Carl Craig - Versus Remixes (Infine:IF2070)
Carl Craig - Versus Remixes
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デトロイト・テクノにおいて最も作曲家/リミキサーとして活躍しているCarl Craigが、2017年に自身の名曲群をオーケストラ化したプロジェクトが『Versus』で、過去には著名なアーティストが同様のリメイクに挑戦しながらも確かな成果を得る事も出来ず失敗する事も少なくない作業において、しかしC2はFrancesco TristanoやMoritz Von Oswaldら強力なサポーターを起用する事でテクノとクラシックの融合を成し遂げた。そしてその続編として、一度テクノをオーケストラ可した作品を更にリミックスするという面白い企画となるのが本作で、Henrik SchwarzやTom Tragoら人気アーティストやレフトフィールドな変異体テクノのBenedikt Freyにミニマルかつデトロイトの叙情性も持つAntigoneの4アーティストに、クラシック化されたC2の名曲を更にリミックスさせている。その結果は当たり前と言えば当たり前なのだが、どれもフロア対応型のテクノ/ハウスになっており、勿論クラシックの芳香も残してモダンなダンス・ミュージックへと生まれ変わっている。スムースなビート感を刻みつつ美しく闇夜に光るようなストリングスやホーンを残した"The Melody (Henrik Schwarz Versus Remix)"は正にSchwarzらしい幽玄なディープ・ハウスで、元々音楽的な素養があるからこそクラシックとの親和性も見事でハウス化しながらも繊細な各楽器のメロディーが荘厳さを奏でている。"Domina (Benedikt Frey The Game Versus Remix)"はビートが無く荘厳さを際立てたクラシック・バージョンに比べると、エレクトロ的な射し込んでくる鋭利なビートが刺激的でビリビリと振動するような電子音も加わって、深い闇からエネルギーが溢れ出すような野心的なりミックスだ。そして静謐で重厚感溢れるバージョンだった"At Les"、広がりのあるホーンや幻想的なストリングスのオーケストラの部分は残しながらもミニマル・テクノ寄りにスムースな4つ打ちと電子音の反復を加えた"AtLes (Antigone Versus Remix)"においてはかなりダンス・フロアでの機能性を強めて、寧ろC2のVersusバージョンよりもテクノとクラシックの融解をより実践しているように感じられる。そして普段はディスコ等のサンプルを用いてファンキーな音楽性を披露するTom Trago、しかし"The Melody (Tom Trago Versus Remix)"は音を削ぎ落としながら間を作る事で派手な音は無くともファンキーな質感を打ち出したテクノになっており、Schwarzに比べるとやや地味なリミックスには思われるがうねるベースラインや硬いリズムで引っ張っていくグルーヴ性がある。テクノからクラシックへ、そして再度ダンス・フロアへと生まれ変わっていくこのプロジェクトは、しかしそれが単なる話題先行にはならずに4アーティストがクラシックの要素を活かしながら踊れるトラックへと作り変えており、面白さと質が伴ったリミックス集になっている。



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| TECHNO13 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Various - Best Of DKMNTL X Patta (Dekmantel:DKMNTL044)
Various - Best Of DKMNTL X Patta
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今やダンス・ミュージックのフェスティバルとして世界に名を馳せるアムステルダムのDekmantelだが、同時にレーベルとしても癖があり個性的なテクノやハウスのアーティストの作品をリリースしており、名実共にオランダのダンス・ミュージックの人気の高さを象徴する存在だ。2015年にはそのレーベルとファッション・ブランドであるPattaがコラボし、フェスティバル等で6枚のアナログを限定販売していたそうで、その中から3曲をベストとして抽出して一般リリースに至ったのが本作だ。現代バレアリックやイタロ・ディスコに造詣の深いYoung Marco、アムステルダムのアーティストであるTom Trago、近年途端に注目度が高まっているFatima Yamahaが選ばれており、流石に複数の曲の中から厳選された3曲だけにどれもアーティストの個性があり嘘偽りなく素晴らしい。何と言ってもYoung Marcoによる"The Best I Could Do (With What I Had)"の底抜けな多幸感、青々しい空が広がるような開放感に満ちたバレアリック・ハウスが一押しだ。疾走するグルーヴを生むキックやハイハット、そこに飛翔するように伸びていくシンセのコードが乗り、パーカッシヴな木琴系の音やメロディアスなシンセが彩っていく実に豊かな色彩感覚を持った曲であり、これは太陽光が降り注ぐ野外にぴったりな作風だ。対してTom Tragoによる"Brutal Romance"は真夜中の雰囲気が強く、ブリブリとしたベースラインが前面に出ながらドラッギーなシンセが妖艶なムードを発するエレクトロニックなハウスで、夜の熱狂的なダンスフロアさえも想起させる。そして最後はFatima Yamahaが彼らしいポップな電子音を用いて、メロウでスロウな哀愁の"The Creature From Culture Creation"を披露。どれも各アーティストの従来の音楽性が発揮されており、このシリーズのベストと銘打って纏められただけあり質も高く、パーティーの各時間帯で使えるようなお得な一枚だろう。

| HOUSE12 | 10:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
I'm Starting To Feel Okay Volume 6 10 Years Edition (Mule Musiq:MULE MUSIQ CD 44)
Im Starting To Feel Okay Volume 6 10 Years Edition
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本作のリリースにより何時の間にか日本発のMule Musiqが、設立10周年を迎えていた事に気付いた。そこで思うのは、日本に於いては個々のアーティスト活動は海外からも認められながらも、しかしダンス・ミュージックのレーベルが世界規模で運営を継続する事は非常に稀な事で、世界的に認められるレーベルはなかなか育たない。だがMule Musiqに関していえば傘下のMule ElectronicやEndless Flightなどを含めると、テクノ/ハウスだけに限らない音楽性と知名度に頼らない国内外の実力あるアーティストを起用する事で、多様性を伴うダンス・ミュージックを世界に展開してきている。インディペンデントな立ち位置を守りつつも世界へとダンス・ミュージックを発信する役割を担うMule Musiqの活動は、嘘偽りなくシーンの中で重畳な存在になっている。さて、そんなレーベルの10周年、そして「I'm Starting To Feel Okay」シリーズの6作目は、遂に2枚組へのボリュームへと発展した。国内勢ではKuniyukiにGonno、KzaやThe Backwoods、海外勢ではFred PやEddie Cに新鋭のMatt KarmilやMuskまで、手広く新旧実力あるアーティストの新曲を収録してMule Musiqの魅力をあまねく披露している。CD1はディープめのトラックからビートダウンにミニマルな作風が多いが基本はハウスのグルーヴで纏められており、CD2はニューウェーブやディスコにクラウトロックなどの影響も見受けられるダンス・トラックが中心かと思うが、特にどの作品からも感じるのは流行の音に寄り添う印象は受けずに(レーベル性・アーティスト性として)自分たちの音を持っている事だ。これだけレーベルが大きくなれば多少なりとも商業的な面が出てくるのは少なくない事だが、しかしMule Musiqにはそれとは相反する普遍的でありかつアーティストの個性を尊重する姿勢が伺えるのだ。規模が大きくなろうとインディペンデントな姿勢は崩さない、だからこそMule Musiqが高く評価される所以の一つだろう。そしてこのCDにはDJ Kent(The Backwoods)が本作に収録されている音源を使用してミックスを行ったDJMIXのダウンロードコードも収録されているので、MIXCDとしての楽しみ方も出来るようになっており、Mule Musiqの魅力を十分に堪能出来る作品である事は言うまでもない。



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| TECHNO11 | 09:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Deetron - Fabric 76 (Fabric Records:fabric151)
Deetron - Fabric 76
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これでもにもメジャーからアンダーグラウンドまで数多のDJを起用し、人気を博しているMIXCDシリーズ「Fabric」の76作目は、スイスを代表するテクノアーティストの一人であるDeetron。00年代のハードミニマル全盛の時代に芽を出し、そのハードなスタイルにデトロイト・テクノにも通じるメロディアスな要素を加えた作風は、その世代の中でも個性が際立っていた。そしてハードミニマルが衰退する中で多くのアーティストが作風を変え、Deetronもよりディープかつ歌モノを手掛ける事で、時代に即しながら活動を続けている。本音でいうと当初はそのスタイルにも疑問はあったのだが、このMIXCDを聴く事でそんな変化もようやく馴染んできたのではと思う内容で、デトロイト・テクノ/シカゴ・ハウスのクラシックから現在形のトラック、果てはダブ・ステップやロックまで持ち込んでDeetronの私的な好みも匂わせ、ハードなスタイルから感情の起伏を感じさせるスタイルへの転身が結実している。出だしでいきなりジャジーな"Picadillo (Carl Craig's Breakdown Version)"を用意し、そこからスムースに透明感のあるメローなテック・ハウスへ移行、そこからファンキーなシカゴ・ハウスへと即座に展開が広がっていく。RedshapeやRippertonらのモダンなテック・ハウスもミックスし、中盤ではクラシックであるGalaxy 2 Galaxyの"Timeline"をさらりと落とし込むが、大ネタを用いながらも大袈裟になる事はなく揺蕩うようなリラックスした流れは実に大人びている。前半は4つ打ちを中心としたテクノ/ハウスが中心だったのに対し、中盤以降はパーソナルな音楽性を表現するようにバラエティー豊かに変則的に刻むリズムや癖のあるメロディーを伴うブレイク・ビーツやダブ・ステップも織り込み、Deetronのメロウで柔軟な音楽性が素直に打ち出されている。しまいには物悲しくもサイケデリックなAtoms For Peaceの"Before Your Very Eyes"も飛び出すが、そこにディープかつミニマルな"Falling The Same Way (Dommune Version)"が繋がる瞬間には、はっと息さえ飲むだろう。そしてラスト3曲ではパーティーの興奮が終息するようにがくっとテンションを落とし、しみじみとした余韻を残すシネマティックな流れでミックスは終わりを迎える。結果としてここにはかつてのハードなスタイルは殆どなく、クロスオーヴァーとでもいう柔軟かつ豊潤な音楽性があり、そして何よりもエモーショナルなムードが通底している。Deetronが製作するトラックがエモーショナルな方向に傾いている事を考慮すれば、このMIXCDもその結果として自然なように感じられるだろう。




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| TECHNO11 | 13:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Awanto 3 - Opel Mantra (Rush Hour Recordings:RHM 007)
Awanto 3 - Opel Mantra
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オランダのRush Hourといえば予てからデトロイト・テクノやシカゴ・ハウスに可能性を見出し、その上でディスコやジャズにブロークン・ビーツまで多様性を許容しながら、ジャンル/アーティスト共にバラエティーに富んだ作品を手掛けてきた重要なレーベルだ。そしてこのAwanto 3による初のアルバムも、正にRush Hourの音楽性を的確に表現している。Awanto 3ことSteven Van Hulleは、新人というわけではなくKid SublimeとのユニットであるRednose Distriktや、最近ではTom TragoとのユニットであるAlfabetなど、もう10年以上も活動歴があるベテランなのである。とすればこのアルバムも新人らしい初々しさは全くなく、ベテランらしくよく練られた曲構成と豊かな円熟味がある内容となっており、Rush Hourの音楽性を堪能するには相応しいだろう。その多様性故か纏まりは感じられないかもしれないが、サンプリングによるであろうブロークン・ビーツとデトロイトの叙情性にファンキーなベースラインが絡む"Applecake"で、既にRush Hourの特徴を感じ取る事は可能だ。続く"Boogiedownpopke"ではディスコ・ネタを用いた重心低めのビートダウンを展開し、"Bubbles Made Me Cry"ではざらついたビートが艶めかしくも民族的な香りも発するディープ・ハウスを聞かせ…とアルバムは方向性の読めない位に多様なビートを鳴らしながら、最後には弛緩した陽気なホーンが和やかな空気を生み出すサンバな"Baila Con Paula"で幕を閉じる。例えばパーティーでのアンセムとなる飛び抜けたダンス・トラックはないものの、しかし全体を通して遊び心が溢れるその自由なマインドとそれを音として表現した手腕は見事なもので、アルバムという構成をしっかりと意識した内容だからこそ高く評価すべきであろう。







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| TECHNO11 | 14:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
Boysnoize Presents Dance Mania (Boysnoize Records:BNRCD020)
Boysnoize Presents Dance Mania
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今になって再評価をされるシカゴ・ハウスの系譜。それは日本においてもジューク/フットワークと呼ばれる音楽が人気を高めている影響もあるだろうが、そのルーツにあるのがシカゴ・ハウスやゲットー・ハウスであり、それを実践していたのがシカゴのInternational RecordsとDance Mania Recordsだろう。本作はその後者に対するドイツはBoysnoizeによるトリビュートアルバムで、Dance Maniaにとってもハードなスタイルを強めてテクノ/エレクトロに接近した頃の音に注力している。Boysnoize周辺のアーティストが楽曲を提供しているが、注目すべきはゲットー・ハウスの代表格でもあり現Dance Maniaを主宰するDJ Funkの参加だろう。やはりオリジネーターだけでありこのトリビュート盤と言う名目の中でも、安っぽさと荒っぽさを活かして圧倒的にオリジナルの個性を放つパンピンなゲットー・ハウスを披露しているのだから、心から笑いが止まらない。他のアーティストによる曲もゲットー・ハウスを意識はしていて、無駄な音は削ぎ落とし極力肉付けを抑えたシンプルな構成と前のめりなスピード感のあるグルーヴを生み出してはいるものの、やはりオリジネーターに比べるとネジが外れたような狂った感覚は控え目であり、現在の音らしく整ったゲットー・ハウスという印象を受ける。とは言え、ゲットー・ハウスにあまり馴染みのない当方のような人にとっては新鮮な音には聞こえるだろうし、深く考えさせられる事もないこんな(良い意味で)バカげた音楽も、たまに聴くとテンションが高まりすっきり爽快な気分にさせてくれる。愉快痛快なパーティー・ミュージックを聴きたい人は、今こそゲットー・ハウスがお勧めだ。



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| TECHNO11 | 09:30 | comments(0) | trackbacks(1) | |
Tom Trago - The Light Fantastic (Rush Hour Recordings:RHM-006CD)
Tom Trago - The Light Fantastic
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"Use Me Again"がフロアで大ヒットし一躍注目を集める事となったTom Tragoだが、その勢いも止まずにデビュー以来蜜月の関係にあるRush Hourより3枚目のアルバムをリリースしている。どうしても前述の派手な作風が目立ってしまうのは仕方ないものの、アルバム自体は音楽性を重視するRush Hourとの関係を裏切らない粒揃いで堅実なダンスアルバムで、Tragoが単なる一発屋でない事を証明する作品だ。これからの盛り上がりを予感させる序章的なディープ・ハウス"The Light Fantastic"で幕を開けると、次の"True Friends"ではヴォコーダーを通した未来的なボーカルと無駄の無いシンセ音で構築されたエレクトロが待っている。続く"For The Children"でもテンポを上げる事はせずに、初期デトロイト・テクノのようなブリブリしたベースラインと原始的なテクノを使ったダウンテンポが聞けるが、"Down Under"ではじわじわと下からアシッドのベースラインが迫り上げるダークな展開が夜の狂騒へのトリガーとなる。圧巻は終盤だろうか、ジャズをサンプリングしたであろう幕開けからフィルター・ハウスへと雪崩れ込む"The Elite"は、ファンキーなシンセサウンドが切り刻まれたように配置されて、大胆なブレイクも挟む事で"Use Me Again"にも匹敵する大箱トラックだろう。次の"Two Together"もディスコ・サンプルを執拗に反復させ、切れ味鋭いファンキーなハウスへと仕立てあげている。そしてその後の"The Right Wrong"では一旦息を入れるように土着的なパーカッションに幸福感が満ちたピアノコードを絡ませ、爽やかなアフロの風を吹かしている。このように一枚のアルバムの中で多様なジャンルから要素を持ち込む折衷主義と、落ち着きと盛り上がりが丁寧に入れ替わっていく展開には、単に曲をツールとしてみなすだけではない全てを纏め上げるプロデュースとしての素質が表れているのだ。予想を裏切って全編楽しめるテクノアルバムである。

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| TECHNO10 | 12:00 | comments(0) | trackbacks(0) | |
2013/12/7 Groundrhythm 11th ANNIVERSARY @ Air
井上薫がレジデントを務めるgroundrhythm。Airがオープンしてからはその場所で最も長く続いているレギュラーパーティーだが、遂に11年目が終わると同時に12年目へと突入する。移り変わりの早いクラブミュージックの業界に於いて10年以上もの継続した活動は簡単なものではないものの、ディープ・ハウス〜テクノと時代と共に音楽性に変化を見せながらコスモポリタンな個性を主張したミュージック・ジャーニー的なDJプレイだからこそ、今でもファンを魅了しながらgroundrhythmは続いている。そして11周年のアニバーサリーは外部からゲストを呼ぶこともなく井上薫によるロングセットがメインとなるパーティーであり、groundrhythmが井上薫と言うアーティストを中心に動いている事を強調する一夜となった。
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| EVENT REPORT4 | 00:00 | comments(2) | trackbacks(0) | |
Masterpiece Created By Carl Craig (Ministry Of Sound:MOSCD303)
Masterpiece Created By Carl Craig
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ジャンルを限定せずにダンス・ミュージックに於ける重鎮を起用して人気を博しているMIXCDシリーズ「Masterpiece」、その最新作には遂にデトロイト・テクノの中心に居座り続ける重鎮・Carl Craigが登場した。彼について言及しておくとアーティスト的な面でデトロイト・テクノをそこからより多方へと飛翔させた手腕の評価は誰もが認めているだろうが、その一方DJ面については大箱やレイブでは受けはするであろうド派手なプレイが際立ち、求道的に個性を確立させた音はそれ程聞こえてはこない。ここで本作に注目するとMIXCDはCD1の"Aspiration"だけであり、他は"Inspiration"と"Meditation"のコンピレーションとなっているので、つまり彼のDJに然程魅力を感じていない人に対しても十分な価値を持たせるものとなっている。

"Aspiration"について言えばデトロイト発のアーティストの作品を多用はしているものの、ここでは殆どデトロイト・テクノ的なエモーションを感じられる瞬間は無いだろう。出だしこそKyle Hallによる凶悪なアシッドテクノで強い印象を打ち付けるが、そこからはヨーロッパ的なテック・ハウス/プログレッシヴ・ハウスの端正な電子音を打ち出して、スムースなミックスを施しつつズンドコしたグルーヴ感と心地よい陶酔が広がるテック感を継続させ、良い意味では万人受けしそうな分り易い展開を作っている。後半ではヒット曲の応酬でフィルター・ディスコやデトロイト・ハウスにオールド・エレクトロなどCarlの派手な音楽性が見事に炸裂しており、盛り上がりと言う観点からすると十分な内容ではある。決して長年の経験を重ねた深みがあるわけではないが、大箱でのプレイを体験するようなエンターテイメントとして楽しめるMIXCDとして価値はあるだろう。

そして”Inspiration”はそのタイトル通りにCarlが影響を受けた音楽を選び抜いており、アーティストの背景を知る楽しみを持ち合わせている。年代もジャンルも多岐に渡り、ファンクにレゲエやダブ、ヒップホップにR&B、ジャズやボサノバ、そして勿論テクノまで収録しており、こんな選曲をクラブでは無理だとしても今回のようなプロジェクトの中でMIXCDとして披露すれば余計に面白いのではと思うところもある。

本作でリリース前に最も注目を集めていたのは"Meditation"ではないだろうか。なんと全曲未発表曲でボリュームはアルバム級と、つまり久しぶりのオリジナルアルバムと考えれば熱心なファンが反応するのは当然だろう。しかし"黙想"と名付けられているようにここには彼らしいファンキーなグルーヴも実験的なサウンドも無く、沈静化したアンビエントが広がる正に"Meditation"な音が待っている。フロアからは遠ざかった神妙で張り詰めたムードがあるが、その一方では電子音と戯れながら自由に音を鳴らしたようなラフスケッチ的な印象も受け、作品としては少々煮え切らなさもある。ただ目を閉じ音に耳を傾ければ、世の中の喧騒から解き放たれ雑念も消えるような瞑想音楽としては確かに合っているようでもあり、就寝時のBGMとして心地良さそうだ。Carlによる最新のダンス・ミュージックが聴きたかったのも本音だが、先ず先ずは新作が聴けただけでも嬉しい限りだ。

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| TECHNO10 | 17:00 | comments(0) | trackbacks(1) | |
Tom Trago - Iris (Remixes) (Rush Hour Recordings:RH 114 RMX)
Tom Trago - Iris (Remixes)
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オランダからデトロイト・テクノ/シカゴ・ハウスの復権を促すRush Hour Recordingsから、Tom Tragoの新作はなんとシカゴレジェンドのTyree Cooperをボーカルに迎えたリミックス集。しかもリミキサーにはこれまたシカゴ・ハウスの巨匠であるLarry Heardに、Firecracker Recordingsを主宰するLinkwood、そしてブルガリアからのKiNKを起用と話題性も抜群の一枚。格段に素晴らしいのが完全にLarry節全開となる"What You Do (Larry Heard's Fingers House Dub)"で、憂いを帯びた切なく物悲しいコードを展開するキーボード使いが素晴らしく、しみじみとした枯れ具合が心にそっと染みこんで労る様です。無駄を省いたシンプルなベースラインやキーボードの旋律などが目立つものの、何処までも丁寧に作り上げた作風こそLarryの心情を雄弁に物語るこれぞディープハウスと言う一曲です。一方Linkwoodによる"Being With You (Linkwood Remix)"は、フランジャーをかけたハットで抑揚を出しつつや浮遊感のある幻想的な上モノが広がり、それが未来的な初期デトロイト・テクノを思わせる良作。また音自体は綺麗だけれども懐かしさを感じさせる素朴な音色で満たされており、それが余計にメロウさを際立てています。一番シカゴ・ハウスらしいのが"What You Do (KiNK's Peaktime Remix)"で、ザクザクとしたハイハットや汚らしいスネア、不安を誘うオルガンのメロディーに狂気じみたTyree Cooperのボーカルが乗っかり、前述の二曲とは全く異なる暴力的なリミックスとなっています。全曲文句無しに素晴らしく、是が非でも聴いて欲しい一枚です。

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Check "Tom Trago"
| HOUSE7 | 12:30 | comments(0) | trackbacks(0) | |