2018.03.22 Thursday
dj masdaとSo Inagawaによって運営されるCabaret Recordingsは、配信は一切行わずにアナログのみのリリースにもかかわらず特にヨーロッパでは高い評価を獲得している日本のレーベルだ。今時のご時世に於いても早々と売り切れになりリプレスを重ねるなど、アナログのみという方針が上手く作用しているレーベルだと思う。そんなレーベルはディープ・ミニマルなInagawaの作品が当初は中心だったものの、レーベルは次第にエレクトロの復権を目指すかのように現代版エレクトロとでも呼ぶべき音楽性に移行し、更なる個性を獲得して今に至る。その間一切リリースが無かったInagawaとレーベルの音楽性の関係は気になっていたが、結局この新作でInagawaはInagawaとぶれる事はなく彼らしい音楽を披露し、やはりレーベルの中枢である事を示唆している。膨張するベースライン、ぼんやりと浮かび上がる優しいパッド、一定間隔に淡々と刻まれるハウシーな4つ打ちの"Airirer"は、無味乾燥とした雰囲気を見せつつも断片的で奥底に微かに聞こえるボイス・サンプルや幽玄なシンセのディレイが入る情緒的な流れもあり、実に慎ましく穏やかなミニマル・ハウスは華麗さを纏っている。すっきりとしながらもスムースに走り跳ねるようなグルーヴの"Petrichor"も、ミニマル的に収束する構成ながらも朧気で幻想的な上モノが舞いながら繊細な音響を発揮し、空間性を感じさせる無駄のないディープなハウスだ。一方で引き締まったエレクトロ的なリズムの感覚もある"Head Over The Clouds"は最近のCabaretらしさも何となく感じ取る事が可能で、チョップされたボイス・サンプルや引き締まったリズムはファンキー色が強いが、勿論Inagawaらしい幻想的な美しさに魅了される上モノのコードが慎ましくも豊かな色彩感覚をもたらしている。レーベルがエレクトロの方向を探る中で自身の道を貫くようにエレガントなミニマル・ハウスを提唱したInagawa、今後もこの路線を求道的に進んで欲しいと願うばかり。
Check So Inagawa