRelief Records等から数作のみEPをリリースしていたのみで、決して一般的な知名度は高くないものの"Your Eyes"や"I Dream You"といった名作を残し、所謂Larry Heardの深遠でメランコリーなシカゴ・ハウスに通ずる音楽性が高い評価を受けている。本作もそれを踏襲したドリーミーでメランコリーな温かみのあるハウスが満載で、アルバムは可愛らしい鉄琴とアナログ感のあるパッドが幻想的な世界を生み出すアンビエントな"Dark Matter"で幕を開ける。続く"Illusions"ではゆったりと闊歩するような心地良い4つ打ちに抒情的なパッドと凛とした気品のあるシンセのメロディーを被せて、のびのびとした優美なディープ・ハウスを繰り広げる。"Dawn Notes"におけるしっとりと、しかしリラックスして落ち着きのあるエレピのコード使いと無駄が一切無いスムースなビートが生み出すディープ・ハウスは、完全にLarry Heardのそれと同じだ。4つ打ちではなくダウンテンポでレイドバックした"Digital Sea"では、様々なシンセの音色によるメロディーが複合的に重なり合い、切なさを増幅させている。どの曲もほんのりと温かくアナログの安っぽくも素朴な質感があり、そこに耳に残るメロディアスな旋律とすっきりとシンプルな構成を活かして、ダンス・トラックの機能に頼らずに情感を描き出す音楽性は実に人間的だ。シカゴ・ハウスの一側面としてこんなディープ・ハウスもあるのだと驚きを感じる人もいれば、このアルバムを懐かしく思う人も旧来のリスナーもいるだろうが、どちらの人にとってもきっと一生愛せるアルバムになるのではないだろうか。



Check "Vincent Floyd"
| HOUSE11 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Berkson & What Feat. JoJo De Freq - Make It True (Play It Say It:PLAY005)
Berkson & What Feat. JoJo De Freq - Make It True

古くはPoker Flat Recordingsなどからクールなテック・ハウスをリリースしていたロンドンで活躍するDan Berkson & James What。暫くはリリースが途絶えていたものの2014年には息を吹き返したように作品を続けてリリースしたが、本作はその中の一枚でリミキサーにMr. FingersことLarry HeardとUKハウスの大ベテランであるLuke Solomonがリミキサーとして参加している。本作ではJoJo De Freqをボーカルとしてフィーチャーしている影響もあってか、今までの作品に比べるとやや正統派ディープ・ハウスへと傾倒しているように思われる。カラッと乾いたキックの4つ打ちはシカゴ・ハウス風ながらも、そこに控えめに流麗なコード展開のパッドが被さり色っぽいボーカルが入ってくれば、それはモダンでエモーショナルなディープ・ハウスへと染まる。そしてその上にいつの間にか挿入される動きの多いアシッドのベース・ラインは、決して世界観を壊す事なく情緒性にスパイスを加えるような味付けで、非常にクールながらも穏やかな温かさを生んでいる。UKハウスの中でもアクの強い個性を持つLuke Solomonが手掛けた"Make It True (Luke Solomon 4 Turnings Remix)"は、リズムにメリハリを付けて弾む感覚を含ませながら全体が筋肉質になったようなファンキーなハウスに仕立て上げ、如何にもLukeらしい変異体アシッド・ハウスを披露。そしてやはり完全にLarry Heardの個性へと塗り替えられた"Make It True (Mr. Fingers Psychedelic Jungle Mix)"は、オリジナルから無駄を削ぎ落とし間を活かした構成へ作り替えられ、耽美なエレピやタイトル通りにサイケデリックなメロディーを加えて、厳かな佇まいながらも静かに情緒が薫るようなディープ・ハウスへと生まれ変わっている。オリジナルとリミックス、それぞれにアーティストの異なる個性が光る内容で、パーティーの音楽性に合わせて対応出来るような一枚ではないだろうか。



Check "Berkson & What"
| HOUSE10 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Ken Gill - Love Moon (Alleviated Records:ML-2230)
Ken Gill - Love Moon
Amazonで詳しく見る(MP3)

シカゴ・ハウスの巨匠であるLarry Heardが80年代から運営を続けるAlleviated Recordsは基本は彼自身の作品をリリースするホームのような存在だが、今回Larryのお眼鏡にかなった新人の作品がリリースされた。その人こそシカゴ育ちのKen Gillで、どうやらこのリリースが初の作品のようだ。しかしよくよく調べてみると90年代にはLarryや同じくシカゴのベテランであるBernard Badieとも共同で作品を手掛けていたとの情報もあり、詳細はいまいち掴めていない。そんなミステリアスな素性を抱えながらも作品自体は正にLarry直系のAlleviatedスタイルであり、この情緒的でしっとりしたディープ・ハウスが好みの人にとっては当然の如くマストバイな内容だ。表題曲である"Love Moon"にはクレジットにLarryとBernardも名を連ねており、これはもしやの過去の未発表曲ではないだろうか。ぼんやりとした浮遊感のあるパッドが仄かに情緒的なメロディーを奏で、揺蕩うようなゆったりとしたリズムトラックと黒くマッドなベースラインが下地を支え、そして囁きかけるような艶のあるボーカルが色気を生む構成は、もはやLarryの作品と勘違いする程だ。一方でエグいアシッドのベースがうねる"Just a Test"はこちらもLarryの初期作品を思わせるアシッド・ハウスで、味気ない乾いたリズム・マシンのキックやパーカッションの辿々しいグルーヴと相まって古き良き時代が蘇る。またディスコティックな上モノとポコポコとした躍動感のあるリズムで陽気な曲調の"Idol Mind"と、流麗なストリングスを導入しながらもふざけたようなボイス・サンプルがファンキーな感覚を生む"Jack Wit Honey"も面白い作風で、どれも現在の時代の匂いを全く感じさせずに旧来のシカゴ・ハウスの伝統を受け継いだ懐かしい雰囲気が漂っている。やはり過去に制作された未発表曲のような気はするが、どちらにせよAlleviated Recordsからの作品らしい正統派ディープ・ハウスとして質は保証されている。



Check "Ken Gill"
| HOUSE10 | 08:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Soul Of Hex - Lip Reading EP (Cvmr:CVMR010)
Soul Of Hex - Lip Reading EP

Soul Of Hex、先ず誰も耳にした事のない新人アーティスト…しかし初のリリースである本作にシカゴ・ハウスの孤高の存在であるMr. FingersことLarry Heardのリミックスが収録されているとなれば、どうしたって注視せざるを得ない。後からSoul Of Hexについて調べてみれば、実はQuintessentialsやFaces Recordsから煙たくドス黒いビートダウン・ハウスをリリースしていたメキシコからの4004 & Sebastien Vorhausの変名である事を知ったが、となれば既にLarryは彼等の音源をサポートしている事から今回のリミックスへと繋がったのも合点がいく。オリジナル曲である"Lip Reading"は今までの作品よりも穏やかでLarryを意識したようなディープ・ハウスだ。温かいパッドのメロディー、しっとりとしながらも豊かなJunoのベース・ライン、隙間を活かしながらもカラッとしたキックやパーカッションの4つ打ちと作風自体は非常にシンプルだが丁寧かつ洗練された作り込みで、Larryが得意とする叙情を打ち出している。US西海岸のVin Solによる"Vin Sol Remix"は寧ろ4004 & Sebastien Vorhausを意識したのか、厚みのあるキックを用いた低重心のグルーヴに微睡むような温かいパッドを用いて煙たさも表現したビートダウン系に仕上がっている。同様にUKの新鋭Ny*Akによる"Ny*Ak Remix"もぐっとテンポを落としたビートダウン系ではあるのだが、ヒップ・ホップを意識したようなリズム感と絡み付く粘り強い音質が濃密な黒さを匂わせている。そしてやはり特筆すべきはLarryによる"Mr Fingers Jazzy Dub Mix"であるのは間違いなく、仄かに情緒を匂わす軽いエレピのメロディーと透明感のあるパッド、そしてカラッとした爽やかなパーカッションによる絡みは何処までも開放的で、穏やかな感情が広がるディープ・ハウスだ。どう聴いてもLarryによるオリジナル音源にしか聞こえない程にLarryの個性が光る作風は、昔から現在に至るまでに変わる事のない普遍性を伴っている。



Check "4004" & "Sebastien Vorhaus"
| HOUSE10 | 10:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
The It - The It EP (Alleviated Records:ML-2229)
The It - The It EP

孤高の存在…という言葉を簡単に使うわけにはいかないが、しかし深遠の淵にいるような深い情緒を抱かせる音楽を常に制作しているLarry Heardならばこそ、その表現は相応しい。人肌の温もりを感じさせる親しみ深さがありながら、しかし俗世的な世界からは遠くに位置するその俯瞰した視点は、正に孤高と呼ぶべきだろう。そんな彼も近年は耳を悪くしDJ活動も控えめになり新作のリリースも途絶えていたが、ここに20数年ぶりとなるThe It名義の新作が届いた。The ItはLarryに加え、Marshall JeffersonとのJungle Wonz名義で活動していたボーカリストのHarry Dennisとの共同名義で、過去にはアルバムもリリースするなど蜜月の関係であったようだ。随分と久しぶりとなるこの新作を聴いてもその相性の良さは言うまでもなく…実際にはLarryによるトラックが余りにもLarryらしい為に、いつも通り期待通りなディープ・ハウスに仕上がっている。出だしはブイブイとしながらもしっとりしたベースラインから始まり、薄っすらと情緒が乗った透明感のあるパッドが伸びていく"Somebody Somewhere"は、Harryによる渋いポエトリーと相まって感情を強く刺激する事はせずに、ただただ穏やかな波が広がるように静かに情緒で満たしていく。"Crying"はそのタイトル通りに物悲しさを誘うどんよりとしたキーボードのメロディーがリードし、少々暗さもありつつ囁くように問い掛ける歌によって癒やされる。裏面に収録された"Utopian Dream"はやや硬めのキックが厳つさを含みささやかに悪っぽさを漂わすアシッド・ベースによって、初期シカゴ・ハウスのまだ垢抜けなかった時代のオールド・スクール性が強い。そして比較的からっとしたパーカッションの響きが強調された"Beauty In A Picture"は、慎み深い音楽性の中にも静かに野生のトライバル感を込めているようなハウスだ。長らくLarryの音楽に触れている人にとっては新鮮味を感じる事はないような、だからこそ安心して聴けるクラシカルなディープ・ハウスを正しく継続しており、この変わらない事ことがLarryをLarryたらしめているのだろう。



Check "Larry Heard"
| HOUSE10 | 22:30 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Jovonn - Goldtones (Clone Classic Cuts:C#CC27CD)
Jovonn - Goldtones
Amazonで詳しく見る(US盤)
 Amazonで詳しく見る(MP3)
ハウス・ミュージックの歴史においてニュージャージーからは才能あるアーティストが多く生まれているが、90年代から活動するAllen Jovonn ArmstrongことJovonnもその一人だ。00年代に入ってからリリースした"Spirit"(過去レビュー)ではLarry Heardにも近似する感情的で慎み深いディープ・ハウスを披露していたが、そんな彼にも若かりし頃のまだ荒削りな時代もあり、90年代初期の作品をコンパイルした本作ではそんな原始的なハウス・ミュージックを聴く事が出来る。Jovonnが91〜94年まで運営していたGoldtone Recordsや90年代のNYハウスを引率したEmotive Recordsなどから、Jovonnがリリースした初期作品が収められたという本作は、確かにまだそれ程洗練はされていないものの若さ故の溢れるエネルギーが感じられるハウス・ミュージックを、存分に体験する事が出来るだろう。スタイルとしてはこの頃流行っていた如何にもな重く骨太な弾力性のあるリズムに合わせて、オルガンやフルートにシンセの情熱的な旋律を打ち出した奇を衒う事のない実直なハウスが中心で、今聴くと良く言えば懐かしい味わいが、悪く言えば古臭い印象の音楽性だ。複雑で多層的な作りではなく、分り易いメロディーが軸となりカチッとしたビートが下地を作っていくハウスは、現在のそれに比べればまだこなれてはいないもののだからこそ曲の良し悪しもよりはっきりと明確になるのではと思う。そしてJovonnに関して述べれば心を鷲掴みにするメロディーと力強くタフなグルーヴがあり、これぞ当時のアンダーグラウンド・ハウスだと言わんばかりの魅力を伝えるようだ。誘うような甘いボーカルに合わせて陶酔感のあるシンセを合わせたディープ・ハウスの"It's Gonna Be Alright (Be Smoove dub)"、太いボトムが安定感を生みそこに可愛らしいタッチのメロディーが覆う"Be Free (Vocal Mix)"、ゴリゴリと荒削りなキックと単調なメロディーによってツール性を兼ね備えた"Back To House (Jovonn Classic Goldhouse mix)"など、モダンなハウスと比べればどうしたって時代感はあるけれどそこに色褪せない普遍的な音楽性も感じ取る事は出来る筈だ。こうやって90年代の名作が復刻される、それはリアルタイムで聴いていた人には懐かしくもあり、当方のように未体験の者には新鮮に聴こえるのだ。



Check "Jovonn"
| HOUSE10 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Lawrence - A Day In The Life (Mule Musiq:MULEMUSIQ CD 46)
Lawrence - A Day In The Life
Amazonで詳しく見る(US盤)
 Amazonで詳しく見る(日本盤)
ヨーロッパのLarry Heardとも称されるハンブルグで活動するPeter KerstenことLawrence。Smallville RecordsやPampa Records、そして自身で主宰するDial Recordsなどから実に慎み深く内向的なテクノ/ハウスを世に放っているが、彼の音楽の一部としてアンビエントな要素も特筆すべきだろう。この新作は予てから付き合いのあるMule Musiqを主宰するToshiya Kawasakiと、アートワークを担当したStefan Marxとの10年にも及ぶ交流の結果として生まれたそうで、アンビエント・ミュージックとアートワークに対する愛情を示した作品だとLawrenceは述べる。そう、このアルバムはアンビエント・ミュージックに焦点を当てた作品であり、一切のビートは入っていない。元々の作風としてビートが入ったものでも柔らかく穏やかな音色や落ち着いたテンションが特徴だったので、ではビートが一切入ってないからといって特に違和感がある筈もなく、Lawrenceらしい音楽性が見事にアンビエントに溶け込んでいる。タイトルである"日常のとある一日"、正にその通りなリラックスした穏やかな音色の浮き沈み、いつの間にか空気に溶けこむような意識させない展開は、日常の中に常に気付かずにいながら存在するようなBGMのようでもある。もしくは宇宙における無重力空間でひっそりと瞬く星のように、ひっそりとした空間からぼんやりと浮かび上がる音の粒は、もはやアンビエントという枠を越えて沈深なサウンド・スケープだ。一切の棘もなく静かに体の隅々まで染み渡るような無垢なサウンドは、感情の揺らぎをも生じさせずにただただそこに存在するだけのような、正に日常を感じさせる。決して快楽的なり明るい音楽性ではないが、むしろ真夜中にひっそりと聞きたくなるような鎮静作用のある幽玄なアンビエントとして、ベッドルームで静かに流していたい。



Check "Lawrence"
| TECHNO11 | 17:00 | comments(2) | trackbacks(0) | |
Brett Dancer - The Hybrid EP (NDATL Muzik:NDATL-011)
Brett Dancer - The Hybrid EP

デトロイトにてKai Alceが主宰するNDATL Muzikはデトロイトの才人らの秘蔵トラックなどもリリースするなど、デトロイトのカルトレーベル的な印象を受けるが、そのレーベルの新作はNYにてTrack Modeを主宰するBrett Dancerが担当している。そのTrack Modeはデトロイト〜シカゴの影響が色濃いUSハウスレーベルであり、例えばBrett自身もLarry Heard辺りにも通じるシルキーなディープ・ハウスを手掛けているので、NDATL Muzikとの相性は良いだろう。Brettはと言うと近年は作品のリリースは少なく地味な活動である事は否めないが、しかし本作に収録されている曲を聴けばその才能を感じ取れるはずだ。A面の"Hybrid"は穏やかで柔らかいキックの4つ打ちがスムースなグルーヴを生み、すっと浮かび上がる温かいパッドとコズミックなシンセのリフが落ち着いた包容力を持つディープ・ハウスで、軽快なビート感と相まって実に洗練された味わいを持っている。B面では幾分かアップテンポでエレクトロニックな質感を強調しながらも爽快なボーカルサンプルを取り入れた"Someone (Brett Dancer Dub)"、ラフな音質のリズムが攻撃的ながらもやはり薄く伸びる上モノに優雅な大人の要素を感じ取れる"Something"を収録しているが、基本的にはクラシカルな4つ打ちのディープ・ハウスの体裁を保っている。どれも今の時代を象徴する音ではなく、Track Modeを主宰するBrettという個性を表現する音であり、その意味では自身の音楽性に全くぶれがなくアーティストとして信頼出来るのだ。地味ではあるが淡白ではない、慎ましくソウルフルな感情を打ち出したディープ・ハウスは、時代に関係なく聴ける作品として素晴らしい。



Check "Brett Dancer"
| HOUSE10 | 09:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Julius Steinhoff - Flocking Behaviour (Smallville Records:SMALLVILLE CD09)
Julius Steinhoff - Flocking Behaviour
Amazonで詳しく見る(US盤)
 Amazonで詳しく見る(MP3)
ドイツはハンブルグのSmallville RecordsはUSのディープ・ハウスやシカゴ・ハウス、そしてデトロイト・テクノに目を向け、それをヨーロッパ的な優美さを兼ね備えた音で表現する良質なレコードショップ兼レーベルだ。本作はJust von Ahlefeld(aka Dionne)とのユニットでもあるSmallpeopleの片割れであり、そしてレーベルオーナーでもあるJulius Steinhoffにとって初のソロアルバムとなるが、やはりその内容は前述した音楽性を含むものだ。アルバムの冒頭を飾る"Where Days Begins"は少々シリアスではあるもののデトロイト・テクノの幽玄な情緒性をハウス解釈したような曲で、乾いたハンドクラップやリズムからはシカゴ・ハウスの匂いも伝わってくる。続く"Treehouse"も内向的ではあるものの艶めく囁き声が色っぽさを発し、そこに穏やかなアシッド・ベースを絡めてシカゴのディープ・ハウスを精錬したような作風だ。"Under A Waterfall"や"Hey You"ではようやく闇から抜け出し、純粋かつ透明感を打ち出した穏やかなディープ・ハウスで、白昼夢に包まれるかのような安堵な空気が満ちている。その音楽性はタイトル曲である"Flocking Behaviour"でピークに達し、無駄な装飾を削ぎ落としながら簡素なリズムと清々しい光に包まれるような凛としたサウンドで構成されたこの曲は、初期デトロイト・テクノやシカゴ・ハウスのピュアな佇まいを現代版へとアップデートしているのではと思う。アルバムは通してシカゴやデトロイトのラフな質感を含みながらも非常に穏やかな流れで、控え目ながらもエモーショナルでソウルフルな感情が満ちており、オールド・スクールな音楽を丁寧に磨き上げた事でヨーロッパの音として成り立っている。派手な瞬間は一点も存在しない、それどころかパーティーの騒ぎとは無縁の位置にいるような達観した視点も伺えるが、それはLarry Heardとも共振する隠者のような音楽性が通底しているのだ。



Check "Julius Steinhoff"
| HOUSE10 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
AFMB - A Forest Mighty Black (Drumpoet Community:DPC 047-1)
AFMB - A Forest Mighty Black
Amazonで詳しく見る(アナログ盤)
 Amazonで詳しく見る(MP3)
実に17年ぶりとなるアルバムをリリースしたA Forest Mighty Black。かつてRainer Trubyを擁し90年代のクラブジャズの隆盛の一端にもなったユニットであったが、00年代に入ってからは全く活動も見られなくなりユニットは解散かと思われたが…2009年に"Here & There"のカバーでシーンに返り咲いたのは記憶に真新しい。その後はスイスのハウスレーベルであるDrumpoet CommunityからEPをリリースして復活を確かなものとしていたが、その流れはこのアルバムによって完全なものとなった。残念ながらRainer Trubyはもうユニットには残っていないが、もう一人のメンバーであるBernd KunzによってA Forest Mighty Blackは過去からの変化を遂げながら見事な復活を果たしている。それはアルバム名に自らのユニット名を冠している自信からも分かる通りで、かつて繊細なブレイク・ビーツを取り入れて洗練されたクラブジャズを展開した面影は過去のものとなり、本作ではLarry Heardにも通じる情緒性を打ち出したモダンなディープ・ハウスへとがらっと様相を変えている。この変化を是か否と捉えるかは個人の好みによるが、アルバムの冒頭を飾る"Because Of..."からして内気で侘び寂びのあるピアノのアルペジオや物哀しいストリングスを配したディープ・ハウスで始まり、そのシネマティックな感もある音楽性で引き込まれる。続く"A Tribute"や"Circumstances"でも夜の香りを発するうっとり甘くメロウなメロディーが心地良いスロウなハウスを披露するが、特に"Suite For B-Boy"ではスムースなハウスの4つ打ちと静寂さえもが際立つ厳かな音楽性で、このアルバムがダンス・ミュージックではありながらもその喧騒とは離れた所に位置する事を示唆している。アルバムはその枠から外れる事なく最初から最後までハウスのリズム感としっとりとした情緒性、落ち着いて洗練された空気を保っており、見事な転身を成功させたと言えるだろう。ちなみにアナログ3枚組みではあるがCDも同梱されているので、是非ともアナログでの購入をお薦めしたい。



Check "A Forest Mighty Black"
| HOUSE10 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Sound Of DJ International / Underground (P-Vine Records:PCD-93802)
Sound Of Dj International / Underground
Amazonで詳しく見る(日本盤)

ロウ・ハウスが注目を集める中でそのルーツでもあるシカゴ・ハウスの再評価が著しいが、TraxやDance Maniaと並ぶシカゴ・ハウスの元祖でもあるDJ International(とその傘下のUnderground)の作品集が日本企画でリリースされている。ハウス・カタログ本である「HOUSE definitive 1974-2014」(過去レビュー)との連動企画で、本作に収録された多くの曲は前述のカタログ本でも紹介されているので、合わせて購入すると尚更DJ Internationalへの見識を深める事が出来るだろう。さて、本作にはシカゴ・ハウスの生粋のファンでなくとも知っているであろう名曲が多数収録されている。今尚クラブでプレイされるJoe Smoothによる"Promised Land"、Sterling Void & Paris Brightledgeによる"It'S All Right"などはそうで、例えばガラージの延長線上にあるような琴線に触れるボーカルハウスは、勢いや安っぽさが味のシカゴ・ハウスというイメージを覆すには十分過ぎる程のエモーションと豊かな音楽性を含んでいる。何と言ってもDJ Internationalの初の作品であるSteve "Silk" Hurley(J.M. Silk名義)の"Music Is The Key"さえもが、いたないドラム・マシンのビートや安っぽいシンセのメロディーで構築されたハウスながらも、既にそこにはソウルフルな歌が存在しており実に感情的な世界を作っているのだ。その一方でシカゴ・ハウスを特徴付けていた"Jack"="盗用する"作風も当然あったわけで、Hurleyの"Jack Your Body"やFingers Inc.(aka Larry Heard)の"It's Over"では、ディスコ・クラシックス化した"Let No Man Put Asunder"をネタに使用(盗用)し、前者は今でいうロウ・ハウス的な安っぽくもファンキーな、後者はセクシャルな歌も相まって自己陶酔系の音楽性を開花させている。ディスコからのネタの拝借を行いながら、その先へ進んだ結果としてハウスがそこにあったのようにも今思う。他にも亡くなったばかりハウスの父でもあるFrankie Knucklesによる"Only The Strong Survive"も収録されているが、初期ハウスの垢抜けない空気ながらも可愛らしいタッチのキーボードの旋律や美しい音色には既にFKのその後の王道ハウスのセンスが現れており、DJ Internationalというレーベルがハウスの王道を担っていた事も新たに気付かされるのだ。こういった名曲は色褪せない輝きをいつまでも発するので、是非若いハウスリスナーにも聴いて頂きたい一枚だ。

Tracklistは続きで。
続きを読む >>
| HOUSE10 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Jason Grove - Late Night Connections (Skylax Extra Series:LAX ES1)
Jason Grove - Late Night Connections

デトロイトのローカルシーンで80年代から活動しているDJと言う触れ込みのJason Grove(Groove?)は、2011年に突如としてSkylax傘下のWax Classicからデビュー作をリリースする。その後もSkylax周辺からのみリリースを続けつつ、Moodymannの作品をJMFG名義でエディットしたりと注目を集めているが、一向に正体が明かされない事から誰かの変名ではないかと最近では考えている。そんな謎に包まれつつも最新作をSkylaxから新シリーズとなるSkylax Extra Seriesの第1弾としてリリースしたが、なんとそこにはシカゴ・ハウスの伝説的ユニットであるVirgo FourのMerwyn Sandersとデトロイト・ハウスシーンからNiko Marksが共作として名を連ねている。流麗なピアノのコード展開とソウルフルなボーカルを活かしたベーシックなトラックの"Newlove"からして、小細工無しにハウスのクラシック性を説いているようだが、Merwyn Sandersが参加した"Let It Go"はもったりとしたベースラインとドタドタしたリズムが相まって、最近のアナログ感を強調したロウハウスとも共振するローファイな音質が良い味を出している。裏面には胸を締め付けるロマンティックなムードが強いハウスが収録されていて、パーカッシヴなリズムが力強くもLarry Heardばりの透明感のあるキーボードが望郷の念を駆り立てる"Xxx"、雑踏の音を取り込みつつ図太いキックと呟きボーカルがKDJを思わせる"Division Street"、Niko Marksのメランコリーな歌とフュージョン風なエレピが心揺さぶる"My Language"と、どれもお世辞抜きにして良質なハウス・ミュージックの時代が封入されているようだ。新しさを必要とせずとも変わらない事で守られるもの、タイムレスと言うべきハウス・ミュージックがここにある。



Check "Jason Grove"
| HOUSE9 | 20:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
The Gherkin Jerks Compilation (Alleviated Records:ML-9016)
The Gherkin Jerks Compilation
Amazonで詳しく見る(US盤)
 Amazonで詳しく見る(日本盤)
最近はめっきり新作が途絶えているシカゴ・ハウスの精神的支柱であるMr.FingersことLarry Heardだが、その代わりにリイシューやらリミックスやらはちょくちょくとリリースされている。それに追い打ちを掛けるようにリリースされたのが、彼が1988〜89年にGherkin Jerks名義でリリースした「Stomp The Beat」と「1990」の2枚のEPに未発表曲3曲を追加して纏めた本コンピレーションである。何故に今リリースなのかと言う疑問に対しては新作が出ない分の代替品であろうかと言う憶測は捨てきれないものの、昨今アンダーグラウンドな方面では注目を集めているロウハウスの流れを利用して、そのプロトタイプとも言える初期シカゴ・ハウスを世に紹介すると言う役目を果たしているのだろうと思う。前半の「Stomp The Beat」は正に原始的なシカゴ・ハウスで、アナログのドラムマシンが生み出すたどたどしい簡素なリズムと不安が募るような不気味なアシッドベースをフィーチャしており、剥き出しで粗雑さを敢えて強調したロウハウスの源流と言っても差し支えないだろう。Larry Heardを名乗る前のFingers Inc.やMr.Fingersで活動していた頃は、思慮深く情緒的なハウスではなくまだハウスが衝動で突き進んでたいた音楽性を体現していたのだ。後半の「1990」からはトラック物ではなくより音楽性を重視したLarry Heardに近付いてきており、チージーな音質とさっぱりした構成ながらもコズミックなメロディーが芽を出し、Larry節とも言える情緒的なディープ・ハウス前夜の作風が見受けられる。未発表3曲は完全に狂ったアシッド・ハウスで、ドラムマシンもベースマシンも壊れたように奇っ怪な音を鳴らしていて、シカゴ・ハウスがおおよそ普通のハウスとは言えない変異体であった事を思い起こさせるようだ。ロウハウスが一風変わった作品として期待を集めているが、それと共にこのようにルーツである音楽に目を向ける機会として、レア作品のリイシューは大変ありがたく思う。

試聴

Check "Larry Heard"

Tracklistは続きで。
続きを読む >>
| HOUSE9 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(1) | |
Steven Tang - Disconnect To Connect (Smallville Records:SMALLVILLE CD07)
Steven Tang - Disconnect To Connect
Amazonで詳しく見る(US盤)
 Amazonで詳しく見る(日本盤)
ドイツと言えばテクノ帝国な印象もあるが、以前から述べているようにディープ・ハウスに於いても新旧の音楽性を網羅しながら高い質を誇っている。Lawrenceらが運営するドイツはハンブルクのSmallville Recordsもまだ歴史は浅いながらも、デトロイトやシカゴなどUS産ハウスへの情熱を帯びつつ、現在の音にもフィットさせた無垢で端正なハウスで高い評価を得ている。そんなレーベルも今まではヨーロッパのアーティストを手掛けていたものの、ここにきてシカゴからのSteven Tangの作品をリリースするに至った。Tangは1998年頃から細々と作品をリリースしていたベテランのようで、本作にてようやくの初のアルバムとなっている。シカゴ発のアーティストらしく音自体はどこか乾いて質素な質感もあるのだが、しかし雰囲気としてはデトロイトの情熱的な面を仄かに漂わせ、そしてレーベルの性質である透明感のあるピュアなハウスに傾倒している。オープニングとクローズでは叙事詩の始まりと終わりを示唆するように、アンビエント風な曲でゆったりと流れを作っている。その間には精錬を重ね不純物を排したように透明感のあるシンセが幽玄なメロディーをなぞりながら、シカゴ・ハウスの生々しいリズムやアシッドのベースラインも主張した曲が並び、つまりはLarry Heardを未来へと継承する音楽性が感じられる。Heardらしい孤独感もあるが、単に後継と言うだけでなくテクノとハウスの中庸を進みつつ、より未来的な世界観を持って前進する意志が感じられるのが、Tangの注目すべき点だろう。オールド・スクールとモダンの邂逅と言うべきか、控えめな作風ながらも素晴らしい。

試聴

Check "Steven Tang"
| HOUSE9 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Kuniyuki Takahashi - Remixed Vol.2 (Mule Musiq:mmcd43)
Kuniyuki Takahashi - Remixed Vol.2
Amazonで詳しく見る

北海道を拠点に世界へと飛翔した高橋クニユキ。その生命力が満ち足りたオーガニックなハウス・ミュージックは世界からも高い評価を獲得し、そこからアーティストとして多くの交流が生まれた結果として"Remixed"(過去ビュー)と言うリミックス作品が結実したのが2008年。本作はリミックス集としてその続編にあたるが、Joe ClaussellやLarry Heardと言った以前からクニユキを高く評価しているアーティストや、Roman FlugelにDJ Sprinklesらベテラン勢、Barnt(=Magazine)らニューカマーによるリミックスに加え自身によるリミックスも収録している。前もって述べておくとそれらの楽曲群は既にアナログ化されているものの、全てを揃える事の費用的な問題も考慮すれば、こうやってCDとして纏められた事自体は非常にありがたい。さて、本作では同じ曲を複数のアーティストがリミックスしており、その違いを楽しむのも醍醐味の一つだ。エレクトロニックな音に繊細な強弱をつけながら覚醒的なテックハウスに仕上げた"Earth Beats (Roman Flugel Remix)"に対し、原曲の儚いギターアルペジオを生かして端正なディープ・ハウスへと深化させた"Earth Beats (Fingers Deep Mix)"、そして辿々しいリズムを刻むチープなドラムマシンの音に奇妙な電子音によるメロディーが絡む蠱惑的な"Earth Beats (Magazine Remix)"と、三者三様に自身の音へと染め上げたリミックスを披露しているのは端的な例だろう。またクニユキによるセルフリミックスは、例えばアンビエントなり例えばダンスグルーヴなりと、より一方面への音楽性を前に進めつつも人情味溢れる温かい血潮は失っていない。そんな中で最大限に愛を込めてクニユキの世界観を拡張させたのが"All These Things (Joe Claussell Remix)"だろう。原曲の切ないピアノの音粒が滴り落ちるジャジーな作風を引き継ぎつつも、22分超えの7楽章にまで拡大解釈した壮大な展開を繰り広げるリミックスは、Martin Luther King Jr.の有名な説法も導入されて霊的な力も携えたコズミックなディープ・ハウスへと世界を広げている。Joeのスピリチュアルな性質に染まった圧倒的なまでに神々しい世界観に対し、謙虚な気持ちでその聖なる音を一身に受け入れたくなる至高の曲だ。同じ曲のリミックスが多いのは少々気になるところではあるが、リミキサー自体に確かな才能を持つアーティストが招かれている事もあり、クニユキとの高い親和性を持ちつつバラエティーに富んだリミックス集となっている。

Check "Kuniyuki Takahashi"

Tracklistは続きで。
続きを読む >>
| HOUSE9 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
2013/7/5 DJ Kabuto presents LAIR @ Grassroots
クラブと言うよりはDJバー、更には音楽と酒好きの溜まり場とも言える高円寺の魅惑のフロア、Grassroots。今回は元Future Terrorのメンバーでもあり現在はCABARETなどでもレジデントを担当しているKabutoが、ここGrassrootsで定期的に開催しているLAIRへ初めて参加。ゲストにはITICO ERETSなる聞き慣れないDJとOut Of Control a.k.a. Naoki Nishidaを迎えており、どんな音が流れるのだろうと言う期待感も込めて遊びに行ってきた。
続きを読む >>
| EVENT REPORT4 | 10:30 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Simoncino - Open Your Eyes (Mathematics Recordings:MATHEMATICSCD122)
Simoncino - Open Your Eyes
Amazonで詳しく見る(US盤)
 Amazonで詳しく見る(MP3)
L.I.E.S.やSkylaxにQuintessentialsなどその他多くのハウスレーベルから作品をリリースし、アンダーグラウンドの方面では引く手数多の存在となっているイタリア人のNick Anthony Simoncino。シカゴ・ハウスへの偏愛は狂信的な程に制作する音楽へと表れており、このご時世に於いてはシカゴ外からのオーセンティックなシカゴ・ハウスの第一人者と言っても過言ではない。昨年リリースした1stアルバムも古典的なアナログ機材を使用してLarry Heardばりの枯れた郷愁たっぷりのハウス作品となっていたが、この2ndアルバムもその流れから全くぶれずに踏襲したハウスアルバムで、もはや伝統芸能とも言える普遍的な空気が漂っている。ヴィンテージなマシンから生み出される安っぽくも素朴なリズムはジャッキンなシカゴらしさがありながら、それとは対照的な全身を優しく包み込むような温もりのあるシンセのメロディーは幻想的で、どうしようと古いマシンが人間臭く温かみのある音を鳴らしているのだ。一見淡々として俗世から距離を置いた乾いた世界観ながらも、内に燻る感情を静かに発露する控え目な叙情感はこの上ないもので、ハウスの抽象的な初期衝動が隠れて存在しているようだ。またリミキサーとしてRon TrentやDream 2 ScienceのGregg Foreが参加している事や、曲名でLarry Heardへの忠実な愛を示す"Fingers Theme"と言うのが付けられている事からも、本物のオールド・スクールなシカゴ・ハウスを現代に指し示そうとしている事に気付くだろう。流行り廃りでシカゴ・ハウスの復権に取り組んでいるのではない、Simoncinoはイタリア人ながらも心は完全にシカゴに染まりきっている。諸手を上げて大絶賛するハウスアルバムだ。

試聴

Check "Simoncino"
| HOUSE9 | 10:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Mr.Fingers - Amnesia (P-Vine Records:PCD-93617)
Mr.Fingers - Amnesia
Amazonで詳しく見る(日本盤)
 Amazonで詳しく見る(MP3)
ハウスがまだ単に衝動のみの音楽であった時に、そこに豊かな感情の起伏や抽象的な楽曲性を持たせる事に成功したアーティスト、それがシカゴ・ハウスのレジェンドであるLarry Heardだ。もし彼が居なければ現在のシカゴ・ハウスやディープ・ハウスにデトロイト・テクノも、今のそれとは違った音楽性となっていたかもしれない、そう思わせる程のインスピレーションを今も多くのアーティストに与え続けている。本作はそんな彼の初期の名作を集めたMr.Fingers名義の1stアルバムであり、そしてベストアルバムでもある。当時は本人の許可無く勝手に纏められてリリースされたせいか非常にレア化していたのだが、この度正規に復刻された事を本当にありがたく思う。ここには狂気のアシッド・ハウスもあれば、ジャジー・テイストでお洒落なハウスも、内面を掘り下げるディープ・ハウスも、そしてあまりにも純粋な愁いを誘うアンビエント・ハウスまで、ハウスの指標となるべき古典中の古典が礼儀正しく並べられている。Robert OwensをフィーチャーしたFingers Inc.名義では歌を組み合わせたエモーショナルな作風を見せていたが、このMr.Fingers名義では歌を入れない完全なトラック物として制作されている。がなのに尚胸の奥底を締め付ける希望や慈愛、そして愁いと言った感情がより強く感じられるのは、一体何故なのだろうか。Juno 106やJupiter 6などのシンセとTR-707やTR-909などのドラム・マシンなど数少ないをアナログ機材を元に、シンプルな構成でありながら温かみのある豊かな音色が想像力を掻き立てる思慮深いトラックは、それまでのハウスミュージックとは一線を画すアートとしての側面を持ち合わせていたのだろう。寡黙ながらも音で自らの内面を表現する正にアーティストの中のアーティスト・Larry Heard、その初期の活動の最良の瞬間がここに閉じ込められている。





Check "Larry Heard"
| HOUSE8 | 09:30 | comments(0) | trackbacks(1) | |
Kuniyuki - Earth Beats (Live & Larry Heard Remix) (Mule Musiq:mule musiq 151)
Kuniyuki - Earth Beats (Live & Larry Heard Remix)

世界へと羽ばたいた日本のレーベル・Mule Musiqを代表するアーティストである高橋クニユキの新作は、幾度目かの復活となる"Earth Beats"のリミックスEPだ。初出は2005年でその後Henrik SchwarzやChateau Flightにリミックスされ、最近もRoman FlugelとMagazineにリミックスされたばかりなのだが、その勢いを止める事なくシカゴ・レジェンドであるLarry Heardの手に依って更なる復活を果たした。これだけリリースを重ねると言う事はクニユキ氏本人にとっても特別な思いがあるのだろう、本人がライブ演奏した"Kuniyuki Live Version"も収録されている。このライブ盤はオリジナルの繊細なジャジーテイストから一変して、アコギのメロディーは残しつつも硬質なエレクトロニックサウンドを強調したテクノテイストになっており、こんなアレンジもあるのかと驚かされてしまう。そしてLarry Heardはなんと3バージョンも提供している事から相当の気合の入れようが伝わってくるが、やはり素晴らしいのはディープ・ハウス仕様の"Fingers Deep Mix"。しっかりと芯のある強いイーブンキックな4つ打ちをベースにしながらも、繊細で儚いアコギの爪弾きラインに愁いに満ちたシンセストリングスなどを被せてしっとり感とフロア対応のダンスグルーヴを共存させ、Larry節とも言える郷愁の世界を演出している。更にはLarryがシカゴ出身である事を今更ながら思い出させる"Fingers Acid Edit"は、これぞシカゴの特徴と言える中毒的なアシッドベースを導入した神経を麻痺させるようなディープ・ハウスとなっており、エグいDJセットにも使えそうな癖のあるアレンジになっている。そして最もメロウな旋律を生かしたビートレスバージョンである"Fingers Ambient Mix"は、踊り疲れたフロアの朝方にほっと心を癒してくれるであろう美しき空間が広がるバージョンだ。と様々な作風の"Earth Beats"が収録されているのでDJにも重宝するであろうし、どのアレンジも素晴らしいのでDJでなくとも手元に置いておきたいものだ。

試聴

Check "Kuniyuki Takahashi"
| HOUSE8 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Smallpeople - Salty Days (Smallville Records:SMALLVILLE CD 05)
Smallpeople - Salty Days
Amazonで詳しく見る(US盤)
 Amazonで詳しく見る(MP3)
ヨーロッパのLarry Heardと呼ぶのは言い過ぎだろうか、Julius SteinhoffとJust von Ahlefeld(aka Dionne)によるSmallpeopleの初のアルバムは極めて穏やかな世界が広がるディープ・ハウスが詰め込まれている。ちなみにこの二人はLawrenceと共にドイツにてSmallville Recordsと言うレコードショップ兼レーベルを運営していて、その方向性はデトロイトやシカゴら辺のディープ・ハウスへと向いておりUSアンダーグラウンド・ハウスの復権に貢献している。Smallpeopleとしての活動は2009年からで自らのSmallville以外にもUSのUnderground Qualityからもハウストラックをリリースしていたが、その流れもこのアルバムを聴けば確かに納得のUSハウスに密接にリンクした内容だ。音自体には目新たしさと言ったものは無いものの一切の灰汁を取り除いた透明感と優しく包み込む情緒に溢れた90年台のハウス風であり、ダンスミュージックとしての4つ打ちのフォーマットを正しく守りつつも非情に音楽的 - 豊かなメロディーやスムースなコード展開と言う意味で - な作品であるからして、ハウスに馴染みのない人にとっても入門編として適切だ。勿論それはただ聴きやすいだけの商業的なハウスとは異なり、90年台のミドルスクールを思い起こさせるシカゴ・ハウスの乾いたリズムトラックの音色や薄く幻想的に伸びるパッドなどアナログ感を打ち出した素朴な人間臭さもあり、彼らが本当にハウス黄金時代の復権に誠実に取り組んでいるのが伝わってくるだろう。Larry HeardがDJ業から引退してしまったが、しかしSmallpeopleのこのアルバムを聴き次世代が育っている事を確認出来てほっと安心した。



Check "Smallpeople"
| HOUSE8 | 12:00 | comments(0) | - | |
Brett Dancer - Euphonic Moods EP (TMR Essentials:TMRE-001)
Brett Dancer - Euphonic Moods EP

Theo Parrish、Larry Heard、Alton Miller、Anthony Nicholson、Chez Damierと言った伝説的な才人の作品をリリースし、NY発ながらもシカゴやデトロイトのアンダーグラウンドなハウスのバックアップをし続ける名門レーベル・Track Mode。そのレーベルを主宰するのが自らアーティストとしても活躍しているBrett Dancerで、この度サブレーベルとしてTMR Essentialsを始動させてその第一弾として自身の作品をリリースさせました。派手な作風でもなくアルバムのリリースもなく今までに地味な活動を続きてきたBrettではありますが、多くの名作をリリースさせたそのセンスは自身の普遍的なハウストラックを制作する事にも影響しているのだろうか、このEPに於いても普遍的とも言えるディープ・ハウスを披露しています。"V2"の薄く消え行きそうに延びるアンビエントなパッドの幻想感、しんみりと心を温めるシンセのリフに重くない軽快かつ単純な4つ打ちのリズムから成るハウスに、激しく心揺さぶる熱狂はないものの一歩下がって冷静に見つめたような控えめな叙情感の表現はベテランらしい侘び寂びを感じられます。また"Space"や"The Lost"にしてもやらためったらと感情を剥き出しにする事なく、ウォーミーな柔らかいシンセ使いを基調に安定感のあるハウスのグルーヴをクールに流しているだけなのに、アダルティーな優雅さ演出する聞かせ方に彼のハウスに対する求道的な姿勢が伺えます。こんなに素晴らしい作品を手掛けているのに、アルバムをリリースしないのがもったいない位ですね。

試聴

Check "Brett Dancer"
| HOUSE8 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Nick Anthony Simoncino - The Dream Of Amnesia (Thug Records:THU0007)
Simoncino - The Dream Of Amnesia

「アムネジアの夢」と冠されたタイトル、そしてその空気をそのまま投影した美しいジャケット、もし貴方がこのアルバムについて何も知らなかったとしてもレコード屋で見かけただけで魅了されるだろうパッケージに違いない。このアルバムを制作したのはイタリア人のDJ/アーティストであるSimone VescovoことSimoncinoで、Nicholasと並びイタリアからオールド・スクールなシカゴ・ハウス/デトロイト・テクノへの復権を推し進める気鋭のアーティストだ。今までにもリミキサーとしてシカゴの伝説的な才人を起用するなどその妄信的な音楽愛は真のモノであったが、この初のアルバムもトラック制作の段階からしてTR808やTR909などの古いドラムマシンからヴィンテージなシンセサイザーにカセットテープのレコーダーまで使用し、完全に時代に逆行したローファイを目指してコンピューターやソフトウェアを一切排除して作り上げた作品だ。現世から隔絶されたタイトルやジャケットの透明感、そしてその制作方法から思いつくのがLarry Heardであろうが、実際のトラックも質素で生々しいキック/パーカッションや透明感のある幻想的なシンセが人肌の温もりを表現する80年台のシカゴ・ハウスだ。この作品を聴いて今が本当に2012年なのかと疑いたくなるが、間違いなくこれは2010年台から生まれたシカゴ・ハウスであり、音自体はチープで味気ないのに何故にこうも切ない程に感傷的であり、地味ながらも芯のある荒々しさを伴うのか。全体的な温度感は低めで瞬発力で盛り上がる曲は無いが、じわじわと低温で燻りながら何時の間にか心に火を灯すようなスルメ的なハウスで、もうこれはイタリアからのなんて説明は不要な位に本物のシカゴ・ハウスだ。その証拠にアルバムのラストには本家からLarry Heardがリミックスを提供しており、またこれが12分超えのアシッドが不気味かつ激渋メロウなディープハウスで、その金太郎飴的な作風も極めれば偉大である。データ配信もCDも無しのアナログ2枚組と言うフォーマットでのリリースで、リリースまでの全てにこだわりを持ったアルバムにほとほと頭が下がる思いだ。

試聴

Check "Simoncino"
| HOUSE7 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Tom Trago - Iris (Remixes) (Rush Hour Recordings:RH 114 RMX)
Tom Trago - Iris (Remixes)
Amazonで詳しく見る(MP3)

オランダからデトロイト・テクノ/シカゴ・ハウスの復権を促すRush Hour Recordingsから、Tom Tragoの新作はなんとシカゴレジェンドのTyree Cooperをボーカルに迎えたリミックス集。しかもリミキサーにはこれまたシカゴ・ハウスの巨匠であるLarry Heardに、Firecracker Recordingsを主宰するLinkwood、そしてブルガリアからのKiNKを起用と話題性も抜群の一枚。格段に素晴らしいのが完全にLarry節全開となる"What You Do (Larry Heard's Fingers House Dub)"で、憂いを帯びた切なく物悲しいコードを展開するキーボード使いが素晴らしく、しみじみとした枯れ具合が心にそっと染みこんで労る様です。無駄を省いたシンプルなベースラインやキーボードの旋律などが目立つものの、何処までも丁寧に作り上げた作風こそLarryの心情を雄弁に物語るこれぞディープハウスと言う一曲です。一方Linkwoodによる"Being With You (Linkwood Remix)"は、フランジャーをかけたハットで抑揚を出しつつや浮遊感のある幻想的な上モノが広がり、それが未来的な初期デトロイト・テクノを思わせる良作。また音自体は綺麗だけれども懐かしさを感じさせる素朴な音色で満たされており、それが余計にメロウさを際立てています。一番シカゴ・ハウスらしいのが"What You Do (KiNK's Peaktime Remix)"で、ザクザクとしたハイハットや汚らしいスネア、不安を誘うオルガンのメロディーに狂気じみたTyree Cooperのボーカルが乗っかり、前述の二曲とは全く異なる暴力的なリミックスとなっています。全曲文句無しに素晴らしく、是が非でも聴いて欲しい一枚です。

試聴

Check "Tom Trago"
| HOUSE7 | 12:30 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Dream 2 Science - Dream 2 Science (Rush Hour Recordings:RH-RSS 4)
Dream 2 Science - Dream 2 Science
Amazonで詳しく見る(MP3)

コズミックなユニット名とそしてRush Hourよりリリースされている事に興味を惹かれて聴いてみたら、これがまた見事なミドルスクールなハウスで流石Rush Hourは目の付け所が違うなと感心。と思っていたら実はエレクトロユニットであるNewcleusのメンバーの一人であるBen Cenacが、90年にNYハウス全盛の中でリリースしたクラシックだったとの事。それをRush Hourがリマスターを施した上にリイシューしたのですが、こうやって未だ見果てぬ音楽に出会う機会を与えてくれるレーベルにはほとほと頭が下がります。恐らくTR-707、808辺りのアナログリズムマシンを使ったであろう素朴なキックやハットの4つ打ちに躍動するラフなベースライン、Jupiter 8の透明感のあるシンセのパッドを薄く伸ばしたアンビエントな空気もあるハウスは、例えばLarry Heard辺りをも思わせる典型的なシカゴハウス/NYハウスで懐かしくて優しい。作り込まれたとは到底言えないシンプルかつ原始的なハウスにも拘らず、今聴いても古く感じる以上にそのハウスの生まれたての人間臭さを伴う音色や分り易いメロウなコード展開に哀愁を覚え、時代を超えて受け継がれる要素を見出す事でしょう。名は体を表す、正にその言葉通りなEPですね。ちなみにアナログ盤にはBen CenacがJupiter 8をプレイしているところを写した当時の写真も封入されています。

試聴

Check "Dream 2 Science"
| HOUSE7 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Ron Trent Feat. Robert Owens - Deep Down (Foliage Records:FOLIAGE021)
Ron Trent Feat. Robert Owens - Deep Down
Amazonで詳しく見る(MP3)

シカゴ×シカゴ×シカゴ=最良のHouse Music。シカゴ・ハウスの早熟の天才であるRon Trentにハウスミュージックの数々の名曲に於いて素晴らしい歌声を披露してきたRobert Owens、そしてハウス・ミュージックを単なるダンスミュージック以上のモノへと押し上げた孤高のアーティスト・Larry Heardが揃ったとなれば、それは当然期待以上の作品を送り出してくるのは言うまでもないでしょう。元々は2008年にRon主宰のFuture Visionよりリリースされていた曲ですが、この度Larry Heardのリミックスも新たに追加しライセンスされてリリースされております。滴り落ちるピアノの旋律や浮遊感のあるコード展開は何処までもエモーショナルで、弾けるパーカッシヴのリズムが爽やかに満ち溢れ、そして切ない感情を吐露するかの如く艶かしい声を聞かせるRobertの歌がぐっと雰囲気を色気付けるオリジナルバージョン。そして平坦にグルーヴは抑えながらも芯のあるリズムと憂いの情感がぐっと詰まったシンセの音を響かせ、感情に訴えかけるメッセージを強くしたディープハウスへと作り替えたMr.Fingersのリミックス。どちらともアーティストの個性を強烈に打ち出しながらも、しかし静かに燃える感情を控え目に曝け出す作風は共通する点もあるのでは。変らない作風、しかし生き続けるレジェンドの真価がここにあります。

試聴

Check "Ron Trent"
| HOUSE7 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Ken Ishii - Music For Daydreams EP (Unknown:KI001)
Ken Ishii - Music For Daydreams EP
Amazonで詳しく見る(アナログ盤)

Ken Ishii自身もパーティーの最後にプレイする事もある後世に語り継がれるクラシック中のクラシック、Fingers Inc. (= Mr.Fingers = Larry Heard)の"Can You Feel It"。余りにも儚く余りにも感情的なこの作品をリミックスする事は、もしかしたら危険をはらむ事でもあると思う。オリジナルへの強い愛情や尊厳を壊す事なく、そしてリミックスを行う事で如何に更なる高みへと飛翔すべきか、それを両立するのは出来過ぎたオリジナルに対しては困難な作業に決まっている。その結果、Ken Ishiiが導きだした答えは特徴だったパッドのコードとベースラインは崩さずに、菊池成孔を迎えジャジーなサクソフォンのメロディーを追加し都会的に昇華された夜の営みとその裏に潜む侘しさを表現した、つまりはオリジナルの空気を踏襲した上で大都市の喧騒の中で高らかに鳴り響く作風へと作り替えている。まさか"テクノ"のKen Ishiiがこの様なアプローチを行うとは想像だに出来なかったが、きっと変化の季節だったのだろう。そしてその方向性はKen Ishiiに新たなる魅力を与える事に成功した。裏面には"After The Rainstorm"のYogurt & Koyasによるリミックスが収録されているが、こちらは完全にフロア向けのダンストラックとなっている。原曲は華麗に舞い踊るピアノの演奏が派手ながらも都会の綺羅びやかさを演出していたが、このリミックスではそう言った趣きは残しつつも都会のネオンライトの光の中を疾走するようなハイテックなダンスチューンへと生まれ変わらせ、フロアのピークタイムを沸かす壮大な展開が繰り広げられる。何処をどう聴いてもYogurt & Koyasな作風となっていて、胸が高鳴り心も躍るポジティブな力に圧倒されるばかり。

試聴

Check "Ken Ishii"
| TECHNO9 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Nightmares On Wax Presents Wax Da Beach (Ministry Of Sound:MOSCD267)
Nightmares On Wax Presents Wax Da Beach
Amazonで詳しく見る

バレアリック・ミュージックが生まれたイビサ、享楽都市を現実のものとしたこの島では多くのクラブで数多のパーティーが開催されているが、ダウンテンポのマスターであるNightmares On Waxが主催する"Wax Da Beach"もイビサで開催されている。自分はイビサには行った事はないが、しかし"Wax Da Beach"の空気をパッキングした本作を聴けば、きっとイビサの海岸から見る夕日はどれだけ素晴らしいんだろうと想像するのに難くない。いかなる時も緩いメロウソウルを貫くNOWの事だから本作でも良い意味で普段通り、ソウルやラヴァーズ・ロック、ジャズやファンク、そしてダンクラから少々のハウスまでを軽くミックスさせながら甘美なダウンテンポを鳴らしている。2枚組に分けられてはいるが片やSunset、片やSun Downとそのタイトルからは明確はコンセプトの差は分からない。聴いた限りで判断すればSunsetの方はルーズなグルーヴとしっとりとした郷愁が強く陽が落ちるまでの時間帯、Sun Downは濃密でアダルティーな空気が増してくる日が落ちてからの時間帯と言った印象で、2枚通して聴く事でゆったりとした風景の移り変わりを体験出来るはずだ。世の中にはお洒落なだけのMIXCDや陳腐なチルアウトのコンピレーションが氾濫しているが、NOWはブラックミュージックやダンクラなど自分のルーツを掘り下げつつイビサの快楽的な空気にも適応させた選曲を行い、楽園の心地良さと音楽の成熟を兼ね備えている。上質なダウンテンポを聴きたければ、そして恋人と甘い時間帯を過ごしたいならば、本作はそんな願いを叶えてくれる一枚になるだろう。

試聴

Check "Nightmares on Wax"

Tracklistは続きで。
続きを読む >>
| ETC(MUSIC)3 | 14:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Dionne - Back On The Planet (Smallville Records:SMALLVILLE23)
Dionne - Back On The Planet
Amazonで詳しく見る(アナログ盤)
 Amazonで詳しく見る(MP3)
2006年ドイツはハンブルグで設立されたLawrenceらに依るレーベルかつレコードショップ・Smallville Recordsは、まだまだ歴史は浅いながらもMove DやSTLなどのミニマルハウス〜ディープハウスに長けたアーティストを擁し、注目を集めるレーベルの一つとなっております。Just von AhlefeldことDionneもそんなレーベルの共同運営者の一人で、同レーベルからは2枚目となるアナログをリリースしております。ムーディーでジャジーな音楽に注目していると言う彼等の言葉通りに、Dionneの新作、特に"Back On The Planet"はまるでLarry Heardの"Can You Feel It"の再来と言っても過言ではないかもしれません。素朴で乾いたTR-909風なキックやハットのリズム、アシッディーなのに優しいベースライン、崇高にさえ感じられるエモーショナルなシンセストリングスの調べは、単純な旋律の反復なのに尚叙情を喚起させるあの名曲と同じ空気を纏っております。そして裏面にはハンドクラップを使用した古き良き時代のシカゴ・ハウスを意識した"What You Are"と、ミニマルな展開とミステリアスな雰囲気が深みにはまらせる"Capsule"の2曲を収録。全てにおいて言えるのは古典主義なシカゴ・ハウスを下敷きにしつつ、綺麗に纏め上げたモダンな作品でありレーベルの方向性を端的に表しているのではないでしょうか。

試聴

Check "Dionne"
| HOUSE7 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Gene Hunt Presents Chicago Dance Tracks (Rush Hour Recordings:RH115CD)
Gene Hunt - Presents Chicago Dance Tracks
Amazonで詳しく見る(US盤)
 Amazonで詳しく見る(MP3)
シカゴ・ハウスの氾濫。間違いなく皆が感じているであろうシカゴ・ハウスの逆襲は、遂には未発表音源の発掘にまで至る。元々CDRなど無かった80年代、出来上がった曲はオープンリールと言うテープに記録され、それをDJがクラブで使用してフロアの反応を見ていたそうだ。そう云ったアーティストが制作した新譜は別のDJに手渡されリリースまでに漕ぎ着けた物もあれば、そのまま日の目を浴びる事なく倉庫の奥底に追いやれてしまう事もあったであろう。時代の流れと共に多くの遺産は、そのまま封印されてしまった…が、今やシカゴ・ハウスの時代が戻ってきている。そして一際その流れを作り出しているオランダのRush HourとシカゴのベテランDJ:Gene Huntが手を組み、彼がかつて友人から手渡された1982〜1989年までの時代に埋もれし作品をコンパイルしてしまった。勿論どれも未発表かつヴァイナル化されていない貴重な作品なのは言うまでもなく、Larry Heard、Farley "Jackmaster" Funk、Lil Louis、そしてRon Hardyら大御所までの作品が眠っていた事自体に驚くであろう。今これらの楽曲を聴いてもダサい、古臭い、そう云った言葉が思い浮かぶのは当然で、TR系の渇いたキックやパーカッションやチープなアナログシンセが生み出す荒削りな初期シカゴ・ハウスが、如何に理論よりも衝動や勢いを重視していたかは聴けば納得するであろう。平坦でドタドタしたグルーヴ、質素で味気ない音質など確かに完成度と言う点においては足りない点もあれど、しかしファンキーさを超越したマッドな悪意さえ感じられる不穏な空気に神経も麻痺させられるであろうし、シカゴ・ハウスの最初期の時代を感じられる事に意義があるのだろう。

試聴

Tracklistは続きで。
続きを読む >>
| HOUSE7 | 09:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Motor City Drum Ensemble - DJ Kicks (Studio !K7:!K285CD)
Motor City Drum Ensemble - DJ Kicks
Amazonで詳しく見る(US盤)
 Amazonで詳しく見る(日本盤)
タイコクラブへの出演が決まっていたにも拘らず、東日本大震災の影響で来日がキャンセルとなったMotor City Drum EnsembleことDanilo Plessowでしたが、その穴を埋めるには十分な作品がリリースされました。Studio !K7の長らく続く名物MIXCDシリーズの最新作としてMCDEが抜擢された訳ですが、これが予想以上に幅広いジャンルを詰め込でおり、まるでダンスミュージックの歴史を掘り返すと言っても過言ではないような気がします。年代で言えば1977〜2011年までの34年を横断し、Sun Raのスピリチュアル・ジャズで始まりRhythm & Sound(Basic Channel)のレゲエで黒い泥沼に嵌り、Mr. Fingers(Larry Heard)の垢抜けないローファイな初期シカゴハウスの温もりに包まれる。そしてFred Pの華美なディープハウスもあればRobert Hoodの芯の強いミニマルテクノも通過し、笹暮だったファンキーなMotor City Drum Ensembleの新曲の後にはAphex Twinのメタリックなアンビエントで冷水を浴びせられる。ラストにはフュージョン・ソウルの傑作"Sweet Power, Your Embrace"が待ち侘びて、ほっこり酸いも甘いも噛み締めるボーダレスな選曲。しかし特筆すべきはMCDEが創り出す世界観の統一で、年代に差はあれど根底にはブラックミュージックの生温かい血潮が通っており、ジャンルとしての多彩さは感じられてもその幅の広さ程には違和感が無い事にMCDEの音楽への造詣の深さが伺えます。色々詰め込み過ぎてクラブ直結MIXCDと言うよりはコンピレーション的な印象もありますが、どんな音も黒く染め上げる手腕はTheo Parrishとも通じる物があり、ビートダウンな展開をじっくりと味わえる好内容ですね。

試聴

Check "Motor City Drum Ensemble"

Tracklistは続きで。
続きを読む >>
| CROSSOVER/FUTURE JAZZ2 | 12:00 | comments(2) | trackbacks(2) | |
Prosumer - Panorama Bar 03 (Ostgut Ton:OSTGUTCD17)
Prosumer - Panorama Bar 03
Amazonで詳しく見る(US盤)
 Amazonで詳しく見る(日本盤)
Ostgut Tonを主宰するベルリンで最も人気のあるクラブ・Berghain/Panorama Bar。圧倒的な圧力のテクノを繰り広げるBerghainに対し、メロウで古き良き時代のハウスも取り込んだPanorama Barと、相反する趣向でありながらアンダーグラウンドなダンスミュージックを世に知らしめる良い意味での窓口的なクラブと言えるのではないでしょうか。本作はそんなPanorama Barでレジデントを務めるくまのプーさん風のProsumerが担当したハウスミックス。日本にも何度か来日しており、その際には古いクラシックなハウスも惜しみなくプレイするオールドスクールっぷりを発揮していたそうですが、この作品を聴いても確かにハウスに対する愛情が伝わってきます。Romanthony、Circulation(Joshua Iz)、Fingers Inc.(Larry Heard)、QX-1と云った90年代以前の懐メロ的なハウスに合わせて、SteffiやOracyと云った最新のベルリンディープハウス、果てはTheo ParrishやServo Unique(Jeff Mills)、そしてまだリリースされていない未発表の最新の曲まで使用したメロウで何処か懐かしさも感じさせる古き良き時代の音。時代を先取るベルリンのクラブ担当でありながら、しかしハウス、特に垢抜けない乾いたシカゴハウスの音を躊躇なく推し進めるそのプレイは、時代に関係無く常に良質な音楽性を求める姿勢の表れではないかと思います。現実にシカゴハウスのリバイバルを感じている人は多いだろうし、その一端がPanorama Barにあると言っても過言ではないでしょう。



Check "Prosumer"

Tracklistは続きで。
続きを読む >>
| HOUSE6 | 09:00 | comments(0) | - | |
Assorted Elements E.P. (NDATL Muzik:NDATL005)
Assorted Elements E.P.

DEMFのアフターパーティ会場で200枚だけ販売されたと言う触れ込みのEPが、そこから一年を経て新曲も追加した上で公式リリース。とは言っても今回もワンショットのみなので、気になる方はお早めに。NDATL MuzikはKai AlceがNew Yorkで立ち上げたレーベルで、しかし音の方向性は確実にデトロイトハウス/シカゴハウスのオールドスクールへと向けられているアンダーグラウンドなレーベルです。特にデトロイトの伝説的なクラブ"Music Institute"のアニバーサリー時には、偉人らの未発表曲を発掘してコンピレーションとしてリリースするなど特異な運営を行っています。本作でもKai Alce(=KZRC)自身以外にも、Theo ParrishとLoosefingers(=Larry Heard)らの曲が収録され内容は抜群。Kai Alceの"Lost"、Loosefingersの"303 Indigenous"ではトリッピーで不気味なアシッドが反復するTB-303アシッドハウスは彼らのお家芸で、変わらない事が良くも悪くも彼らの信条。お薦めはTheo Parrishの"Voice Echoes In The Dark"、最近の彼の方向性とは異なるボイスサンプルを執拗に繰り返すミニマルなトラック。シカゴハウスの雑な音質を出しながらも普段よりエレクトロニック度も高めで、彼の作品の中ではかなりフロア向けです。KZRC名義の"Thoughts...Sunny Day"のみソウルフルな面を打ち出したジャジーハウスで、ラフな音質の中にも色気が漂っており官能的。駄曲一切無し、デトロイト/シカゴ好きには涎が出る一枚です。

試聴
| HOUSE6 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
UPCOMING EVENT
2011/3/4(FRI)
STERNE @ Womb
Live : Hardfloor
DJ : Takkyu Ishino, Ten

2011/3/5(SAT)
FACE presents Andre Collins Japan Tour 2011 @ Eleven
DJ : Andre Collins, Ryo Watanabe

2011/3/5(SAT)
Only 1 DJ @ Grassroots
DJ : Keihin

2011/3/11(FRI)
CITY TRIANGLE VOL.2 @ Air
DJ : Ken Ishii, Mickey Zhang
LIVE : O.N.O

2011/3/12(SAT)
Return of The DJ 7 Hours @ Oppala
DJ : DJ Yogurt

2011/3/12(SAT)
Larry Heard Japan Tour 2011 @ Eleven
DJ : Larry Heard, ACKKY, Kez YM

2011/3/19(SAT)
Chez Damier in Tokyo @ Eleven
DJ : Chez Damier, STEREOCiTI, Remi, Kouki.K

2011/3/20(SUN)
The Boss @ Liquid Loft
DJ : 高橋透×Jazzy Sport Crew(cro-magnon, Out Of Control a.k.a Naoki Nishida, OKD)

2011/3/25(FRI)
Andres Japan Tour 2011 @ Air
DJ : Andres, T.Seki
Live : Coffee & Cigarettes Band

2011/3/25(FRI)
The Oath @ Oath
DJ : DJ Yogurt, Altz, Gonno

2011/3/26(SAT)
Hi-TEK-SOUL @ Air
DJ : Derrick May
| UPCOMING EVENT | 12:00 | comments(5) | trackbacks(0) | |
Alton Miller - Light Years Away (Mixed Signals Music:MSMCD-002)
Alton Miller - Light Years Away
Amazonで詳しく見る

欧州で勢い付くニューハウスやモダンハウスなるムーヴメントとは対称的に、アメリカ産の古典的なハウスは以前程の輝きが見られなくなっておりますが、そんな中でもひっそりと地味にしかしながら揺るがない音楽性で活動を続けるデトロイトのAlton Miller。新作も変わらない、変える必要は無い、どこまでベーシックなハウス性を保ちながら彼らしい音を突き詰めております。リズミカルな細かいパーカッションの配置やシルキーで優しい鳴りのアナログ系のサウンド、スムースなコード展開、そして洗練され上品な空気を生み出すボーカル群と、派手さとは無縁なしっとりと落ち着いた内省的なハウスは前作とほぼ似た作風。確かに大幅な変化は無い…が、変わらない事は自身の音楽性への自負の表れであろうし、何よりもクラブミュージックと言った枠を越えて歌やトラック自体の楽曲性が本当に優れおり、DJと言うよりはアーティスト的な面が感じられますね。そう、例えるならデトロイトのLarry Heardとでも呼びたくなる音楽性。枯れ感がありつつも心の底にほのかに燃える炎を灯したような優しい温かさは、寒い冬に貴方をそっと暖めてくれるに違いない。これは本当に良いハウス。

試聴

Check "Alton Miller"
| HOUSE6 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Robert Owens - Art (Compost Records:CPT362-2)
Robert Owens - Art
Amazonで詳しく見る

シカゴハウスの黎明期からLarry Heardらと共にFingers Inc.としての活動や数多くのトラックのボーカリストとして起用され、ハウスシーンにおいては多大なる影響をもたらしたRobert Owens。そんな彼の新作は2枚組の大作で色気と艶のあるOwensの歌を存分に堪能できるアルバムとなりました。彼自身はボーカリストとしての活動が多く正直トラックメーカーとしてはそれ程印象は残っておりませんが、このアルバムにはかつての盟友・Larry Heard、イギリスのニューハウスで名を馳せるAtjazz、ドイツコンポストよりBeanfieldらをプロデューサーに迎えて根本となるトラック自体にも相当の気合の入れようです。面子が面子なだけに奇を衒ったトラックは無く、オールドシカゴなアシッドハウス、愁いと感傷が深く染み入るディープハウス、上品なエロさが漂うダウンテンポなどを時代に関係無く普遍的に聴けるような安心感のあるアレンジにしており、クラブトラックとしての面も維持しながらしっとりとリスニングとしても耐えうる内容です。そしてそんな異なるプロデューサーが手掛けた曲もOwensの歌が乗ってしまえば、それはもう彼の曲以外には聴こえないように統一され、Owensのウェットでセクシーな声に導かれまるで夜の帳が下りるように大人のアダルティーな真夜中のラウンジへと誘われます。自意識過剰にも近い自己陶酔したその声は、しかしながら彼の優しい温もりに包まれるようである。

試聴

Check "Robert Owens"
| HOUSE6 | 13:00 | comments(2) | trackbacks(0) | |
DJ Sprinkles Presents Kami-Sakunobe House Explosion - House Explosion 1 (Skylax:LAX116)
DJ Sprinkles Presents Kami-Sakunobe House Explosion - House Explosion 1

DJ Sprinklesが贈る上作延ハウス・エクスプロージョンのEP、はい、実は日本在住ナルシストであるTerre Thaemlitzの作品です。今年に入ってから何故だか数年前のアルバム"Routes Not Roots"(過去レビュー)からEPをカットしているTerre Thaemlitzですが、本作もその一環の流れ。まあでも良い曲は良いのだから、再度アナログ化は嬉しい限り。全体的に物哀しさが漂う侘び寂びを感じさせる枯れたハウスが中心なのですが、一切の煩悩を断ち切った世捨て人的な独創性は孤高の位置にあります。13分にも及ぶ"Hobo Train"は荒々しく粗暴な音は黒く廃頽的で、しかしながらうっすらと匂う叙情はTerreのロマンスが爆発しております。ささくれ立つ感情が強く胸に突き刺さる激情のトラック。"Double Secret"なんかはもっと簡素でディープなシカゴハウスで、Larry Heardにも勝るとも劣らないメランコリーを発揮。これは本当に地味だけど、素晴らしい真の意味でディープなハウスです。初回限定ブルー・カラー・ヴァイナルなので、ヴァイナルコレクターにはちょっと嬉しい一枚。

試聴

Check "Terre Thaemlitz"
| HOUSE6 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
2010/10/30 Spinning Vol.3 @ 渋谷 Bar&Cafe特異点
台風直撃な予報と言う最悪の状況の中で、結局は雨さえ降らずに穏やかな天気の中無事"Spinning"3回目を開催する事が出来ました。差し入れを持って来てくれた方、特異点のハロウィンパーティーに合わせて遊びに来たお客さん達が集まってくれて、丁度やりやすい雰囲気の中でプレイする事が出来たと思います。本当に来て頂いた皆様に感謝。そしてゲストで回していただいたgouuuuogさんは硬めのミニマルダブ〜テックな音が中心で、特異点と言う小さなバーの中でも良い鳴りを聴かせてくれて気持良かったです。

自分は今回はとにかく好きな曲をどしどしと詰め込んだのでかなりコテコテな選曲になりましたが、まあバーの雰囲気に合わせて色気のある流れは表現出来たかなと。では今後もお客さんに楽しんで貰えるように改善を試みつつ、ぼちぼちと開催したいと思いますのでどうぞ宜しくです。

Tracklistは続きで。
続きを読む >>
| EVENT REPORT3 | 16:30 | comments(0) | trackbacks(0) | |
UPCOMING EVENT
2010/09/04(SAT) Metamorphose 10 @ 修善寺 サイクルスポーツセンター
Act : Manuel Gottsching performs "more INVENTIONS FOR ELECTRIC GUITAR" with Steve Hillage, Elliott Sharp & Zhang Shouwang, X-102, Moritz Von Oswald Trio, Mogwai, Larry Heard and more

2010/09/10(FRI) Hyper Modern Music Salon -Dinosaur Meets TECHNO! @ Mado Lounge
DJ : Hiroshi Kawanabe, A.Mochi, CALM, Hiroshi Watanabe aka Kaito, no.9, Haruka Nakamura
Live : evala

2010/09/10(FRI) HI-TECK-SOUL Japan Tour 2010 @ Eleven
DJ : Derrick May, Ryo Watanabe

2010/09/10(FRI) SOLAR FREQUENCY @ Womb
Galaxy Stage
DJ : DJ Tasaka, DJ Nobu, The Backwoods
Future Lounge
DJ : DJ Yogurt, JZ, Leyziro

2010/09/10(FRI) CLUB MUSEUM "DETROIT LEGEND" @ Unit
DJ : Kevin Saunderson, Cloude Young Jr., Rok Da House

2010/09/22(WED) GUIDANCE @ Eleven
DJ : Michael Mayer, Takkyu Ishino

2010/09/24(FRI) Urban Tribe Japan Tour 2010 @ Eleven
Live : Urban Tribe
DJ : DJ Stingray (aka Sherard Ingram / Urban Tribe)

2010/09/25(SAT) AIR 9th ANNIVERSARY "DIXON × AIR Release Party @ Air
DJ : Dixon, Ko Kimura, DJ Sodeyama

2010/09/26(SUN) ShinKooeN fes 10' @ 神奈川県茅ケ崎市柳島海岸
DJ : Altz, DJ Nobu, DJ Quietstorm, DJ Yogurt, Ko Kimura and more
Live : Dachambo, Kaoru Inoue, O.N.O and more
| UPCOMING EVENT | 07:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
2010/05/04 LARRY HEARD JAPAN TOUR 2010 @ Air
GW音楽週間の三発目はシカゴハウスレジェンドのLarry Heard。ここ三日間程ハードなテクノパーティーを楽しんだので、たまには愛のハウスも聴いて調節しないとね。
続きを読む >>
| EVENT REPORT2 | 10:30 | comments(2) | trackbacks(0) | |
UPCOMING EVENT
2010/05/01(SAT) CABARET @ Unit
Live : DBX
DJ : Daniel Bell, yone-ko, masda, sackrai

2010/05/01(SAT) FORWARD @ Air
DJ : Francois K., Calm

2010/05/01(SAT) Mother presents UNIVERSAL SOUND OF ORCHESTRA @ ageHa
Live : System 7, Son Kite and more
DJ : Mixmaster Morris, Artman, Sinn and more

2010/05/02(SUN) Thomas Fehlmann Japan Tour 2010 @ Eleven
Live : Thomas Fehlmann
DJ : DJ Wada, Universal Indiann

2010/05/02(SUN) Rainbow Disco Club @ 晴海客船ターミナル臨港広場特設ステージ
"RAINBOW DISCO"
DJ : DJ HARVEY, METRO AREA, KENJI TAKIMI, KOJIRO, MATT EDWARDS, NICK THE RECORD, GO KAMINOMURA

"THE TOP"
LIVE : VINCE WATSON, MIRKO LOKO, SIDE B
DJ : AME, LEON & SKINNI PANTS, TEZ & KUSDA, LOUD MINORITY RADIO, KELIE

2010/05/04(TUE) LARRY HEARD JAPAN TOUR 2010 @ Air
DJ : Larry Heard, DJ Sprinkles a.k.a. Terre Thaemlitz

2010/05/04(TUE) Redshape Japan Tour @ Module
Live : Redshape
DJ : Keihin, Gonno, Naoki Shinohara

2010/05/04(TUE) MINUS CONNECTED #8 @ Womb
DJ : Richie Hawtin

2010/05/07(FRI) CLUB MUSEUM 7th Anniversary!! "777" @ Unit
DJ : FREQUENCY 7 aka Ben Sims + Surgeon - 7 HOURS Show ! -

2010/05/08(SAT) DJ HARVEY 2010 tour of Japan @ Eleven
DJ : DJ HARVEY, DJ GARTH

2010/05/15(SAT) FUTURE TERROR VS BLACK CREAM @ Liquid Loft
DJ : FUTURE TERROR(DJ Nobu, Haruka, Kurusu) & BLACK CREAM(HATTORI, SE-1, Apollo)

2010/05/21(FRI) root & branch presents UBIK @ Unit
DJ : Norman Nodge, DJ Nobu

2010/05/29(SAT) Real Grooves Volume 41 Samurai FM Relaunch Tokyo @ Eleven
Live : Pier Bucci, Yasuharu Motomiya
DJ : Pepe Bradock, MX

2010/05/30(SUN) SOLAR FREQUENCY @ お台場青海シーサイドコート
【GALAXY STAGE】
DJ : JEFF MILLS, TAKKYU ISHINO, KEN ISHII, DJ NOBU, LOUD ONE

【WOMB SATELLITE STAGE】
DJ : DJ Aki, THE AMOS, Dr.SHINGO, RYUSUKE NAKAMURA, DJ LUU, スガユウスケ, DJ HARRY

【YOUNAGI AREA】
DJ : IZURU UTSUMI, DJ YOGURT, Shhhhh, Q, SINN

まだGW近辺の仕事の予定に目処がつかないので、どのパーティーにいけるかは未定。Thomas Fehlmannのライブは良いよ〜、エレガンスなダブテクノ。Larry Heard+DJ Sprinklesも行きたい、オールドスクールなハウスが多そう。そして最近軟弱になっている自分にはベンシム+サージョンのハードミニマル7時間地獄が気になるが、一夜を耐えきる自信は無いし、男臭そうなパーティーだよなぁ…。だがそこに痺れる憧れる!
| UPCOMING EVENT | 08:00 | comments(9) | trackbacks(0) | |
Virgo - Virgo (Rush Hour Recordings:RH-TX1 CD)
Virgo - Virgo
Amazonで詳しく見る

大変分かり辛いのですが、Marshall JeffersonやAdonisが居ない方のVirgo(Virgo Four)が89年にリリースした彼らにとって唯一のアルバムを、最近クラシック再発に力を注いでいるRush Hourがまたもやリイシューしちゃいました。シカゴハウスの隆盛の一端となったTrax RecordsからもVirgo Four名義でのEPを出していたそうで、そこからのトラックも収録された本アルバム。僕はVirgoと言われても全然分からなかったのですが、実は僕が所有しているMIXCDやコンピレーションには使用されていて、何度か耳にした事ある位に実は重要なユニットだった様です。オリジナルが89年なんで今聴くと流石に時代を感じるチープなシカゴハウスオンリーで、音的には初期のLarry Heardにも通じるTR-808のチープな音色を使ったどたどたしたリズムトラックに懐かしくもロマンス溢れるシンセをのせた作り。そう、荒々しいアシッドハウスの方ではなくトキメキとセンチメンタルに満ちた愛情のシカゴハウスで、安っぽい音ながらもアナログな音はシルクの様に耳に優しく馴染みます。機材は古く技術は劣っていてもこんなにも人肌の温もりを感じさせる音楽を作るなんて、やはりこの時代のシカゴハウスは妙に人間臭い味があって良いですね。Virgo(乙女座)と言うユニット名通りに、これからも広大な宇宙で華麗に輝き続けるであろうアルバムです。

試聴

Check "Virgo Four"
| HOUSE5 | 11:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
2010/03/27 Mule Musiq 6 Years Anniversary pt.2 @ Womb
前日もパーティーに行ったのでどうしようかな〜と迷ったのですが、折角InnervisionsからHenrik Schwarzが来るし、孤独なディープハウサーのDJ Sprinkles aka Terre Thaemlitzのロングセットもあるし、時間が空いている内はクラブに行っておけと鼓舞して3ヶ月ぶりのWombへと突撃。

24時半過ぎにクラブに入ったらどうやらDJ Sprinklesは4Fのラウンジのオープン〜クローズまでのプレイの予定だったので、早速DJ Sprinklesを聴きに行く。ラウンジと言う場所を考慮したかどうかは定かではないですが、自分が期待している通りの緩めで侘び寂びが漂うハウスを中心にまったりとしたトラックをプレイ。アッパーではなくて緩めであると言うのがポイントで、淡々と終始感情の起伏を作らないようでいながら、しかし内面は温まるような情緒溢れる渋いジャジーディープハウスを聴かせておりました。例えるならLarry Heardの枯れた具合とも近いです。セクシー、ムーディー、アダルティー、そんな言葉が似合うラウンジにぴったりな柔軟かつ色気のある音で、たっぷり汗をかかないまでもしっとりと体が火照る感じでかなり良かったですね。

で2時から4時まではメインフロアでHenrik Schwarzのプレイを聴きましたが、こちらは自分が予想していた範囲内で可もなく不可もなくと言った印象だったかな。彼が今までリリースしてきたMIXCDはMIXCDと言うよりはライブ的な印象もあったのですが、今回も正にそんな感じ。多分かけるトラックを全部決めてあってPC内で全部繋げてあるんだけど、そこに後はエフェクトを掛けたり音を抜き差ししたりする程度のプレイだったんじゃないかな(遠くからしか見えないから、実際はどうか分かりません)。彼自身のヒット曲である"I Exist Because Of You"、"Imagination Iimitition"、"D.P.O.M.B."もプレイしたし、全体的に確かに陶酔感のあるテッキーな音とアグレッシヴなノリで好みな展開ではあったのだけれども、意外性とかライブ感はそんなに感じられなかったのが残念。かと言って純然たるDJでもないだろうし、う〜ん、微妙な感じですね。ライブをやるならもっとライブらしいオリジナルからの変化は欲しいし、DJをやるならその場の雰囲気に合わせて展開を作って欲しいし。彼が作るオリジナルの曲自体は良い分だけ、期待をするのだから評価は厳しくなってしまうのです。

で4時以降はまたDJ SprinklesのDJを聴きに4Fへ移動。最初よりも多少アッパーでパーカッシヴに、そして音もより深めに、そしてミニマル性を強めたプレイへと変化しておりました。それでも甘酸っぱさと渋さを残しながら、メロウで情緒漂うプレイはこれぞ大人の真夜中の時間帯と言うべきで、うっとりしつつも腰にくるグルーヴがあり本当に気持ち良かったです。終盤ではオールドスクールなシカゴハウスもかかったりして、懐かしさと優しさに触れあいながら心地良いラストを迎えられました。今回のパーティーではDJ Sprinklesのアダルティーなハウスの叙情を堪能出来た事が、最大の収穫でした。

■Henrik Schwarz - Live(過去レビュー)
Henrik Schwarz - Henrik Schwarz Live
Amazonで詳しく見る


■DJ Sprinkles - Midtown 120 Blues(過去レビュー)
DJ Sprinkles-Midtown 120 Blues
Amazonで詳しく見る
| EVENT REPORT2 | 07:00 | comments(3) | trackbacks(0) | |
2010/02/12 bug III @ Lazy Workers Bar
小野島大さん、24noさんが開催しているbug IIIでちょこっと回してきました。場所は渋谷の小さなバー・Lazy Workers Bar。以前は無かったDJブースが作られていて、しかも最新のCDJも用意されていたり、なかなかの設備。20名入ればいっぱいになってしまう小さなバーですが、むぅなかなか侮れん。

自分が着いた頃にはハッチΨさんがプレイ中。90年代のシューゲイザーを中心に回してましたが、ダムドの予想外なゴシックな曲も回したりしてびっくり。ダムドってパンクだけじゃなかったんだ…

で自分は一時間の中で下記のトラックをプレイ。新しいトラックと懐かしめのトラックを混ぜながら、黒っぽさとムーディーさとエモーショナルな音を表現したつもりです。しかしまあ好きな曲をかけると気分爽快ですね、スカッとしました。
続きを読む >>
| EVENT REPORT2 | 09:00 | comments(2) | trackbacks(0) | |
2009/12/15 T.P.P. @ EFFECT
AT-FIELDメンバーがT.P.P.へ出張プレイ。90年代縛りのパーティーで、自分的にはマッドチェスターとかセカンド・サマー・オブ・ラブ辺りの音楽は大好きなんで、そう言ったのを意識した選曲でやらせて頂きました。以下トラックリスト。前半はダブ系でゆったりと、中盤でアンビエントからトランシーなのに移行し、ラスト3曲の歌物でぐっと締めた感じです。選曲が偏っているけれど、どうしても自分はそこからは逃げられないのです。

Nightmares On Wax - Les Nuits
Primal Scream - Screamdelica
Massive Attack - Be Thankful For What You Got
Primal Scream - The Big Man and the Scream Team Meet the Barmy Army Uptown
The Orb - Towers Of Dub (Live)
Primal Scream - Higher Than The Sun
System 7 - Davy Jones' Locker
Reload - La Soleil Et La Mer
The Orb - Assassin (Live)
Orbital - Halcyon (Tom Middleton Re-Model)
System 7 - Night Owl
Denki Groove - Niji
Last Rhythm - Last Rhythm (Tom Middleton Re-Model)
Round One - I'm Your Brother
Larry Heard - I Need You
SWV - Right Here (Human Nature Remix)

フジカワさんや全玉 aka しょーこ+下川カユコ aka 中川ユカコのBack 2 Backは、ダンスロックやテクノ、レイブ物まで幅広い選曲で90年代を表現しておりました。自分には無いユーモアを持っているので、自分も見習いたいなぁ〜と思う事は多々あります。

そしてど平日なのに来て下さった多くの方々、どうもありがとうございました。やはり聴いてくれる方がいると素直に嬉しいし、DJにも力が入ります。これからも機会があれば、どしどし回せるようにしたいですね。
| EVENT REPORT2 | 16:00 | comments(2) | trackbacks(0) | |
Mr.Fingers - Back To Love (Canyon International:PCCY-00611)
Mr.Fingers - Back To Love
Amazonで詳しく見る

肌寒くなってきたこの頃ですが、冷えた身も心も温まる一枚。ハウス黎明期から孤高の存在であり続けるMr.FingersことLarry Heardの94年作。元々ハウスとはダンスする為の音楽であったはずだけれども、DJではなくキーボード奏者かつアーティストとして活動するLarryはリスニングとしての要素を強めた音楽性を打ち出していった。そして本作は殆ど彼一人でキーボードやプログラミング、ボーカルをこなして作り上げたハウスの枠組みを越えたアルバムとなっている。ハウスの要素と共にジャズやR&B、フュージョンなどのブラックミュージックを都会的に洗練し、ぐっと艶っぽくムーディーに仕上げた大人の音楽が中心。それまでのシカゴハウスと言えば荒々しくお下品で馬鹿っぽい所が面白かったのだけど、Larryはそれよりも真摯に内面を見つめる音楽性を見出したのだ。スムースに展開するコード進行やネタ使用に頼らないトラックは、もしクラブミュージックを聴かない人の耳でさえ魅了するだろうし、感情を揺さぶるメロウなメロディーや優しいLarryの呟きは、聴く者の心を震わすだろう。そして何より本作の歌の大半は、愛についての歌となっていて聴く度にとても切なくなる。メジャーからのアルバムと言う事で多少は俗っぽい所もあるけれど、それでもクールで抑制されたLarryの吐息の様な呟きからは愛液も滴るロマンスが感じられるのだ。Larryが送るSophisticated Love Songs。



Check "Larry Heard"
| HOUSE5 | 10:30 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Lawrence - Until Then, Goodbye (Mule Electronic:MULE CD017)
Lawrence-Until Then, Goodbye
Amazonで詳しく見る(US盤)
 Amazonで詳しく見る(日本盤)
昨日マチュさんはmixiやってないのかと問い合わせがありましたが、勿論やってます。一応右上のプロフィールにmixiのIDも書いてあるので、どしどしとマイミク申請してくれると嬉しいです。もし機会があれば一緒にクラブで酒なぞ飲んで楽しめたら幸いです。男なら阿部さんみたいなウホッと男気のある人、女の子ならキモオタでも引かない人だと安心出来ます。今一緒によくクラブに行く仲間もmixiで知り合ったんだよな、みんな音楽愛に満ち溢れた大事なお友達です。

いつの間にか誰が言ったか知らないが、ヨーロッパのLarry Heardとも呼ばれているそうなLawrenceの新作が日本のmule electronicよりリリース。確かに前述に嘘偽りはなくmuleらしい透明感と浮遊感、そしてLarryらしい落ち着いた情緒と柔らかさを感じさせるテックでミニマルでハウシーなサウンド。しかしながら快楽に向かうと言うよりは内省的でどこか朧気なイメージが付きまとい、やはり真夜中とかダークな印象が残ります。真夜中の闇に消えていくような寂しげで儚いメロディー、決して日の目を浴びないように。それでも闇の中でこそ輝く美しさと決して冷めない温かさがあり、嫌いじゃない暗さと言うかこれって静謐なベッドルームミュージックなんでしょうね。水面にさざ波さえも立たせないような静観さが、真夜中にぴったりで心が落ち着く。



Check "Lawrence"
| HOUSE5 | 13:10 | comments(2) | trackbacks(0) | |
Bodycode - Immune (Spectral Sound:SPC-72)
Bodycode-Immune
Amazonで詳しく見る(US盤)
 Amazonで詳しく見る(日本盤)
この二年間夜勤シフト制と言う生活で友達と遊べずフェスも行けず苦汁を舐めてきましたが、それもひとまず今日で終わり。週明けからは人間らしく平日日中の業務に暫くは就けそうです。クラブ、飲みと失った空白の時間を取り戻す。

Portable名義でも活躍する南アフリカ出身のAlan Abrahamsの別名義、Bodycode名義の2ndアルバム。結構有名なんで今までも何度か試聴はしていたんだけど、ピンと来る物が無くてスルーしておりました。ん、でも本作は情緒漂うエモーショナルな面が前面に出ていて、それはデトロイトとも交わる様な点もあったり、意外と聴き易い。曲毎にシカゴのアシッドハウスもどきや、Larry Heardばりのディープハウス、流麗なテックハウスなど様々な事に取り組んでいるものの、南アフリカ出身の影響なのかどれもパーカッシヴで小気味良い弾ける感覚がある。芸が細かいと言うか実際に細部にまで渡り色々な音が配置されていて音の密度は高めだけど、それでも重苦しくならずにむしろ耽美さえ感じさせる世界観。勢いとかノリに任せるよりはじっくり聴き込む感じで、あまり激しくないどころかユルユルなリラックス加減が、今の自分のモードに合っているんだろう。

試聴

Check "Bodycode"
| TECHNO7 | 07:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
2009/06/12 Luv & Dub vol.2 CHICAGO vs DETROIT @ KOARA と Todd Terje Japan Tour 2009 @ LIQUID LOFT
6月12日は幾つか気になるパーティーがあって迷っておりましたが、まずはシカゴォォォォVSデトロイトォォォォなるパーティーに向かう。渋谷にあるKOARAは初だったのですが、小さなバーと小さなフロアがあってなかなか良い雰囲気。音楽目当てじゃなくても飲みにくるだけでも全然使えそうなバーでした。久しぶりに会った友人と談笑を交わしつつも、バックではDeepchordっぽいのやPUBのアンビエントかつミニマルダブでトロトロと心地良い音楽から、Larry HeardやIan O'Brien関連、そしてデトロイトのムーディーなハウスまでジャストで快適な4つ打ちがかかり、デトロイトとシカゴのソウルに心を打たれる。朝までここに居たいな〜と言う気持ちが湧いてきて迷うものの、後ろ髪を引かれつつLIQUID LOFTへ移動。

LIQUID LOFTではTodd Terjeなるノルウェイのアーティストがゲストで、久しぶりに大勢の人で賑わうLOFTを体験。LOFTの奥には新しくレストランが出来ていて、落ち着いた感じでソファーやらテーブルを使用出来るようになっていたのでこれは良いんじゃないかな。お酒もそんなに高くないし適度な音量でDJのプレイが聴けるので、ラウンジとしても使い易そう。Todd Terjeを目的に行ったわりには、久しぶりに会った友人達と恋話とか恋話とかそんな話ばかりして音楽を聴くのは二の次になってしまったのが反省点。キラキラと輝くディスコティックでハッピーな感じだったかな、良い意味で派手だった気がする。ここら辺の音楽はストイックとは対称的なルーズ加減と、馬鹿になって楽しめる多幸感があるのだろう。たまにはこんなのも悪くないですね。

■Can You Jack? (Chicago Acid And Experimental House 1985-1995)(過去レビュー)
Can You Jack? (Chicago Acid And Experimental House 1985-1995)
Amazonで詳しく見る
| EVENT REPORT2 | 21:30 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Larry Heard - 25 Years From Alpha (Alleviated Records:ML-2226)
Larry Heard-25 Years From Alpha
19日の日中は長い間、ソフトバンクモバイルで障害が起きていてメールの送受信が出来ない状態でした。本当この会社大丈夫なのかしら?優秀な技術者とかみんな辞めちゃってるんじゃないの?CDSもパネェ状態だし、自転車操業も遂に終わりが見えてきそうな予感がする。

ディープハウスの伝道師・Larry Heardの久しぶりの新作(と言っても昨年リリース作)は、彼らしい壮大な超大作。流行や名声、商業的な成功と言った表層だけの生き方からは最も遠くかけ離れた位置にいるLarry。だからこそ活動を初めてから20年以上経とうとも、一貫した彼らしい音楽が続いている。そして新作も…変わらない、変わる必要が無い、いつもと同じ内面を深く見つめるような厳かなハウスである。タイトル曲は15分にも及ぶ壮大な曲ではあるが、大きな展開や派手な見せ場は無い。あくまで淡々とじわじわと心に温かさが染みてくるオールドスクールなハウスではあるが、幾分イタロっぽい音色使いも聴けるのが特徴。しかしながら計り知れない深淵な世界は、きっとLarryの心その物に違いない。B面にはLarry節全開の情緒漂う穏やかなハウスが収録。うっすらとほんのりと温かさが感じられる程の微熱ながらも、長く燻り続ける炎の様にLarryの心は燃えている。遥かなる悠久の旅。彼の人生は音楽と共に、宇宙の彼方まで続く。

試聴

Check "Larry Heard"
| HOUSE4 | 00:10 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Charles Webster - Coast 2 Coast (NRK Sound Division:NRKCD042)
Charles Webster-Coast 2 Coast
Amazonで詳しく見る

PeacefrogやDefected、NRKを含め数々のレーベルから数々の変名を用いて活動しているUKのアーティスト・Charles Webster。基本的には欧州的な洗練された美しさが光るハウスを得意するアーティストですが、女の子受けする様な陶酔と甘さが持ち味ですね。と言っても全然下品じゃないし、むしろ気品に満ちているのが他の人との違い。近年は一向に新作が出ないのでヤキモキしておりますが、去年はNRKからのMIXCDシリーズ・Coast 2 Coastに参加しておりました。MIXCDにおいても彼の特徴である甘さや気品は充分に活かされていて、アッパーに盛り上げるのではなくてしっとり聴かせるタイプのハウスミックスを披露しております。派手なミックスや過剰なイコライジングは聴かせる事はなく、終始一曲を長めにつないで曲その物の良さを知って貰う落ち着いたプレイ。ミックスプレイ自体には特徴はないんだけど、その選曲の良さが素晴らし過ぎる内容ですね。夜の似合うアダルティーな音楽、それはただ下品にエロイのとは異なり上品なエロスを伴う官能的な妖艶さ。一歩引いた大人の美学とも言えるかもしれない。Charles Webster、この人のそんなエロさが今宵も体を火照らすのでした。

試聴

Check "Charles Webster"

Tracklistは続きで。
続きを読む >>
| HOUSE4 | 06:30 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Terre Thaemlitz - You? Again? (Mule Electronic:MULECD007)
Terre Thaemlitz-You? Again?
Amazonで詳しく見る(日本盤)
 Amazonで詳しく見る(US盤)
昨年リリースされたTerre ThaemlitzのDJ Sprinkles名義のアルバムはディープかつ情緒的な作風でとても素晴らしかったので、彼の作品を色々と購入してみた。このアルバムは1993〜2002年頃まで彼の運営するレーベル・Comatonse Recordingsからリリースされた彼の別名義の曲を集めた内容で、コンピレーションもしくはベストと言えるアルバムみたい。率直に言って派手でなくかなり地味なハウス中心なんだけど、侘び寂びを感じさせる枯れた味わいはボディーブローの様に地味に心に染みてくる。Larry Heardほどにはソウルフルではないけれど、そこにはLarryの音楽観にも共鳴する素朴な心情が感じられる。基本的にはシカゴハウスの延長的なシンプルな作りなんだけど、そこから狂気を取り去って耽美なピアノなどを入れて深遠な美しさを強調しているね。静寂の中を音が広がって行く様な空間を感じさせる音響で、表相上は重たい音楽ではないけれど実は濃いみたいな。Terre Thaemlitって音楽に対して几帳面と言うか真面目と言うか、愛の感じられる人だなって伝わってくる。

試聴

Check "Terre Thaemlitz"

Tracklistは続きで。
続きを読む >>
| HOUSE4 | 05:00 | comments(2) | trackbacks(0) | |
Tokyo Black Star - Beyond The Future EP (Innervisions:INNERVISIONS04)
Tokyo Black Star-Beyond The Future EP
Amazonで詳しく見る(アナログ盤)
 Amazonで詳しく見る(MP3)
シスコ倒産しちゃいましたね、実店舗閉じてから一年も持たないなんて。でもある程度は予測出来た事で、送料高いし品揃えは悪いし、それにシスコはやはり店舗に行って買うのが楽しかった訳だったし。通販のみでやっていくならもっとサイトを使い易くしたり、送料下げたり、商品に特徴出さないと無理でしょ。経営者の先を見る目が無かったんでしょうね。ま、シスコは潰れても未だに僕はレコードは買い続けている訳で、今回はInnervisionsのレコードが複数枚溜まったので、一気に紹介しようと思います。

まずはDJ Alex From Tokyoのユニット・Tokyo Black StarのEP。A面の"Beyond The Future"はRich Medinaの呟きボーカルを取り入れたLarry Heard直系の透明感のあるディープハウス。シンプルなトラック構成ゆえにポエトリーが強調され、リラックスしたムードを演出しております。逆にB面の"Deep Sea"は暗黒系ダブサイケデリックハウスで、ダビーに広がるパーカッションと空間をねじ曲げる様なサイケな音がヤバ過ぎる。もはや狂っているが、フロアでの鳴りはかなり良い感じでしょう。両面文句無しに素晴らしいです。そう言えばAlexに聞いたら、Tokyo Black Starのアルバムは来年初頭にリリースらしいのでお楽しみに。

試聴

Check "Tokyo Black Star"
| HOUSE4 | 09:30 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Trax Records The 20th Anniversary Edition Mixed By Maurice Joshua & Paul Johnson (Trax Records:CTXCD5001)
Trax Records The 20th Anniversary Edition Mixed By Maurice Joshua & Paul Johnson
Amazonで詳しく見る
 Amazonで詳しく見る(MP3)
取り合えず本日で一旦シカゴハウス特集は終わり。最後はシカゴハウスにおいて最も重要な二つのレーベルの内の一つ・Trax Recordsについて。自分は勿論Trax Recordsが設立された当時(84〜85年?)はまだお子ちゃまな訳で当時の状況に関しては詳しく知らないのですが、Larry Shermanによるレーベル運営に関しては相当酷いもんだったらしいです。レコードの売り上げに対しての対価を払わないだとか(Larry Heardはその事のうんざりして自分のレーベルを立ち上げた)、最も有名な酷いエピソードはレコードプレスには材料費がかかるので、売れ残ったレコードを買い集めてそれを再プレスし販売していた(だからTrax Recordsのレコードの音は悪いそうです)とか、とにかく無茶しまくり。それにやたらめったら何でもかんでもリリースしていたから、音楽の質にもばらつきがあって決して優良なレーベルであるかと言うとそうでもないんです。それでもAdonis、Phuture、Joey Beltram、Larry Heard、Marshall Jefferson、Vincent Lawrence、Sleezy D、Frankie Knuckles、Armando、Farley Jackmaster Funkを含め多くの素晴らしいアーティスト達がここを経由して行った事を考えると、やはりシカゴハウスだけに限らずハウスと言う音楽においてとても重要な存在であった事は否定出来ません。

さて前置きはそれ位にしてそんなTrax Recordsの20周年記念盤が本作。1、2枚目はMaurice JoshuaとPaul JohnsonがTrax音源を使用しミックスを施していて、3枚目はアンミックスのコンピレーションとなっております。チープでファンキーなシカゴハウスや毒々しいアシッドハウス、そしてディスコな歌物までTraxの魅力が満載で、80年代のハウスの流れを知るには十分過ぎる内容となっております。音楽としての完成度は決して高い訳じゃないから聴く者を選ぶ感じなんだけど、ハウスについて掘り下げようと思うなら決して避けては通れないですね。

試聴

Check "Paul Johnson" & "Maurice Joshua"

Tracklistは続きで。
続きを読む >>
| HOUSE4 | 21:15 | comments(6) | trackbacks(1) | |
Mr. Fingers - Introduction (MCA Records:MCAD10571)
Mr. Fingers-Introduction
Amazonで詳しく見る(US盤)
 Amazonで詳しく見る(日本盤)
当ブログの読者に古いシカゴハウス物のレビューを頼まれたので、家にある音源をほじくり返して幾つか紹介したいと思います。でやはりシカゴハウスで絶対に外せないのが当ブログでも何度も紹介しているMr.FingersことLarry Heardですが、音楽的には既にシカゴやらハウスやらと言う言葉に囚われない人だと思います。確かに最初期の作品はTR-808のドタドタとしたリズムトラックと強烈なベースラインを中心としたアシッディーなシカゴハウスが多かったのですが、途中からはダンスする事を目的とぜずに機能よりも感受性に重点を置いた内省的な音楽性へと向かいました。この1992年作のアルバムでは既に現在のLarryと変わらぬ音楽性を完成させていて、透明感と清涼感と気品に満ちたピアノやシンセサウンドと、TR-808らのクラシックな機材を使用し懐かしさを感じさせるグルーヴィーなリズム、そしてLarryの優しい問い掛けの様なボーカルが既に出揃っています。またネタ使用や単純なリフの繰り返しは使用せずに、流麗なメロディーやコード展開でダンスせずとも聴く事が出来る音楽性を重視した事は、明らかに従来のシカゴハウス(と言うよりアシッドハウス)とは違うベクトルを向いており、より普遍的な音楽性を重視していた事が分かります。DJではなくアーティストとして唯一無二の孤高の存在として君臨し続けるには、そんな訳があったのでした。

Check "Larry Heard"
| HOUSE4 | 22:30 | comments(2) | trackbacks(0) | |
2008/07/12 LIQUIDROOM 4th ANNIVERSARY @ LIQUIDROOM
ふぅ〜、連日クラブで疲れましたが恵比寿リキッドルーム4周年記念はデトロイトからLos HermanosとシカゴからLarry Heard。特にLarryは何度も聴きたいと思っていましたが、都合によりYellowで回していた時は行く事が出来ずもどかしい思いをしていたので、ようやく念願かなったりです。そう言えばリキッドルームも久しぶりでしたが、低音から高音まで大音量が出ているにもかかわらず音が割れる事もなく、また照明などもストロボフラッシュの単純な物だけのデトロイトスタイルで、箱の雰囲気はやはり良いですね。後は今回の様に定常的に深夜営業が出来れば良いのですが、それは難しいんですかね。
続きを読む >>
| EVENT REPORT1 | 18:00 | comments(4) | trackbacks(0) | |
UPCOMING EVENT
2008/07/05 (SAT)
DEFECTED presents Charles Webster Release Party @ AIR
DJ : Charles Webster
Special Live & DJ : Jazzin' Park

2008/07/11 (FRI)
UNIT 4th Anniversary @ UNIT
Live : Moritz von Oswald Trio feat. Vladislav Delay & Max Loderbauer (ex. Sun Electric, NSI), Flying Rhythms
DJ : Fumiya Tanaka, Juzu a.k.a. Moochy, Hikaru (Blasthead) and more

2008/07/12 (SAT)
LIQUIDROOM 4th ANNIVERSARY @ LIQUIDROOM
Live : Los Hermanos
DJ : Larry Heard

2008/07/20 (SUN)
Real Grooves Volume 28 "Musique Risquee Label Night" @ UNIT
DJ : Akufen, Maxxrelax
Live : Deadbeat

2008/07/25 (FRI)
CLUB MUSEUM "4 HOURS of DETROIT ROOTS !!" @ UNIT
GUEST DJ : SUBURBAN KNIGHT a.k.a. James Pennington
DJ : Kihira Naoki, Rok Da House

予定が空いてしまったので、Moritz von OswaldとLos Hermanos+Larry Heardのどちらにも行ける事になりました。YELLOW亡き後UNITががんばっております。この調子でUNITは良いパーティーを開催して頂けると助かります。
| UPCOMING EVENT | 14:00 | comments(2) | trackbacks(0) | |
Gilles Peterson - In The House (ITH Records:ITH23CD)
Gilles Peterson-In The House
Amazonで詳しく見る

Defectedの名物であるハウスミックスシリーズ"In The House"の最新作は、なんとクラブジャズ第一人者であるGilles Petersonが担当。偉業とも言えるDJの選択ですが、どうやら本人はかなり本気でいるらしく久しぶりに最高の作品が出来たと自画自賛しております。確かにボリュームは3枚組ととんでもない量になっておりますが、さて内容はと言うと。

まずDISC1は完全にハウスをコンセプトにしており、伝統的なNYハウスから始まり、パーカッシブなハウス、テッキーなハウスと緩やかに盛り上がりを見せる好内容。爽やかに甘くライトな印象ながらも、滑らかな音触りが耳に心地良いですね。わざと難解にする事もせずハウスファンの多くが知っているであろうアーティストの曲も多く使われていて、ストレートにハウスの良さが分かる一枚ですね。

そしてDISC2はGillesのルーツが詰まっていると言う、ファンクやディスコを中心にミックスしております。と言っても自分はこの手の音楽は全く聴かないのでコメントが難しい。イメージとしては昔のディスコで流れる様な音楽でしょうか。生演奏中心でハウス史以前のハウスに近い物、ファンキーでブラック色が強くノリノリな感じですね。

最後のDISC3はこの企画の為に多くのアーティストが新曲を提供し、それを収録したミックスされていないコンピレーションです。ジャジーなハウスもシカゴハウスもラテンハウスも含め色々ありますが、そのどれもが新曲と言うのは凄いですね。クラブミュージックシーンでのGillesの信頼度、尊敬度の表れでしょうか。想像していたよりも格好良い曲が詰まっていて、曲を提供したアーティスト側も本気だと言う事です。

3枚組と言うなかなか聴くのは大変なボリュームですが、これは一聴の価値有りの名盤だと思います。また"In The House"シリーズにおいても、上位にランクインする素晴らしい出来ですね。

試聴

Check "Gilles Peterson"

Tracklistは続きで。
続きを読む >>
| CROSSOVER/FUTURE JAZZ1 | 23:00 | comments(2) | trackbacks(2) | |
Christian Prommer's Drumlesson - Drum Lesson Vol.1 (Sonar Kollektiv:SK162CD)
Christian Prommer's Drumlesson-Drum Lesson Vol.1
Amazonで詳しく見る(UK盤)
 Amazonで詳しく見る(日本盤)
既に話題になっているChristian Prommer's Drumlessonによる"Strings Of Life"のジャズカバー。ぶっちゃけ"Strings Of Life"のカバー・リミックスは今までにも幾つかあったけど満足出来る作品は無かったです。だからどうせ今回もと高をくくっていたのですが、CPDのカバーは予想外に出来が良かったです。原曲の叙情的なメロディーを生かしつつ、ジャズアレンジを施す事によりテクノとはまた異なる躍動感を生み出していて文句無しな内容ですね。そのCPDが更に発展して、テクノ・ハウスの名曲を全部ジャズカバーしたのが本アルバムです。選ばれたアーティストはLarry Heard、Ame、Jay Dee、Kraftwerk、DJ Gregory、Patrick Pulsinger、Josh Wink、Derrick May、Isolee、Nuyorican Soulと一流所が勢揃い。また選曲の方も名曲が勢揃い。これでもし陳腐なカバーなどしよう物なら周りから生卵を投げつけられる事は必至ですが、どうやらその不安は杞憂に終わったようです。ピアノ、ドラム、ベースをメインとしたシンプルなセットながらもピアノの華麗なアレンジ、ドラムの繊細かつ生き生きとしたビートがクラブミュージックを完全に別の物に作り替えている所が絶品です。単純に一発芸に頼った音でもなく、個々の演奏力・アレンジ力があるからこそ成し得たアルバムですね。

2/27追記
なんと日本盤にはGalaxy 2 GalaxyのHi-Tech JazzとYMOのComputer Gamesのカヴァーも収録!

試聴

Check "Christian Prommer"

Tracklistは続きで。
続きを読む >>
| CROSSOVER/FUTURE JAZZ1 | 18:30 | comments(2) | trackbacks(3) | |
DJ Sasse Presents Moodmusic (P-Vine Records:PCD-5493i)
DJ Sasse Presents Moodmusic
Amazonで詳しく見る

名はKlas Lindbladと申します。フィンランド出身、DJ SasseやFreestyle Man名義で北欧の情緒を感じさせるハウスをリリースし、また今をときめくSpirit CatcherやHenrik Schwarzの作品もリリースするMoodmusicを運営もしております。それ以上の細かい事は分からないので、取り敢えず後は音楽その物を分析。ハウスと言うクラブ(ダンス)ミュージックを基にしつつも、踊る為だけの音楽ではなくより深く聴き込んで楽しめるリスニング的な内容も兼ねています。薄く張った湖の氷の上を滑るような繊細さと北欧の雪に閉ざされた白い世界を感じさせるムードがあり、ただ快楽だけを目指した音楽性とは全く逆を目指した音。例えるならそう、シカゴの哀愁男・Larry Heardが進むメロウで内向的なハウスとシンクロしている。Larryよりは幾分かテクノ的な要素がありエレクトロニックな質感も感じさせますが、無駄を排した簡素な構成は胃にもたれる事もなくすっと体に馴染みます。突出した輝きを見せる訳でもないけれど、地味に良い曲揃いでした。

Check "DJ Sasse"
| HOUSE3 | 23:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
BEST OF 2007
来たるべき大晦日が遂にやってきました。今年は特に年末年始は予定が無いので、今日はDynamite!!でも見ながら酒を飲みつつ年を越そうと思います。ちなみにロシアン皇帝VSチェ・ホンマンなんて、でくの坊のチェに勝ち目なんてねーだろ。何て言いながらチェが勝ったらどうしよう…。そう言えば今年は長年お世話になってきたシスコがクローズしたり、クラブ営業への圧力が一層高まったり、クラブミュージックがどんどんと良くない状況になっているのを感じました。元々一般人には馴染みのない世界、音楽なのに更に追いつめられてどうしようもない状況ですな。まぁ中には一般受けにヒットしてるアーティストもいるので、今後はよりアンダーグラウンドとオーバーグラウンドで境が出来ていくのでしょうか。とにかく真夜中のクラブ営業だけは、法を改善して問題を無くして欲しいですね。何で24時間営業の居酒屋で飲むのは合法で、クラブで夜中に踊るのは違法なんでしょうね?意味の無い法律は必要ありません。

無駄口が続きましたが、これから2007年のマイベスト作品を紹介致します。でも昨日掲載した売上ベストに出ている作品は敢えて外してあります。それらの作品でも自分の年間ベストに入っている物はありますが、折角なので今日はそれ以外を紹介したいと思います。ベタなチョイスではありますが参考にして頂ければ幸いです。

それでは続きをどうぞ。
続きを読む >>
| BEST | 17:00 | comments(4) | trackbacks(2) | |
Jovonn - Spirit (Track Mode:TMCD1003)
Jovonn-Spirit
Amazonで詳しく見る(US盤)
 Amazonで詳しく見る(UK盤)
90年代からアンダーグラウンドなハウス方面で活躍しているJovonnが、今の所唯一残しているアルバムが本作です。リリースはLarry Heard、Chez Damier、Anthony Nicholsonらを擁するTrack Modeからなので、当然本作もそのレーベルの趣旨に添ったソウルフルなディープハウスが繰り広げられています。この手のディープハウスの良さは派手に盛り上げるのではなくて、ソウルを心に秘めて渋みを効かせた落ち着きを感じさせる雰囲気がある所だと思います。歌物のトラックも必要以上に熱くなったりせずに、歌その物は主張せずにむしろ淡々と歌われる事によりトラック自体を際立てる作用さえ感じます。しかしあれですね、これってまんまLarry Heardじゃないかと思う位雰囲気が似ています。透明感のある音、暖かくメロウなメロディー、シンプルな構成とどこを取ってもまるでLarry節全開。どっちが先かと言う問題は置いておいて、クオリティーは高いですよ。

試聴

Check "Jovonn"
| HOUSE3 | 23:00 | comments(0) | trackbacks(1) | |
Terry Lee Brown Jr. - Terry's Cafe 10 (Plastic City:PLACCD051-2)
Terry Lee Brown Jr.-Terry's Cafe 10
Amazonで詳しく見る

テクノ帝国ドイツにはまだまだ自分の見知らぬ音楽が埋もれています。今日はドイツでディープなテックハウスをリリースするPlastic Cityの看板アーティスト・Terry Lee Brown Jr.のMIXCDを聴いてみました。Terryは既に10年以上も音楽活動をしているベテランらしいのですが、驚くべき事に毎年の様にこのMIXCDシリーズをリリースしているので今年で10作目です。10年も出していれば最初期と現在の音を比べたりして、その時の流れも掴める意味では面白いですね。さて10枚目の本作のDISC1は現在の時流に乗っ取った、ミニマルでディープなテクノ/ハウスを披露しております。Poker Flatの音などが好きな人にしっくりくるフラットで冷ややかなミニマルテクノですが、少ない音数ながらも無駄を排したその構成でインテリなセンスを感じさせます。またうっすらと色気を出していて、決して無表情にならずに情緒を伴っている事は心地良さも演出していますね。最近の田中フミヤに色気を足した感じと表現すれば分かり易いでしょうか。そして僕が気になっていた"Terry's Classics"と冠されたDISC2ですが、こちらは正にクラシックを惜しみなく使用しております。Link(Global Communication)、Hardtrax(Richie Hawtin)、Maurizio、David Alvarado、Villalobos、Mr. Fingers(Larry Heard)らの名作と言われるトラックが豪華に並んでいて、Terryが影響を受けた音楽を体感する事が出来ます。DISC1に比べるとMIXCDとしてはまとまりが無いのですが、素直に古き良き日を思い出させてくれて感慨深い内容ですね。ここに収められているクラシックスは作品としては古くても、時代が変わろうともその輝きが失われる事は決してないのでしょう。

試聴

Check "Terry Lee Brown Jr."

Tracklistは続きで。
続きを読む >>
| HOUSE3 | 23:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Moment In Slow Vibez Mixed By Tomoyuki Tajiri (Texture:GOCT5001)
Moment In Slow Vibez
Amazonで詳しく見る

田尻知之と言う人のムーディーなミックスCD。どんな人かは全然知りませんが、そのネームバリュー以上にこのミックスは良いです。一気にフォーリンラブするような印象の強い内容じゃないんだけど、地味に心に響いてきて忘れた頃に思い出したらはっと聴きたくなる感じ。繋ぎが上手いとかミキサー弄くりまくって世界観を一変させたりとかじゃなくて、単純に良い曲を揃えてあります。序盤の鋭角的なビーツが躍動感を生んでいるブロークンビーツ、中盤のリラックスし体の疲れを解きほぐすダウンテンポ〜ディープハウス、終盤に優雅で軽やかに着地するブロークンビーツと基本的にはまったりと酒でも飲みながら的な内容。お勧めは中盤の"Another Night"のMoodymann Re-EditとSolu Musicの"Fade”ら辺で、これらを聴きいている最中にいつかどこかに置き忘れてきたノスタルジーが蘇ってくる気分になります。複雑で甘酸っぱい思い出が胸を締め付けて、色々な思い出が溢れ出てくるよ。とは言いつつも音は完全にアーバンで洗練されていますが、でも気取った感じがないのでさらっと聴けて良いですね。

Check "Tomoyuki Tajiri"

Tracklistは続きで。
続きを読む >>
| CROSSOVER/FUTURE JAZZ1 | 22:45 | comments(2) | trackbacks(0) | |
Larry Heard - Alien [Limited Edition] (Spiral Records:XQAW-1011)
Larry Heard-Alien
Amazonで詳しく見る

一年に亘りLost Classicsを再発してきた"Electric Soul Classics"も、今回発売されるシリーズでようやく終焉を迎えます。そしてそのシリーズの中で最も素晴らしく、またLarry Heardの経歴の中でも最も輝かしい作品が本作であります。ディープハウス、またはアンビエントハウスとも呼ばれる彼の音楽観は、音楽は音楽、それ以上でもそれ以下でもなく、自らのコメントを聞くよりもただ音楽を聴いて欲しいと言う職人気質の塊です。そう聴くと人間的には扱い辛そうな感じを受けますが、ただ寡黙なだけで実際の彼の心は想像以上に深いのでした。この"Alien"(過去レビュー)はアンビエント風を少々匂わせる落ち着いたディープハウスなのですが、タイトルから分かるとおり宇宙をテーマにしています。まあそれは僕の過去レビューを参考にして頂くとして、とにかくこの作品では思慮深い彼のソウルがそのまま表現された作品であり、余りの穏やかさにLarryへの畏敬の念さえ浮かんでくるのでした。誰だって音楽にソウルを込めて音楽を創っているはずですが、Larryの音楽に載せられる思いは余りに重く余りに切なく、そして人を魅了する。また活動暦20年以上に亘るベテランでありながら今も昔も変わらないその音楽性は、流れの早いダンスミュージックシーンにおいてはその存在自体が奇跡であり、伝説でもあるのです。そしてLarryは皆に問う、"Can You Feel It"と。

試聴

Check "Larry Heard"
| HOUSE3 | 13:25 | comments(0) | trackbacks(0) | |
UPCOMING EVENT
2007/10/13 (SAT)
Funk D'Void Presents BARCELONA TRIP!!! @ Air
DJ : Funk D'Void

2007/10/19 (FRI)
Minus Connected 01 - Expansion Contraction CD Release Party @ Womb
DJ : Richie Hawtin
Live : Gaiser

2007/10/19 (FRI)
迷彩 Project Event - MITTE - Vol.05 @ Club Asia
Special Guest : DJ 3000 aka Franki Juncaj
Guest Artists : DJ Compufunk

2007/10/19 (FRI)
Louie Vega Japan Tour 2007 @ Yellow
DJ : Little Louie Vega

2007/10/20 (SAT)
Clash 26 × Standard 8 @ ageHa
Arena
DJ : Misstress Barbara, Ken Ishii
Water Bar
DJ : Ian O'Brien, Moodman
Live : 7th Gate

2007/10/21 (SUN)
Live At Liquid Planet @ Liquidroom
Live : System 7, Sun Paulo, Kinocosmo, Mirror System
DJ : Funky Gong, Slack Baba

2007/11/03 (SAT)
Derrick May Japan Tour 2007 @ Yellow
DJ : Derrick May

2007/11/16 (FRI)
Standard 9 @ Air
DJ : Ken Ishii, Jazztronic (Exclucive Techno Set)
Live : Soul Designer aka. Fabrice Lig

2007/11/17 (SAT)
Larry Heard Japan Tour 2007 @ Yellow
DJ : Larry Heard
| UPCOMING EVENT | 12:21 | comments(0) | trackbacks(0) | |