2018.08.22 Wednesday
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ミニマル・ダブという音楽を軸にその時その時でIDMからトライバル・テクノ、アンビエントからレゲエ等野心的にも振り幅を持って展開するベルリンを拠点にして活動するカナディアン・アーティストのDeadbeat。元々はエクスペリメンタルなダブを持ち味としていた~scapeをベースに活動していた彼が、しかしそのレーベルの閉鎖後にその音楽性を継承するBLKRTZを設立後は、無駄な音を削ぎ落としながら比較的ルーツ・レゲエ/ダブへと傾倒しているのだが、それでも例えばダブ・ステップの激しく躍動するビート感を取り入れたり、または長いドローンを用いたりと常に流動的にその音楽に対する意欲は留まる事を知らない。そして本作では全ての楽曲にボーカリストを迎えているのが特徴で、何とThomas FehlmannやMike ShannonにMarco Haas(aka T.Raumschmiere)らボーカルを本業とはしないアーティストらに「希望のメッセージ」を募り、各々が語った言葉を各曲に用いたというコンセプチュアルなアルバムになっている。比較的ダンサンブルでテック・ハウス気味でもあった前作『Walls And Dimensions』(過去レビュー)に比べると、本作のトラック自体は弛緩したアフタービートが心地好いルーツ・レゲエ/ダブのグルーヴへと戻っており、そこに薄いドローンの音響等を用いて繊細で研ぎ澄まされたダブ空間を作り上げている。出だしの"Martin"こそリズム無しの催眠的なドローンの持続の上に残響混じりの呟きを用いたアンビエントだが、そこから途切れずに続く"Steve And Fatima"では湿りながらも変則的でトライバルなリズムと淡々とした朗読、そして生温いオルガンや微かなピアノを用いて有機的なダブ感覚を打ち出しており、スピード感を抑えながらもゆったりと波乗りするようなグルーヴに揺らされる。そしてシームレスに続く"Gudrun"では湿度を帯びて深みのある朗読にやはり揺蕩うように横揺れするダブ〜レゲエ調の淡々としたビートに、遠くの地で鳴っているような微かなドローンが奥行きを作って、研ぎ澄まされた繊細な音響のミニマルダブに仄かな情緒感さえ加えている。どうやら本作は全ての曲が途切れる事なく繋がっているようだが、4つ打ちではない溜めのある変則リズムも相まって、MIXCD的な流れがねっとりしたスローモーなビートながらも実に躍動的で肉感あるグルーヴに自然と身体も反応する。後半のFehlmannに触発されたようなシャッフル調のヒプノティックなダブ・テクノである"Thomas"から、特に攻撃的で猥雑さが強調されたダンスホール色が打ち出た"Me And Marco"への流れも、アルバムの中でエネルギッシュな時間帯で熱く込み上げるものがある。Deadbeatらしくダブ〜レゲエ〜アンビエント〜テクノと様々な要素を盛り込んで貪欲に広がりを持たせつつも、軸よりルーツへの先祖返り的なトラックが中心となっており、だからこそトースティング的な各アーティストの言葉も上手く馴染んでいる。ここ数年のDeadbeatの作品を聞いてみると、やはり無理にダンサンブルにするよりはテンポを抑えた本作のようなレゲエ/ダブ方向が一番しっくりはまっていると思う。
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