Jupiter Jax - Visions (100% Silk:SILK072)
Jupiter Jax - Visions
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ヨーロッパと比べるとUSのダンス・ミュージックは微妙な立ち位置にあるが、その中でも際立って個性を発揮するレーベルがないわけでもなく、例えばチルウェイブやシンセ・ポップなども取り込みながらインディーダンスを手掛けるLAの100% Silkは注目すべきレーベルの一つだ。そんなレーベルから2013年にデビューしたのが日本には馴染みのないだろう南ヨーロッパに属するマルタ共和国からRudi AgiusことJupiter Jaxで、デビュー作の『City Life '88』(88年にリリースされたInner Cityの名曲"Good Life"からの引用だそうな)からしていきなりカセットでのリリースだったり、90年代を匂わせるレトロなテクノ/ハウスを披露したりと、レーベルに負けず劣らずな個性を発揮している。そして2015年5月、アーティストにとって初のアルバムが同レーベルからリリースされたのだが、やはりここでも同様に90年代のノスタルジーをたっぷり含んだアナログの音色全開なハウスがこれでもかとばかりに収録されている。オープニングの"Armed For Peace"では、80年後半から90年代にかけての豊かな音楽性を帯び始めた頃の、まだ辿々しくもエモーショナルなシカゴのディープ・ハウスそのものであるし、次の"The Light"ではシカゴ・ハウスの大ベテランであるVirgo FourのMerwyn Sandersも参加して、淋しげな木管楽器の音色が郷愁を誘う中で優しく誘いかけるような呟きが切なさをより強くするロマンティックなハウスだ。”Soul Searchin'”なんかはロウなテクノとディスコが邂逅して幾分かださっぽさを残しながらも、ポップな上モノや楽観的なムードに笑顔さえも浮かぶようである。タイトル曲の”Visions”ではXosarが夢の中で囁くような霞がかったボーカルを披露し、レトロなシンセの響きに感情の豊かさを添えて古き良き時代の輝きをより強くしている。どれもこれも決して流行や時代を意識した音楽ではなく、それどころかヴィンテージな趣向を推し進める懐古的な感は否めないものの、心に響くノスタルジーは決して否定出来るものではないだろう。初期のデトロイト・テクノやシカゴ・ハウスが生まれ、そして成熟を迎える前の夜明け前の時代、そんな音を追求したとしたら正にこんなアルバムなのではと思うが、若い人達にとってはこれもある意味新鮮に聞こえる可能性もあるのだ。



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| HOUSE11 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Jason Grove - Skylax (Skylax Records:LAX 137)
Jason Grove - Skylax

フランスのSkylaxはハウス・ミュージック、その中でも特にオールド・スクールで時代に左右されない正にタイムレスな音楽性を追求する。決して斬新性があるでもなく、自らを誇張して大きく見せるような派手さもなく、ただただディープでエモーショナルな音楽を真摯に突き詰めるレーベルだが、その中でもJason Groveのミステリアスな存在感は注視すべきだろう。デトロイトのベテラン・アーティストと言う触れ込みではあるものの一切の詳細は不明なアーティストだが、今までにもMerwyn SandersやNiko Marksといった実力派ともコラボレートしている事から、Jasonの音楽の方向性を知る事は出来るだろう。それは、2012年にリリースしたアルバム"313.4.Ever"(過去レビュー)から殆ど変わっておらず、マシンによるビートダウンなリズム、サンプルを用いたソウルフルなメロディー、生っぽいロウ・ハウス的な質感などその全てにおいてオールド・スクールという方向性をひらすら進む。アルバムの幕開けとなる"Interlude"では古ぼけたラジオから流れてくるようなざらついた音質で、ヒップ・ホップなビートとジャジーなホーンが哀愁を漂わせ、いきなり湿っぽい感情を滲ませる。続く"The Love"では本格的にディープ・ハウスのグルーヴを刻み、微睡むような温かいシンセのコード展開と甘く囁くようなボイス・サンプルを用いて、浮遊感さえもある心地良く酔わせる。"Old Dayz"ではガチャガチャとした跳ねるようなブレイク・ビーツが特徴的だが、やはり上モノのサンプルがフィルターによって展開され生々しいファンキーさを生み出している。それ以降はラフな質感ながらも無骨な4つ打ちを刻むオーセンティックなディープ・ハウスが続くが、"John Blue"にしても無駄のない単純な構成ながらもそこには気怠くも甘い陶酔感があり、決してJasonの音楽がクラブで体験する為のダンス・ミュージックとしてだけでなくリスニング的な要素も携えている事は特筆すべきだろう。勿論"Lovedits 7"のように色っぽい女性ボーカルとスモーキーな音質が、Moodymannらしくもある黒くソウルフルなディスコ・ハウスも素晴らしい。前作からこれと言って代わり映えはないものの、だからこそ流行り廃りとは無縁のディープ・ハウスとして正しく評価されるようなアルバムだろう。前作に続いて本作も配信やCDでの販売はせずにアナログのみでのリリースとなっており、その意味でもアーティストの無骨で揺るぎない精神性が伝わってくる。



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| HOUSE10 | 08:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
The Power Plant Experience - The Power Plant EP (Mathematics Recordings:MATHEMATICS 073)
The Power Plant Experience - The Power Plant EP

ロウ・ハウスやジュークといった音楽に共振するように、にわかに感じさせるシカゴ・ハウス復権の流れ。その中でもイタリアから妄信的にシカゴ・ハウスへの偏愛を見せるアーティストがSimoncinoであり、古いドラム・マシンなどのアナログな音を基軸に本物と全く変わらない初期シカゴ・ハウスを世に蘇らせている。本作は様々な変名を用いて活動する彼にとって新たな名義となるThe Power Plant Experience名義でのデビュー盤であるが、これは言うまでもなくかつてFrankie Knucklesがオープンさせたクラブの名前から取られているのだろうから、やはりシカゴ・ハウスへの愛は相当なものだ。何と言ってもタイトル曲の"The Power Plant"から素晴らしく、ハンドクラップやどたどたとした野暮ったいドラム・マシンのリズム、そこに郷愁の念を誘う深遠なシンセがリードしていくこのハウス・トラックは、生まれてくる時代を間違えたのかと錯誤する程に初期シカゴ・ハウスの音として成立している。"My Father's House"にはシカゴ・ハウスの巨匠・Virgo FourからMerwyn Sandersがボーカルで参加しており、呟きのような優しく癒やすような歌い方が作品に色っぽさと深みを与えている。また"Plant Tracks 3 (1991 Kai Alce Remix)"はデトロイトシーンのKai Alceによるリミックスで、切なさや古い空気感を残しながらもリズムを骨太に肉付しつつ光沢感のあるシンセや導入し、現代の音にも馴染むように手が加えられている。計5曲収録のそのどれもがオーセンティックなシカゴ・ハウスであり、迷いなき方向性がSimoncinoへの期待をより高めるだろう。

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| HOUSE10 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Jason Grove - Late Night Connections (Skylax Extra Series:LAX ES1)
Jason Grove - Late Night Connections

デトロイトのローカルシーンで80年代から活動しているDJと言う触れ込みのJason Grove(Groove?)は、2011年に突如としてSkylax傘下のWax Classicからデビュー作をリリースする。その後もSkylax周辺からのみリリースを続けつつ、Moodymannの作品をJMFG名義でエディットしたりと注目を集めているが、一向に正体が明かされない事から誰かの変名ではないかと最近では考えている。そんな謎に包まれつつも最新作をSkylaxから新シリーズとなるSkylax Extra Seriesの第1弾としてリリースしたが、なんとそこにはシカゴ・ハウスの伝説的ユニットであるVirgo FourのMerwyn Sandersとデトロイト・ハウスシーンからNiko Marksが共作として名を連ねている。流麗なピアノのコード展開とソウルフルなボーカルを活かしたベーシックなトラックの"Newlove"からして、小細工無しにハウスのクラシック性を説いているようだが、Merwyn Sandersが参加した"Let It Go"はもったりとしたベースラインとドタドタしたリズムが相まって、最近のアナログ感を強調したロウハウスとも共振するローファイな音質が良い味を出している。裏面には胸を締め付けるロマンティックなムードが強いハウスが収録されていて、パーカッシヴなリズムが力強くもLarry Heardばりの透明感のあるキーボードが望郷の念を駆り立てる"Xxx"、雑踏の音を取り込みつつ図太いキックと呟きボーカルがKDJを思わせる"Division Street"、Niko Marksのメランコリーな歌とフュージョン風なエレピが心揺さぶる"My Language"と、どれもお世辞抜きにして良質なハウス・ミュージックの時代が封入されているようだ。新しさを必要とせずとも変わらない事で守られるもの、タイムレスと言うべきハウス・ミュージックがここにある。



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| HOUSE9 | 20:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Virgo Four Merwyn - Where Are You EP (HotMix Records:HM008)
Virgo Four Merwyn - Where Are You EP

シカゴ・ハウスの黎明期から活動している伝説的ユニットのVirgo Fourから、メンバーの一人であるMerwyn Sandersがソロ名義で新作をリリースしている。現在イタリアの一部の集団が特にシカゴ・ハウスと密接な関係を保っているが、その中でもSimoncinoのシカゴへの偏愛っぷりは抜き出ており、その愛情が結実してSimoncinoのレーベルであるHotMixよりMerwynの新作がリリースされたのだろう。本作はMerwynソロの作品ではあるがスタイルとしてVirgo Fourと何ら変わりはなく、古典的なアナログ・シンセを使用したであろう素朴なシンセの音と悲しげで儚いメロディー、そして簡素で乾いた質感のリズムトラックからなる実に80年代の空気を含むハウスだが、人肌の温もりが伝わってくる質感に懐かしさを感じずにはいられない。時代を越えてくる音と言うのは、えてしてこう言った単純ながらも変わり様の無いものなのだろう。リミキサーにはSimoncinoと同じくイタリアからシカゴ・ハウスを追求するNicholas、バレアリック・シーンで活躍するMax Essa、イタリアからの新興勢力であるKsoul & Muteoscillatorらが迎えられている。Nicholasによるリミックスはシカゴの中毒的なアシッド・ハウス仕立てで、原曲の物哀しさを残しつつもエグさも強調している。対してMax Essaは生っぽいディスコテイストを盛り込んで楽天的なバレアリック感を前面に出し、K&Mはビートを崩して切なさが残るジャジービートへと最もリミックスらしい仕事をしている。Merwynによるオリジナルは言うまでもなく、その他のリミックスも個性が発揮されており聴き応えは十分だ。

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| HOUSE9 | 13:30 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Virgo Four - Resurrection (Rush Hour Recordings:RH113CD)
Virgo Four - Resurrection
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デトロイトテクノやシカゴハウスの復刻に勤しむオランダのRush Hour Recordingsがまたもややってくれました。昨年はEric Lewis & Merwyn Sandersから成るシカゴハウス最古参であるVirgo名義の唯一のアルバムを復刻させたのに続き、今度は85〜90年に録音されたテープ音源から厳選した未発表曲を纏め、Virgo Four名義としてコンピレーションをリリースしました。主だった活動は89年からの数年間と短い期間ながらもリリースされたトラックは大御所DJのMIXCDにも収録される程の実力を持ち、シカゴハウスと言うジャンルにおいてはカルト的な存在であるらしい。しかし不幸にもシカゴハウスの歴史を語る上で大々的に扱われる事は無かった存在が、ようやくRush Hourの力を借りて2010年代に日の目を見るのでした。ネタは前述の通り古いので新鮮味は無いかと思いつつも、シカゴらしい荒削りながもアナログ感の強い音質やシンプルに無駄を省いたチープなハウスは、今と言う時代に聴くと新鮮味を感じる人も多いかもしれない。はっきり言ってしまえば素人的な面も無い訳ではないけれど、それ以上にアナログソウルとでも言うべき生温い人情味に溢れているし、時代が変わろうとしていた胎動も見受けられます。音楽的な面で言えば決して成熟はしていないしプロの業と言うのも無いかもしれない、それでもシカゴハウスが格好良いのは偏に彼らのセンスやノリが理性ではなく本能から生まれているからなのでしょう。

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| HOUSE6 | 14:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |