2024.03.02 Saturday
Amazonで詳しく見る(アナログ盤) Amazonで詳しく見る(MP3)
Prins Thomasが主宰するFull PuppやInternasjonal等は、Thomasが普段展開するニュー・ディスコが軸となっているが、2016年に傘下に設立されたHorisontal Mamboは感傷的なダウンテンポやバレアリックといった方向性があり、ここ数年リスニング志向の強い筆者はサブレーベルであるHorisontal Mamboの方により魅力を感じている。2023年9月にリリースされたレーベルの目下最新作である『Night Swim』はBellofatto & Gentileなる聞き慣れぬユニットの初の作品だが、サンフランシスコのライター兼DJのDan Gentileと、そして昨年C-Thru名義で素晴らしいバレアリック・ブレイク・ビーツなアルバムである『The Otherworld』(過去レビュー)をリリースしたテキサス州オースティンのJesse Edwardsから成るユニットだ。当初はイタリアのドリーム・ハウスのメロディーとテクスチャーを模索していたようだが、最終的にはモジュラーシンセサイザー、ブレイクビーツ、レフトフィールドなサンプルを含む音楽性へと進化し、この「夜の水泳」なる何とも官能的でロマンティックなタイトルのアルバムが完成したのだ。レーベルの音楽性からおおよそ予想は出来るだろうがアルバム全編に渡ってスローモーなダウンテンポのビートとバレアリックなムードが支配しており、そして静けさが広がる真夜中のメランコリーな官能とドリーミーさから夢幻の風景が浮かび上がるようなリスニング志向の作品で、結論から言うと文句無しのバレアリック・アルバムだ。引いては寄せる波のフィールド・レコーディングの合間から夜の帳を感じさせるロマンティックなシンセが浮かび上がる"Interplanetary Soccer"でアルバムは幕を開け、ゆったりと躍動するブレイク・ビーツに浮遊感を伴いながら体も揺らすようで、幻想的なシンセが叙情的な旋律を奏でながら夜の深い時間帯へと向かって行くようだ。"Dream Cycles"はゆったりとした4つ打ちの中を夢の中でふらつき彷徨うような朧気なシンセを配し、アシッド性のあるシンセを効果音的に加えながらもあくまでしっとりとした静かな夜のイメージを壊さずに、神秘的な夢現な状態が持続する。ドタドタとして躍動的なスローモーなブレイク・ビーツが特徴の"Watching UFOs in the Park"は明るく多幸感に溢れているが、昼間の音ではなく幸せな夢に浸っているイメージだ。ノンビート状態に対し静謐なシンセによって月夜を眺めるサウンドスケープを展開する"The Moon At Halftime"もあれば、アルバムの中では一番ダンス性の強い弾けるブレイク・ビーツと眩い光を発するような豊かなシンセによって至福へと上り詰める"Liquid Roses"もあり、バラエティーにも富んでアルバムは最終局面へ向かう。最後は雪がこんこん降り積もる厳寒に、家の中で暖炉と向き合い暖を取るようなほっこりとしたアンビエント調の"Winter Reprise"で、叙情的な余韻と共にしっとりと音は消えていく。Horisontal Mamboへの信頼があるからこそ幾分かは評価は甘くなるのかもしれないが、それでもHレーベルの音楽性に沿いつつエモーショナルでロマンティックなバレアリックな世界観は見事で、疲れた心身を癒やすためのチルアウトとしても機能する。
Check Jesse Edwards & Dan Gentile